Sep. 2024No.103

競争より協創産官学連携による共同研究の現在

Essay

日本の科学技術の明るい未来のために

Hiroshi Kataoka

国立情報学研究所 所長代行/副所長

今年2月、日本のGDPがドイツに抜かれて世界4位に転落したと報じられた。日本経済の「失われた30年」とよく言われるように、1人当たりGDPは、2000年に日本は世界2位だったが、2010年に18位、2022年に33位まで転落している。

科学技術分野の指標でも懸念すべき状況が示されている。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術指標2024」によれば、日本の論文数(2020~22年平均)は、中、米、印、独に次ぐ5位だが、注目度が高い論文(他の論文に引用された回数が各分野で上位10%に入るトップ10%論文)の数で、前回と同じ過去最低の13位(前回、イランに抜かれて12位から転落)。日本は20年前は4位だったが、それ以降順位が下がり続けている。また、引用数が極めて多い「トップ1%論文数」も、前回と同じ12位(前回、10位から転落)。

もちろんこれらの指標が全てではないが、1995年の科学技術基本法(2021年科学技術・イノベーション基本法に改正)制定後、5年毎の科学技術基本計画(今は科学技術・イノベーション基本計画)策定、2001年の総合科学技術会議(今は総合科学技術・イノベーション会議)設置等、科学技術振興に力を入れてきたはずなのに、一体どうしたことだろうか。

研究開発費総額や研究者数は、米中の近年の大幅な増加に対して、日本は伸びが小さく停滞しているが、順位は世界3位を維持している。とすると、それらが研究力低下の要因ではないように思える。

令和4年版科学技術・イノベーション白書は、日本の大学を対象としたNISTEPの分析を紹介し、近年の論文数の減少要因として、教員の研究時間割合の低下、教員数の伸び悩み、博士課程在籍者数や直接的に研究実施に関わる費用の停滞といった要因を挙げている。また、研究パフォーマンスを高める上での制約に関するアンケートを基に、具体的な制約として、教育負担や大学運営業務によって研究時間が確保できないことや、基盤的経費の不足等によって研究資金が確保できないことを挙げている。

日本の科学技術関係予算は、2024年度に当初予算4.9兆円となり、2001年度(3.5兆円)に比べ4割増えている(これに補正予算等を加えた額は近年特に大幅に増え、2022、23年度は9.5兆円近くになっているが、補正予算では研究者を雇用することができない)。特に競争的資金は数も予算も増えたが、多様な研究シーズを生み出す元になる基盤的経費は減り、不足している。人材問題も深刻で、博士課程の入学者数は2003年度をピークに長期的に減少傾向にある(2023年度は4.4%増に転じた)。大学の本務教員に占める40歳未満の割合も減少し続けている。

研究力低下については、既に様々に議論され、施策も講じられてきているが、まだ具体的な成果が上がっているようには見えにくい。私も科学技術行政に携わり、持ち場では最善を尽くしてきたつもりだが、局所最適が必ずしも全体最適にはならないということも大きいのではないか。今こそ国全体として叡智を結集して総合的・中長期的な検討を徹底的に行い、全体最適を実現して日本の科学技術の明るい未来を切り拓く努力が必要であろう。一方、NIIに関して言えば、科学技術において情報、データ、AIの役割は今後ますます大きくなり、NIIはその中核にいるので、果たすべき役割は大きいと思う。例えば、生成AIについては、NIIでもいち早くLLM-jpという活動を立ち上げて国産LLMの開発等オープンな共創の取組を進め、今や1,600人(2024年7月現在)を超す産学の人々に参加頂いている。本年4月からは文部科学省からの予算により大規模言語モデル研究開発センターを設置したところである。このような取組をますます発展させていくことが重要である。

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