Jul. 2020No.88

ITを活用した新型コロナウイルス対策教育や研究活動を止めないために

NII Today 第88号

Interview

サイバーシンポジウムはいかに開催されたか

DEIM2020の『壮大な実験』とは

 2020年3月2〜4日の3日間に渡って開催された「第12回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム/第18回日本データベース学会年次大会(DEIM2020)」は、日本初の大規模なオンラインによる学術シンポジウムとなった。563人がオンラインで参加。73件の口頭発表セッション、2つのインタラクティブセッションなどが行われ、大きなトラブルが発生することなく無事に終了した。オンライン開催の意向を固めてからわずか2週間での開催。短い準備期間でDEIM2020を成功に導くことができた理由はどこにあったのか。計画や運営に携わったメンバーにその挑戦を振り返ってもらった。

宮崎純

Jun Miyazaki

DEIM2020フォーラム委員長。
東京工業大学情報理工学院教授。1992年東京工業大学工学部卒、1997年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。大規模データ基盤とその活用に関する研究に従事。

合田和生

Kazuo Goda

DEIM2020実行委員長。
東京大学生産技術研究所准教授。2000年東京大学工学部卒業、2005年同大学院単位取得満期退学。博士(情報理工学)。大規模データを対象とするシステムソフトウエアの研究に従事。2019年より現職。

横山昌平

Shohei Yokoyama

DEIM2020プログラム委員長。
東京都立大学システムデザイン学部准教授。2006年東京都立大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。株式会社オリエンタルランド、産業技術総合研究所、静岡大学情報学部を経て2018年より現職。データ工学の研究に従事。
*DEIM2020が行われた2020年3月まで首都大学東京。

吉田尚史

Naofumi Yoshida

DEIM2020プログラム副委員長。
駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授。2001年筑波大学大学院博士課程工学研究科修了。博士(工学)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師を経て2018年より現職。データ工学に関する研究に従事。

状況の悪化で、一時は開催を断念

 「データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム/日本データベース学会年次大会(DEIM)」は、データ工学と情報マネジメントに関するさまざまな研究テーマについて、討論や意見交換を行うことを目的にした合宿形式の年次シンポジウムだ。電子情報通信学会データ工学研究専門委員会と日本データベース学会、情報処理学会データベースシステム研究会が主催。毎年約600人の学生、大学や研究機関、企業の研究者が参加し、データ工学と情報マネジメントの二つの分野に関する数多くの論文が発表される。
 今年のDEIM2020は、福島県の磐梯熱海において、例年通り合宿形式での開催を予定していた。「朝から夜まで侃々かんかん諤々がくがくの議論を繰り広げるのが特徴」で、参加者同士が、膝を突き合わせて議論し、情報交換するのがDEIMの醍醐味である。
 DEIM2020実行委員会では、2020年3月2日からのDEIM2020の開催に向けて、前年4月から準備を進め、同年12月25日には論文の募集締め切りを迎えた。このとき、すでに中国では新型コロナウイルスの感染が広がり、日本でもその報道がされつつあったが、シンポジウムへの影響はまだ軽微だとみられていた。だが、参加登録の受付が始まった2020年1月20日頃から状況はかなり変化してきた。中国・武漢では急速に感染が拡大し、都市閉鎖の準備が進められ、日本でも最初の感染者が確認された。
 「その時点では、参加予定者と主催者団体には予定通りに開催すると報告していたが、実行委員会のなかでは、並行して対応策を検討し始めていた」と、DEIM2020の実行委員長を務めた東京大学の合田和生准教授は振り返る。「DEIMの特徴は合宿形式で、密集したり、密接したりといった状況を生む可能性が高い。さまざまな可能性を視野に入れながら検討していた」という。
 その後、日を追うごとに、感染症の広がりが加速。政府のチャーター便で中国から帰国した人たちを隔離する措置が取られ、一部の企業では海外からの帰国者に一定期間の出社の自粛を求め始めた。
 2月6日に実行委員会が参加予定者に送ったメールでは、会場での開催予定はそのままとしたものの、感染が急拡大していた中国からの参加には制限を行う措置を発表した。「そもそもDEIMはオープンであることが前提。この時点で参加者の制限を行うことも苦渋の決断だった」と合田実行委員長は語る。
 だが、感染拡大の勢いは、さらに全世界へと広がり始めた。さらに2月14日のメールでは、会場となるホテルやイベント支援事業者と、会議運営における衛生管理などについて議論を進めていることも報告した。この時点でも、会場での開催の可能性を模索し続け、学生などに論文発表の場を失わせないための努力が行われていたのだ。
 しかし、週明けの2月17日、実行委員会は福島での開催の中止を決定することとなる。
 「DEIMが感染症を起こすクラスターとなりうる可能性があると判断した。参加者も、不安を感じながら参加しなればならない状況では落ち着かない。参加者を危険にさらすわけにはいかず、もはや合宿形式での開催は断念せざるを得なかった」と合田実行委員長は語る。

「学生から発表の機会を奪うべきではない」という想いから実現へ

 合宿形式での開催中止に動いた背景の一つに、横浜港沖に停泊中だったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」における船内感染の拡大があった。クルーズ船と同じ状況を生み出す可能性が捨てきれなかったのだ。
 それでも、その判断は難しいものだった。DEIM2020は、500人以上が参加する巨大学会である。すでに発表プログラムも確定し、ほとんどの参加者は参加登録手続きを終え、福島への旅行の手配を完了している。
 実は1月下旬から実行委員会はさまざまな事態を想定し、主催団体や会議場、宿泊施設といった関係団体とともに、万が一福島での開催を断念せざるを得ない場合への対応を進めていた。日本データベース学会の会長も務めるNIIの喜連川優所長も、DEIM2020フォーラム委員長を務めた東京工業大学の宮崎純教授に、リスクヘッジの検討を提案していた。「会場のホテルやイベント支援事業者の協力もあり、2月17日の1日で合宿形式での中止を即断することができた」と合田実行委員長は語る。
 それでも実行委員会を最後まで悩ませたのは、DEIMに投稿された論文の発表をどう扱うかであった。オンライン開催は検討材料の一つになっていたが、これだけ大規模なシンポジウムをオンラインで開催する前例がないこと、それにも増して、リアルの場がない論文発表という常識を覆さなければならないことも大きな壁となっていた。
 「学会組織にはオンラインで開催するためのインフラも経験も全く足りない」と実行委員会からの相談を受けた喜連川所長は、「学生の貴重な発表機会を奪うべきではない。今、オンラインで学会を開催できるのはIT屋しかいない。我々が挑戦せずして、誰がやるのか。NIIも一緒に挑戦する」と、実行委員会のメンバーに発破をかけたのだ。
 宮崎フォーラム委員長は、「2011年の電子情報通信学会総合大会は、東日本大震災の影響によりリアルの学会発表は行わず、論文集の配布だけを行ったという前例がある。当初はこれも想定したが、今ならオンラインがあると考え、挑戦を決めた」と言う。
 実行委員会は、すぐに行動を開始。NIIもわずか半日で技術支援班「DEIM成功させ隊」を編成する。両者による緊急チームの発足により、オンライン開催の実現に向けて動き出した。
 だが、残された期間はわずか2週間。その時点では、オンライン会議システムの構築や運用のための技術的な用意はまったくなく、どんな課題が待ち受けているのかも想定していなかったが、「学生から卒業論文や修士論文を発表する機会を奪いたくない」という想いが皆を駆り立てた。
 宮崎フォーラム委員長は、「最初は、シンポジウムの1割でも2割でも実現できるのだろうか、という不安しかなかった。残された時間も少ない。しかし、このような困難な状況だからこそ、情報学分野の学術団体が率先して挑戦することが重要だと考えた」と語り、この取り組みを自ら「壮大な実験」と位置づけて準備に挑んだ。
 合田実行委員長もそのときの心境を次のように語る。
 「終わってみれば、あれが駄目だった、これができていなかったといった不満の声が殺到するのではないかという不安はあった。その一方で、こんなことは誰もやっていない。それに挑めるという点では、ニヤリとする想いもあった」
 こうして、IT/ネットワークに関する知識とノウハウをもった学術分野における国内最高峰のチームが、オンラインによる初の大規模シンポジウムの開催に挑戦することになった。

3回の実証実験で手応えを感じる

 開催を決定して、最初に取り組んだのはオンライン会議ツールの選定だった。2月20日に、DEIM2020実行委員会と、NIIの「DEIM成功させ隊」が、NIIの会議室とコアメンバーの自宅などをつないだ会議を行い、WebexやZoom、Skype、Amazon Chimeなどのオンライン会議ツールを実際に試用してみた。その結果、シスコシステムズのWebexに決定した。
 「どのツールもシンポジウムでの利用を想定していないため、正直なところ『帯に短し、たすきに長し』という状況だった。短時間にツールを選定する必要があり、各ツールを丁寧に評価したわけではないが、そのなかで、管理者による一斉ミュート機能といった、使いたい機能や必要な機能がすぐに見つかったといった理由などからWebexを選択した」(合田実行委員長)と言う。
 翌2月21日には、第1回目の実証実験を開始。論文の口頭発表を予定している大学生等、約50人が実証実験に参加した。Webexを用いて、2時間ほど接続し、模擬的なセッションも実施した。
 プログラム副委員長を務めていた駒澤大学の吉田尚史教授は、「最初は、オンラインでシンポジウムが開催できるのかどうか、まさに半信半疑で臨んだ」と振り返る。
 接続して数分後、吉田プログラム副委員長の予感は、悪い方に的中した。初めてオンライン会議システムにつないだ大学生たちが、『つながった、つながった』と盛り上がり、その結果、さまざまな音が入り込み、まさにカオスのような状況に陥った。画像や音声をオンにした状態で多くの学生が接続したため、それらの音声が輻輳したのだ。外出先から参加している人のデバイスからは駅のアナウンスも聞こえてきた。
 「まとめ役がいないと、実証実験は失敗することになる」と、日常的にビデオ会議システムを活用している吉田プログラム副委員長は感じて、その場で自らまとめ役を買って出た。この動きが、のちにDEIM2020を成功に導く要因の一つになる。
 吉田プログラム副委員長は、まず、実証実験の参加者に、自分のデバイスのマイクやカメラをオフにすることを呼びかけた。そして、発言者以外はこれらの機能をオフにしないと会議進行がうまくいかないこと、帯域が確保しにくくなること、それによって音声や映像の表示が安定しなくなるといった、オンライン会議システム利用時の基本ルールを説明。また、論文発表の際の資料の画面共有の方法などを教えながら、シンポジウム開催に向けた技術的な検証も行った。ここでは、発表者が発表時に経過時間を確認できない、参加者が拍手できないといった要望を解決し、開始時間に座長や発表者がいなかったらどうするのかといったトラブル発生時の対策も検討した。
 「論文発表を行う学生にとっても、発表の仕組みや、用意した資料がそのまま共有できることが理解できた点は大きかった。実証実験開始の時点では不安が大きかったが、終了時には手応えを感じていた」(吉田プログラム副委員長)
 実証実験は3回行われた。2回目の2月25日は、各セッションの座長を務める大学の教員など約110人が参加。二つのセッションを同時に実施する実験も行った。3回目の2月28日は約120人が参加して、本番を想定した形で、10件のセッションを同時に開催し、ネットワークやシステムの技術的な検証も行った。
 「実証実験の参加者への呼びかけも前日か当日に行ったが、それでも多くの座長や発表者が参加してくれた。その点には本当に感謝したい」と吉田プログラム副委員長は語る。
 NIIの「DEIM成功させ隊」も、実証実験の段階から全面的に協力。帯域の確保やネットワークセキュリティの問題解決などに貢献したと言う。
 宮崎委員長は、「主に、ネットワーク面からの技術サポートを行ってもらった。ネットワーク帯域の確保やセキュリティへの対応のほか、オンライン会議システムで不足する機能の実装、大型ディスプレイやオンライン会議端末の確保、事務局スペースの用意、夜間や週末の対応など、短期間で対応してもらった。『DEIM成功させ隊』の協力がなければ、実証実験は成功しなかった」と言う。

成功のカギを握るマニュアルとポータルサイト

 実証実験を進めながら、吉田副委員長は座長向けマニュアルの制作に取りかかった。
 これは、「DEIM2020オンライン会議 座長向け情報」として、進行役を務める座長に配布された。セッション開始前には、どんな準備をするのか、集まった参加者にはどんな呼びかけを行うのか、時間管理はどう行うのかなど、会議の準備から運用に至るまでの手法がまとめられている。座長は、これを見ながらセッションを開催すればいいというわけだ。
 また、発表者や参加者にも、事前準備の方法や、発表の仕方や参加の仕方を丁寧に解説したマニュアルを提供した。マニュアル制作では、実証実験から得られたノウハウなども反映し、何度も改良していったという。
 「実証実験に参加していただいた延べ280名の方は既に経験をしているが、残りの参加者のなかには、初めてオンライン会議システムを使用する人も多い。ましてやこれだけ大規模なシンポジウムにオンラインで参加するのは初めての参加者ばかりである。マニュアルを提供することで、ストレスなく楽しく参加してもらうことをめざした」という。
 このマニュアルは、DEIM2020の成功を下支えしたといえる。そのため、現在は、「DEIM2020オンライン開催 虎の巻」として、GitHubで公開している。すでに、情報処理学会全国大会でも、このノウハウが活用され、オンラインによるイベントが開催されている。
 一方、参加者が迷わずに、目的のセッションに参加するためにも、多くの工夫が行われた。
 DEIM 2020では、会場での発表が予定されていたほぼすべての口頭発表セッションが、オンラインでそのまま行われることになった。論文の口頭発表セッションは73件にのぼり、同じ時間帯に最大10件のセッションが開催されることになる。参加者が目的のセッション会場に、間違いなく入れるようにするための仕掛けが必要だった。
 一般的なオンライン会議システムの場合、URLやミーティングIDが個別に送信され、それをクリックして参加することが多い。だが、その仕組みでは、500人を超える参加者に70件以上のセッションのURLを間違いなく配信することや、それをもとに参加者が迷わずに目的のセッションに参加することは困難だと判断した。
 そこで作成したのが、プログラムのタイムテーブルを一覧で表示したポータルサイトだ。プログラム委員長を務めた東京都立大学大学院の横山昌平准教授は、「参加者は、タイムテーブルから興味のあるセッションをクリック。そこに入ると、ボタンを押すだけで、会議に参加でき、論文もダウンロードできる。また、大人数が参加するオープニングセッションなどは、YouTube LiveとLINE LIVEで閲覧できるようにした。いずれも、直感的な操作で会議に参加できるようにした」と語る。
 このポータルサイトのおかげで、500人以上の参加者が迷うことなくセッションに参加でき、必要な資料をダウンロードできたというわけだ。

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 実は、さらに仕掛けがあった。横山プログラム委員長は、DEIM2020の開催に向けて、論文募集の際などに使用する査読システムや閲読システム、投稿システムを、DEIMのために最適化した形で再構築していた。ポータルサイトはこれをベースに作成したものだ。
 「昨年までは既存のオープンソースソフトウエアを活用してシステム運用を行っていましたが、今年は約1万5000行のプログラムを書いて、システムを再構築した。最適化した自前の仕組みを構築していたことで、わずか2週間という期間でポータルサイトへ展開することができた。」と横山プログラム委員長は振り返る。「このポータルサイトがなければ、DEIM2020は成功しなかった」と合田実行委員長は断言する。
 もう一つの見逃せない取り組みが、ポスターセッションやインタラクティブセッションを、オンラインで再現した点だ。
 ポスターセッションとは、会場に発表ポスターを掲示し、その前で説明者が参加者に説明して、議論をしたり、情報交換を行ったりするものだ。 「この仕組みを踏襲する形でポスターセッションを実現できないかと考えた」と横山プログラム委員長は語る。
 そこで、ポスターセッション専用のポ―タルをつくり、ポスターのサムネイルを一覧表示した。参加者は、興味のあるポスターをクリックし、PDFファイルをダウンロードすればいい。ここでは、同時に最大4人まで入れるようにして、活発な議論を行えるようにした。リアルのセッションの良さを生かしながら、その仕組みをオンライン上に構築したといえる。

オンラインならではの良さを実感

 3月2日の開催初日、DEIM2020実行委員会のコアメンバーは、東京・一橋のNIIの会議室に集まった。ここから、DEIM 2020の技術的サポートを行い、全体の進行を管理するためだ。
 コアメンバーの9人のほか、サポートの学生が約20人、NIIの支援チームが約10人。3密の環境にならないように、大きめの部屋が用意された。
 室内では、オンライン参加者動態モニタリングシステムを稼働。40~60インチ台の液晶ディスプレイを10台、全体が俯瞰できるように80インチ台の大型液晶ディスプレイを1台設置して、すべてのセッションの様子を、リアルタイムで確認できるようにした。

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NII内に設けられた技術支援拠点

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リアルタイム可視化システム

 宮崎フォーラム委員長は、「最初のセッションに、どれくらい人が集まるのか、トラブルが発生しないのかと、不安ばかりだった。実証実験が終わった時点での完成度は5割。そんな気持ちで当日の朝を迎えた」と、当時の心境を吐露する。
 合田実行委員長も、「壮大な実験であることを参加者には伝えていた。失敗をしても、参加者には温かい気持ちで理解をしてもらいたいと考えていたが、それでも不安だった」と言う。
 だが、委員会メンバーの不安を払拭するように、大きな問題もなく、セッションは順調に進んでいった。一部、ネットワーク上の問題で座長がログインできず、開始時間が若干遅れたり、設定されたオンライン会場で音声が出ないといったトラブルのため、予備で用意していた会場に移動してもらいセッションを行う例があったりしたが、セッションが中止になったケースはなかった。
 オンライン開催は、発表者、参加者からも好評だったという。
 吉田プログラム副委員長は、「会期を通じて、オンラインならではのメリットを感じることができた」とし、「口頭発表を行った学生からは、壇上にのぼり、100人の聴衆を前にすると緊張するが、PCの前でパワポを操作して発表するため、まったく緊張しなかったという声もあった。また、参加者からは、会場では10メートル以上も離れた場所に資料が投影されるが、オンラインでは、目の前のPCに表示されるため見やすかった、自分が気になったタイミングにチャットで質問ができて便利だった、という声もあった」と言う。
 また、会期2日目には、Banquet Onlineと呼ぶ、各大学をつないだ大人数のオンライン懇親会を開催した。当初1時間の予定だったが、大きな盛り上がりをみせ、3時間30分に及んだという。
 「シンポジウムや学会では、インフォーマルな議論も重要な要素。これをオンラインのなかに積極的に取り込んでいくことも重要な要素の一つであると感じた」と合田実行委員長。
 宮崎フォーラム委員長は、「新型コロナウイルス感染症の問題が収束し、従来通り、リアルなイベントが開催できるようになっても、オンラインを組み合わせたハイブリッド形式で開催されるようになるかもしれない。3日間続けて参加できないような忙しい先生たちも、合間を縫って参加できるようになる。すでに、オンライン開催の仕組みは残してほしいという声も出ている」と言う。
 一方、課題もある。
 宮崎フォーラム委員長は、「講演をした大学の先生からは、聴衆の顔が見えないので、反応に合わせて臨機応変に話の内容を変えたり、冗談を入れたりすることが難しいという声があった。また、質問できなかった人が、発表終了後に、個別に質問や議論をすることが難しいという課題が挙げられた」と言う。
 横山プログラム委員長も、「発表終了後に会議室に残って、情報交換や雑談ができるのは学術シンポジウムの重要な要素。それが実装できなかったのが残念だった」とする。この点は今後の課題だろう。
 なお、オンラインの特徴として録画・公開がしやすいという利点があるが、今回の発表は、すべて録画しているものの、技術的な検証のためで、現時点では公開の予定はないという。2週間の準備期間では、公開までの調整はできなかったようだ。
 「同じ時間帯に行われる別のセッションに参加したいという場合も、録画を活用すれば、後から参加できるようになる。今後は、こうしたオンラインならではの工夫にも取り組みたい」と合田実行委員長は語る。

オンライン開催のリテラシーを示すことに成功

 DEIM2020では数多くの論文が発表され、データ工学と情報マネジメントに関する最先端の技術動向が示された。そして、今回の開催そのものが、オンラインによるシンポジウムや大規模イベントの先進事例になったといえる。「壮大な実験」の成功は、世の中に大きなインパクトを与えて幕を閉じた。
 宮崎フォーラム委員長は、今回のDEIM2020に自己採点で「80点」をつけた。「始まる前は50点程度だったが、終わってみれば合格点には達していた」と評価。その理由として、「必要となるリテラシーを明文化できたことは大きな成果であり、これが、さまざまなシンポジウムで改良されて使われる土壌をつくり上げた。オンライン開催を成功に導くには、ツールの問題だけでなく、参加者の心得やリテラシーが大切であり、それを示すことができた」とする。
 合田実行委員長も、「大規模シンポジウムが、オンラインで開催できることを示すことができ、ほかの団体でもやってみようという意識が生まれ、ムーブメントができた」、横山プログラム委員長も、「オンライン開催の仕組みやノウハウを、水平展開が可能なパッケージにできた点は大きな成果」と語る。
 一方、宮崎フォーラム委員長は、20点の減点について、ツールの使いにくさを挙げる。「ユーザーの声を反映しながら、企業努力によってツールを使いやすいものにしてほしい。ここに残り20点の伸びしろがある」と指摘した。
 横山プログラム委員長も、「オンライン会議システムを、シンポジウムや、学校で使いやすいように改良してもらいたい」と述べる。 さらに、宮崎フォーラム委員長は重要な成功要因として、「メンバー同士の緊密な関係」を挙げる。
 「長年に渡って、メンバー同士がいいコミュニケーション関係を構築しており、一緒にやろうという機運があった。それが成功のもと」と宮崎フォーラム委員長が語れば、合田実行委員長は、「先人たちが培ってきた素晴らしい関係を土台に、こうした緊密な関係ができ上がり、成功に結びつけることができた。これを、次の世代にどう受け継ぐかが、我々の役割になる」とする。
 今回の成果は、今後にどうつながるのだろうか。
 「コアメンバーは全員が研究者。つねに新たなことをやりたがる気質をもっている。この取り組みは、永遠のβ版として、繰り返し新たなものに挑戦することになるだろう」と合田実行委員長。すでに次に向けた一歩へ意識は向かっているようだ。

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DEIM2020のウェブのトップページには、本来開催予定だった福島県磐梯熱海の宿の写真が掲載されている。「来年こそ、温泉で膝を付き合わせて議論をしたい」、とメンバー一同。

(取材・文=大河原克行)

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