Mar. 2023No.98

情報学が導く世界挑戦と進化の10年

Essay

新しい大学の姿を目指して

YASUURA, Hiroto

九州大学名誉教授
国立情報学研究所 副所長
同所学術基盤チーフディレクター
同所特任教授

 過去、半世紀にわたる情報通信技術の飛躍的な進歩は、まさに人類の活動における時間や空間の制約を大きく緩和してきました。技術の進歩により、社会の構造も大きく変わってきた中、大学も変化の分岐点に来ています。

 日本の大学の多くは、欧米の大学を参考にして、明治後期から大正期に作られた国立・私立の大学を典型例として、その多くが20世紀後半に創設され、現在では約800校が教育や研究にあたっています。そこには、大学の運営を主導する執行部と事務組織があり、学生や教職員が学び働くキャンパスと教室や図書館などの建造物や各種の教育・研究設備、そして、学生や教職員の活動を支援する各種の組織やサービスがあります。

 しかし、その多くは、現在の情報通信技術の存在を前提とせずに基本構造が構築され、部分的に情報通信技術を導入して順次改善を図ってきました。しかし、社会全体の変化の中で、大学も新しい情報通信技術の存在を前提とした組織へと変化することを要請される時代となってきました。

 本特集の、喜連川所長がNIIの所長としてその機能を拡充されてきた期間は、まさにこのような変革が水面下で進み、COVID-19を契機に一気に表面化した10年であったと言って良いと思います。2020年春から世界を襲ったCOVID-19の感染拡大は、当初は未知の脅威であり、多くの大学がキャンパスを閉鎖し、情報通信技術を活用した遠隔講義や遠隔会議などを通して、教育研究活動を継続することを余儀なくされました。

 この危機の中で、多くの大学がその教育・研究機能を、一時的な機能停止と遠隔講義などの代替手段によって素早く機能の回復ができたのも、各大学とNIIなどによって準備されてきた新しい情報基盤整備の賜物であったといって良いと思います。さまざまな教育・研究活動を支える仕組みが、各大学が整備してきた各種の情報基盤とNIIが整備してきたSINETで接続されたクラウド上の情報基盤に支えられた各種プラットフォームや認証システムでしっかりと担保できるように準備されており、それが威力を発揮しました。

 これを機に、新しい大学の姿が広く議論されるようにもなりました。大学の運営組織は、まとまった場所にある必要があるのか? 運営に必要な施設や設備あるいはサービスは、複数の大学で共有できないか? 教育や研究を支援する組織やサービスを大学間で共有するプラットフォームは作れないか? そもそも大きな図書館やキャンパスは必要か? このような議論の中には、大学の設置基準などの法律も含む制度改革から新しい大学組織を支える人材の育成や組織構造の根本的な改革を必要とするものも少なくありません。情報基盤に関係する者だけでなく、広く教育や科学技術に関わる関係者の真剣な議論を必要とする時期に来ています。

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