Interview
5Gモバイルと400Gbpsの融合
世界に先駆けるモバイル活用が新たな未来を切り開く
SINET6は第5世代移動通信システム(5G)にも対応できるように進化した。5Gモバイルが、SINET6と結びつくことで、どのようなことが可能になり、どのような将来が開けてくるのだろうか。

笹山 浩二Koji Sasayama
国立情報学研究所
学術ネットワーク研究開発センター 特任教授
----5G とSINET の融合の持つ意味はどういうところにありますか。
学術ネットワークにモバイル機能を持たせているのはSINET が世界初、かつ現在でも唯一で、これは2018年末に始まっています。
モバイルSINET の特徴は、ネットワークを既存の民間キャリアから借りつつも、VPN(仮想専用網)[1]を構築して、SINET と直結していることです。端末とSINET、大学等の計算機環境がセキュアに構築されるのが大きなポイントです。
そしてSINET6 の400Gbps 回線に5G のモバイル網を融合させました。
5G のメリットの一つは大容量高速性で、理論上は1Gbps(4G) が10Gbps(5G) と一桁向上。これにより大容量のデータを迅速に収集・転送が可能になります。また、超低遅延であることから、遠隔でのリアルタイム制御の可能性が広がるうえ、多数同時接続が可能なため、センサ数を格段に増やすこともでき、今後広がっていくIoT(Internet of Things)の世界で、多数のセンサ情報の取得や機器制御が行えるようになります。
学術分野において、研究とはキャンパスの中、研究室の中だけで行われるわけではなく、農場や山岳、海洋などのフィールドで実験されている方は大勢います。また現在は遠隔医療の研究も盛んです。例えば北海道大学と九州大学の間で実証実験も行われていますが、将来的に遠隔手術を考えた場合に、操作側と動作側に遅延があっては、とても実用にはなりません。しかし5G の超低遅延性があれば、実用化に大きく近付くことができます。
このように、様々なところで5G 化によるモバイルSINET の進化は大きな力を発揮することになります。
ローカル5G との接続で人がいない場所でも有効
----SINET 上で5G モバイルを活用するにあたっての課題は何でしょう。
将来的には、各大学レベルでのローカル5G[2]の構築と発展が欠かせないと思います。
すでに日本国内でのモバイル・ネットワークのカバー率は人口ベースでは99%に近づいています。しかし今後のIoT の発展のなかでは、人がいない場所に配置されたセンサや機器の重要性が増してきますから、現時点では50 ~ 70%しかない面積ベースのカバー率の向上も重要になってきます。民間キャリアによるパブリックなサービスは、ビジネスとして採算がとれる範囲しかカバーできませんから、その隙間を埋める意味でも、ローカル5Gの整備は重要です。
現在、5G モバイルSINET は、民間キャリア網の中にSINET 専用の仮想網を形成し、それをSINET のVPN と結合した民間キャリア網に依存するものですが、将来的には各大学や研究機関が持つローカル5G との連携が主役になっていくのではと想像しています。ローカル網の設置に関して日本は法整備の面で世界でも先進的な位置にありますが、これは学術分野にとっても非常に大きなメリットがあることだと思います。
なお、SINET におけるローカル5Gの構築に関しては、すべての機能を個々の大学に置くのではなく、ユーザー管理やスイッチなどの集約できる機能はSINET 上に置き、複数のユーザーで共用する一種のクラウド・モデルとしていることも大きな特色です。
また、SINET とローカル5G 間のアクセス回線には、すでに使用されている各大学のLAN とSINET を結ぶ大容量回線を活用します。これでローカル5G 構築のためのコストを引き下げることができるのです。
----今後の展望について。
モバイルSINET の最大の課題は、「ローカル5G をどれだけ流行らせることができるか」です。
4G に比べ5G は未だビジネスとして競争環境が進んでいないため、大学側も、どうしても整備にコストがかかります。そのためスモール・スタートにならざるを得ません。
昨年(2021年)度の段階で、4 つの大学との共同研究としてローカル5G構築の実証実験に着手しています。今後は、5G モバイルに関する優れた研究テーマを地方大学まで範囲を広げて公募し、採択された一部の画期的なテーマに対しては、大学に設置するローカル5G 基地局をSINET との共同研究などで整備することも検討しています。これはローカル5G をいち早く全国展開することを目指した構想の一環です。
このようにして、グッド・プラクティスを積み重ねていくことで、ローカル5G の普及に弾みをつけていきたいと考えています。

[1]VPN
Virtual Private Networkの略。通信網の中に特定機関のみが利用できる専用網を形成する技術。
[2]ローカル5G
企業や自治体、大学などがニーズに応じて限られた範囲で独自に構築・利用できる5Gネットワークのこと。
(取材・構成 川畑 英毅)