Dec. 2023No.101

若手研究者と研究環境

NII Today 第101号

Interview

データ分析で効率的な学習支援に貢献

近年、注目を浴びる、eラーニングや学習管理システム(LMS)、そしてラーニングアナリティクス。学習データを活用して、さらに効果を高める学習教材の開発なども進められている。多彩なキャリアをベースにこの分野を研究する、古川 雅子 助教に聞いた。

古川 雅子

FURUKAWA, Masako

国立情報学研究所
情報社会相関研究系 助教

習熟度や文化的背景に応じた学習を

── まず、現在の国立情報学研究所(NII)での所属と研究の概要について教えてください。

情報社会相関研究系という研究系の教員として働いています。それと並行して、2023年現在、NIIに15ある研究センターの一つ、オープンサイエンス基盤研究センター(RCOS:ResearchCenter for Open Science andData Platform)で、国内の学術論文や研究データの利活用に関わる学術基盤を担う業務にも携わっています。

NIIには2015年に入所しました。当初は大規模公開オンライン講座(MOOC:MassiveOpen Online Courses)のコンテンツ制作として、プログラミング入門講座「はじめてのP」の企画運営や、学習ログの標準化などに携わり、その後は長くラーニングアナリティクス基盤システムの構築に携わってきました。並行して、eラーニングシステム「学認LMS」の構築・運営を担当し、現在も継続しています。こうした分野は、コロナ禍によって、オンライン授業やリモート学習の需要が高 まり、加速度的に認知度が上がりました。

2018年からは「学認LMS」上で提供される教材システムの開発、昨年からは研究データエコシステムの構築事業にも関わっています。RCOSは、日本におけるオープンサイエンスの推進を目的に設立された研究センターで、人材育成基盤のリーダーとして、前述のシステムなどを使う人材を育成するミッションを請け負っています。

── eラーニングやラーニングアナリティクスの研究分野に進んだきっかけはなんだったのでしょうか?

学部生時代は日本文学専攻で、国語教師志望でした。当時は、なるべく自分の可能性を広げようと図書館司書など、さまざまな単位や資格を取得し、その中の一つに「日本語教育」がありました。実際に実習の現場を経験してみると、外国人留学生や在日外国人の方々の授業に取り組む姿勢は非常に真摯でやりがいを感じましたが、教える立場としては、文化的背景などによって学習の個人差が大きく、画一的な教育では十分ではないと感じました。一人一人の習熟度や文化的背景に合った教材で、学習支援をしたいと思ったのが、eラーニングやラーニングアナリティクスに深く関わるようになったきっかけです。

修士の時に始めた携帯電話用の教材コンテンツ制作では、個人に配信できる教材の将来性を感じるとともに、学習者のアクセスログを活用して、教材がどのような学習効果を生んでいるか把握し、個別教育に反映することができそうだということに気付きました。

多数の大学がつながる学習管理システムを構築

── 「学認LMS」とはどのようなシステムなのでしょうか。

「学認LMS」は、多くの大学で利用可能な教育コンテンツの提供と、大学ごとに学習者の管理が可能な多くのオプション機能を持った学習管理システム(LMS:Learning ManagementSystem)です。「学認」とは「学術認証フェデレーション」の略で、学術eリソースを利用する大学や、それを提供する企業・機関、そしてNIIが連携して構築している連合体です。この「学認フェデレーション」の中では、所属する1大学のID /パスワードがあれば連携して使えるさまざまなサービスがあり、「学認LMS」もその一つです。2021年6月に正式運用を開始し、今では大学を中心に84機関が利用しており、ユーザー数は4万名を超えています。

現在、「学認LMS」で受講できるコースは研究データ管理講座と、情報セキュリティ講座です。また機関管理者向けに提供しているオプション機能としては、先に述べた2種の講座の受講履歴取得機能があります。他にも、自機関限定のコース作成機能、マイクロコンテンツ教材作成機能、ラーニングアナリティクス機能などをテスト運用中です。「学認LMS」や各種の機関管理者機能は、これからも改良を続けていきたいと思っています。システムを作るだけでなく、現場からのフィードバックに応えていくとともに、より効果的な使い方を広げていくことも今後の課題として取り組んでいきたいと思います。

挑戦を受け入れてくれる環境はモチベーション

── 古川先生がこれから挑戦していきたい領域について教えてください。

今後は、これまでに開発提供してきたシステムや教材について、ラーニングアナリティクスを活用し、教育・教材を改善するための分析手法の提案や、大学共同利用機関における教育支援プラットフォームの構築と高度化に取り組んでいきたいと考えています。

高等教育には研究と教育という二つの大きなミッションがあります。これらをどうサポートするかが、NIIのSINETのような国の研究教育ネットワーク(NREN:National Researchand Education Network)の使命ですが、NIIは今まで研究支援をメインに行ってきました。海外のNREN事業における教育支援の動向を見ると、すでに多くの国が情報ネットワークインフラを活用して大学への教育支援サービスを展開しています。日本においてもSINETの整備やLMSの普及が進んでいて、NIIによる教育支援は実現可能な状況になってきました。将来的には、NIIにおける教育支援の可能性を索し、携わっていきたいと思います。

── NIIの研究環境について、どのように感じていますか?

印象的だったのは、新しいことをやってみたいと声を上げた時に、受け入れ、支援してくれる環境であるということです。頭ごなしに否定するのではなく、まずはチャレンジさせてくれる。その分ハードルは高くなりますが、「やりたい」と思っていることに対して、周りの先生方からのサポートがあると、とても心強く感じます。チャンスを見つければ、積極的に挑戦していける、そういう環境は、非常に魅力的です。

関連リンク
記事へのご意見等はこちら
第101号の記事一覧