Interview
共同購入で予算大幅セーブ!
アクセス回線共同調達の意義と効果
データセンター(DC)のSINETルータと加入機関間のアクセス回線費用は各機関の負担となる。国立情報学研究所(NII)は各機関に呼びかけ、負担軽減のための共同調達を実施した。そのメリット・デメリットや、課題を聞いた。
阿部 俊二Shunji Abe
国立情報学研究所
アーキテクチャ科学研究系 准教授
SINET利用推進室長
----アクセス回線の共同調達[1]の目的は何でしょうか。
加入機関のアクセス回線の経費負担を軽減するために共同調達をSINET4 から始めました。
----共同調達による経済的メリットを生かすということですね。
そのとおりです。共同購入によるボリュームディスカウント効果で、直接的な経費負担の軽減が期待できるのはもちろんですが、共同調達に参加しない加入機関が単独調達する際もなんらかの価格交渉が可能なので、結果的にディスカウントを引き出すことが期待できます。
----逆に共同調達のデメリットというのはあるのでしょうか。
共同調達にあたっては、基本的な仕様をNII が策定していますが、その仕様に満足できない加入機関は参加が難しいという面があります。もちろん仕様を決める際には各加入機関へアンケートなどで要望のヒアリングを行いますが、「4 月1 日開始」というスケジュールや、「6年間」という契約期間(途中解約不可)にはどうしても合わせていただかなければならない。そこがネックとなって参加できないケースもあり、その場合は個別調達となります。
想定以上の節約共同調達参加者が大幅増の相乗効果
----今回の共同調達はSINET5 の時と比べると大幅に参加者が増えました。その要因は何ですか。
SINET5 で共同調達した回線数が117 だったのに対して、今回は222回線ですから、9 割程度増加したことになります。
共同調達による大幅な費用の節約が大きな要因のひとつではないかと思います。
もうひとつは、SINET5 の運用開始当初、回線を共同調達した加入機関で、本来の性能が出ないケースがあったのですが、その際に細かいチューニングのお手伝いをするなど、ユーザーサポートを丁寧に行いました。そうした信頼関係も含めた運用の安定性も、共同調達への参加を増やす要因となったかもしれません。
----今回はコロナ禍での共同調達でした。苦労した点は。
やはりルータなどの通信機器の納期の遅れです。
コロナ禍による半導体不足の影響などもあり、ルータの納期が大幅に遅れる事態になりました。
また、光ファイバーや通信機器などの確保が大変であることは、共同調達開始前の段階から情報は得ていたのですが、想定した以上の遅れとなってしまいました。
当然、加入機関側もそれぞれの計画のもとで動いていますから、納入が遅れると希望している時期に開通できないなど、大きな影響を受けます。「いつになるのか」など、加入機関側からのさまざまな問い合わせやお叱りをいただき、窓口担当は特に苦労が大きかったと思います。
いかに個別のニーズを盛り込むか
----ほかにも共同調達の課題はありますか。
共同調達の仕様を調整することです。多くの加入機関に参加していただける仕様にするためには、それぞれの加入機関のニーズを適切に取り込んで、仕様を策定していく必要があります。
できる限り多くの加入機関の事情をくんで、仕様に盛り込みたいと考えていますが、仕様を策定する側の人的リソースが不足していることや、個別要求を入れた場合にコスト高となる懸念もあり、なかなか難しかった。現状では最大公約数的な仕様で進めざるを得ません。
----今後の展開について。
仕様についてはバランスを取りながら、多くの加入機関が共同調達に参加していただけるように改善していきたいと考えています。
また、安定したサービスを提供することも重要です。万が一障害が発生しても迅速に復旧できるのか、今後のSINET6 の運用実績で、評価が問われるところでもあります。
加入機関に「共同調達に参加して良かった」と思っていただけるような運用を、関係スタッフともども協力しながら進めていきたいです。
[1]共同調達
共同調達の範囲はアクセス回線と監視保守業務、DC側の設置スペース経費、設置作業、撤去作業。回線メニューは400G、100G、10G、1Gの4種類で、各加入機関がそれぞれの環境に合わせて選択が可能。
(取材・構成 遠藤 宏之)