準備

目次:

2.6.1 タスクと要件を特定する

このガイドの「出版」と「管理」の章で取り上げる活動は、タスクとそのタスクの実行に必要な個人の資質を特定するための良い出発点となります。実行するべきタスクのチェックリストとして、この章の各節を使用することを検討してください。また、査読審査(2.3.5 査読審査ワークフローを設計するを参照)と制作(2.4.4 制作ワークフローを設計するを参照)で作成したワークフローも参照してください。これらの工程の各ステップが実行すべき1つのタスクだと考えることができます。

各タスクについて、その作業内容と実行に必要な推定時間、スキルや資質を書いた簡単なリストを作成してください。この作業を支援するために追加情報源でタスク識別表のテンプレートを提供しています。

タスクと要件の特定は、これらのタスクを適当なチームメンバーに割り当てるのに役立ちます(以下を参照)。


2.6.2 タスクを割り当てる

計画を立てる際、雑誌の出版は複雑なシステムであるので様々なスキルと個性の持ち主が必要になることを思い出してください。雑誌の出版に必要なすべてのスキルと資質を一人の人間が持っていることはほとんどありません。DTP処理や校正には集中力があり、細かい点に目配りができ、退屈な反復作業を長時間にわたって実行できる人が必要になります。一方、雑誌営業やコンテンツ獲得には創造性や社交的な性格が必要になります。出版チームに様々なタイプの人を参加させることは有利に働くと思われます。

この作業を支援するために追加情報源に人材総括表のテンプレートを用意しました。見ればわかるように、この表は人は何かしらすることができ(経験とスキル)、あることを進んでしたいと思い(やる気がある)、あることをするのに適している(個人的な資質や個性)という概念を基に作成されています。これらの見出しを元にあなたのチームのメンバーの長所を考えることにより、各自の経歴や資質を担当するタスクに合わせられると思います。

チームメンバーの資質を検討した上で、実行すべきタスクの一覧に戻り各自の役割とタスクを割り当てることになります。


2.6.3 パートナーを検討する

チームメンバーへタスクを割り振ると、運用計画に穴が開いていたり、予想以上に作業量が多いことを発見するかもしれません。そのため、チームによる作業を補足するためにパートナーを検討したいと思うかもしれません。

今日の出版環境において、学術雑誌の出版を考えている人や既に出版している人には少なくとも4つの選択肢が存在します。

(1) 作業の外注化の有無を問わず、雑誌を「自力で」出版する

(2) ホスティングサービスを提供する大学図書館や大学出版局の協力を得る

(3) 出版協同プロジェクトに参加する

(4) 専門出版社と組む

(1) 作業の外注化の有無を問わず、自力出版する

オープンアクセスジャーナルの出版はウェブやインターネットの潜在能力に気付いた研究者の中から初めて現れました。今日では、何百、あるいは何千もの雑誌が、日々の作業を一人で、あるいは他の研究者グループと共同で行っている学術出版社により自力出版(Self-Publish)されています。これらの学術出版社の中には、出版活動から利益を得ているものもありますが、大多数の雑誌は必ずしも利益を生み出すことなくボランティ活動により運営されています。

ホスティングやDTP処理、原稿整理など、様々な専門サービスが自力出版で利用できるようになってきています。関心のあるサービス種別(たとえば、DTP処理)をグーグルで検索すれば、業者を見つけることができるでしょう。

専門的な出版サービスだけでなく、出版コンサルタントも一般的な支援サービスを提供しています。この場合は、市場地位やコンテンツ開発、戦略的課題などに重点が置かれます。出版コンサルタントを見つけるには、素直にグーグルで「出版コンサルタント」や「学術コミュニケーションコンサルタント」で検索すれば良いでしょう。

新サービスの1つにOpenAccessSolutions.comがあります。これは出版支援を行う業者のリストを提供する仮想ポータルサイトです。このサイトの利点は、一人のアカウントマネージャーに連絡するとあなたのニーズに合った複数の業者を紹介してもらえること、すべてのサービスへの請求が1つであること、出版に関する完全なコントロールを失うことなく必要とする支援を個別に選択できることが挙げられます。

(2) 大学図書館や大学出版局の協力を得る

北欧地域では、現在ますます多くの大学図書館が、査読審査や出版を行うソフトウェアやシステムのホスティング、管理、構築という形で雑誌の出版を支援するようになっています。図書館でホストされている雑誌のほとんどは、ボランティア活動で運営されており、利益を得ている雑誌は(もしあるとしても)きわめてまれです。一般に図書館は所属機関の職員が関係する雑誌にはこのサービスを「無料で」提供しています。少数の雑誌は助成金を受けて、事務作業経費や図書館や出版局のサービスを補足するサービスに関する経費を賄っています(下の(3)項を参照)。大学図書館によりホスティングされている雑誌にはおおよそ全ての研究分野の雑誌がありますが、大多数は社会科学か人文学の雑誌です。

大学図書館や出版局の協力で運営する雑誌は、一部を外注化することによりこの支援を増強できるかもしれません(上を参照)。

NOAP(学術雑誌のオープンアクセス化に向けた支援)プロジェクトは、プロジェクトの一環として、北欧地域においてホスティングなどのサービスを提供している出版社、機関、大学図書館のリストを作成しています。このリストは定期的に更新される計画です。リンクは追加情報源の「北欧地域のホスト一覧」にあります。

(3) 出版協同プロジェクト/プラットフォームに参加する

2.1.1.1 ホスティングを選択するで述べたように、資格があれば "African Journals Online" や "Scholarly Exchange" のような出版協同プロジェクトに参加することも考えられます。プロジェクトによりますが、無料や比較的低額でサポートを受けられると思われます。このようなプロジェクトでは、プラットフォームが利用できるだけでなく、一般に相互支援を提供できる幅広いコミュニティを知る機会も得ることができます。

(4) 専門出版社と組む

専門のオープンアクセス出版社の市場は成長中です。このガイドは出版社以外で働く人を対象としてますが、後々専門の出版社と組む道を選択することも考えられます。これにより、オリジナルチームが持つスキルや関心を持たない新しい編集者やチームに雑誌を引き継がなければならないことになるかもしれません。専門の出版パートナーを市場で探す際に検討すべき適当なリストとしてOASPA(オープンアクセス学術出版社協会)の正会員出版社のリストがあります。これらの出版社はOASPAが制定した専門家としての行動規範に従いますので、正式なパートナーとして信用できるはずです。

4つの選択肢の利点と欠点

パートナーを選ぶ際に決め手となると思われる変数は利用可能な財源です。最もお金がかからない選択肢は「自力出版」であるのは明らかですが、ホスティングサービスを提供する大学の出版局や図書館の協力を得るという選択肢も考えられます。

オープンアクセスジャーナルの編集や自力出版に参加するボランティア活動には直接金銭的な経費は発生しませんが、時間やその他のリソースを費やすことになります。また、編集チームのメンバーが正規業務の時間を割いて雑誌の作業を行うことが許されている場合は、間接経費を払っていることになるかもしれません。このため、検討すべき2番目に重要な変数は、あなた自身が持つ時間というリソースに対して雑誌の出版・運営に必要となる時間です。選択肢を検討するために、以下に各選択肢の利点と考えられる欠点、最もふさわしい条件、留意点の概要を示します。

利点 考えられる欠点 最もふさわしい条件 留意点
自力出版 雑誌の出版に関するあらゆる側面を完全にコントロールできる。出版のタイミングを完全にコントロールできる。 特に初期段階と最初の数年に過重な作業負荷がかかる。大量の新しいスキルを学習する必要がある。試行錯誤になる。 チームの中に幅広いスキルと能力がある。

少なくとも1人、技術的な(IT)スキルがあり、このスキルを磨くことに興味を持っている人がチームにいる。

編集者に少なくとも1人「営業に向いた」性格の人がおり、雑誌を売り込むことができる。

時間を有効に活用するために明確で効率的ななワークフローが必須である。病気や長期休暇に備えたバックアップ体制が必要である。
大学図書館や出版局の協力を得る 雑誌のホスティングに関する技術的側面をそれに詳しい人が処理することができる。

通常、編集者が図書館の運営機関に所属する場合はこれらのサービスが無料で提供される。

通常、図書館はあなたの雑誌に容易に適用できる(原稿の処理と出版が可能な)電子出版システムを既に開発・実装している。

図書館がテンプレートを厳密に適用している場合は、設定の選択肢に制限がある可能性がある。

一般に、雑誌のホスティングを提供する大学図書館は出版に必要なすべてのサービスを提供しているわけでない。そのため、出版に関する多くのタスクを自分で処理する必要がある。

雑誌の使える予算が限られている。所属の図書館が信頼できるサービスを提供している。 どんなサービスを提供し、どんなサービスを提供しないか、お互い相手に何を期待するのか、関係を終了させることができる条件、雑誌の所有者などを明確にするために出版局と書面による契約を交わすこと。
上の選択肢とコンサルティングサービスの組み合わせ チームに不足しているスキルや能力をコンサルタントが補うことができる。

(創刊に関する)1回限りの様々な作業を経験を持つコンサルタントが迅速に実行できる。

コンサルティング料を支払うために何からの立ち上げ資金が必要になる。 チームは時間に追われているが、出版工程や最終製品に対するコントロールを維持したい。

作業の外注化に利用できる財源を持っている。

サービス料金について交渉すること。時間制の料金は安いように思われるが、固定料金は予算の計上が楽である。どんなサービスがいくらで提供されるかを書いた見積書や契約書を要求すること。
外注化 業者が提供するサービスを利用することにより、雑誌のコントロールを保持した上で、プロ品質の出版物を発行することができる。 パートナー候補を見つけ、その価格とサービスを比較するために最初に時間がかかる。また、金銭的経費もかかる。この経費は提供されるサービスにより1回限りの場合と継続的にかかる場合がある(たとえば、ウェブサイトの構築は前者で、DTP処理は後者)。 出版工程のある点について特別な支援を必要としており、そのサービスが利用できる。専門家のサポートを受けたいが、出版物に対するコントロールも完全に保持したい。 サービス料金に関して慎重に交渉すること。固定料金と時間料金を比較検討すること。作業を開始する前に見積書を要求し、契約書や業者承諾書に署名すること(2.5.2 契約を行うを参照)。
専門出版社と組む 他の作業は誰か別の人が処理してくれるので、あなたは雑誌の内容や査読に集中することができる。出版社によっては、あなたの編集者としての作業に報酬をもらえるように交渉することができる。 出版社により、編集以外の事柄に関してコントロールできる範囲がまちまちである。 編集作業だけに集中したい。自力出版に不可欠なスキルや時間がチームに不足している。雑誌をできるだけ早く、できるだけ問題なく創刊または移行したい。 誰を雑誌の所有者とするべきか検討すること(2.5.5.2 所有者を登録または法人格を得るを参照)

双方の義務、関係を終了させる方法と時期を書いた正式な契約を出版社と結ぶべきである。

出版協同プロジェクトに参加する 出版協同プロジェクトは新しい雑誌を迅速に立ち上げるための明確なガイドラインとフレームワークを提供している場合が多い。出版協同プロジェクトに参加すると同様な活動を行っている幅広いコミュニティと交流することができ、情報を交換できる。

出版協同プロジェクトは無料または低料金の場合が多い。

大学図書館の協力を受ける場合と同じく、出版協同プロジェクトの支援も部分的で、雑誌出版のあらゆる側面をカバーするものではない。編集判断以外にもかなり多くの仕事をする必要がある。 予算が限られており、プロジェクトに参加する資格がある。 どんなサービスを提供し、どんなサービスを提供しないか、お互い相手に何を期待するのか、関係を終了させることができる条件、雑誌の所有者など、プロジェクトの内容を明確にすること。

主な検討事項:

  • どんな財源が雑誌に利用できますか?
  • どれくらいの時間を雑誌に割くことができますか?
  • 雑誌を出版するチームにどんなスキルや能力がありますか?
  • どんなスキルや能力が欠けていますか、それは習得できますか?
  • 雑誌に対してどの程度コントロールしたいですか?
  • 雑誌をどの程度プロ品質にしたいですか、どの程度この基準を満たすことができますか?
  • パートナーがどんな経験を持っているとあなたの雑誌に役立ちますか?
  • パートナー候補は対象分野に関連する経験を持っていますか?
  • パートナー候補はその仕事の品質を裏付ける保証書を提供できますか?
  • パートナー候補はサポートが必要な時に利用できますか?


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