準備

目次:

2.4.1 スタイルシートを作成する

受理された原稿は最終的なファイルフォーマットを作成するためのページレイアウトに構成して割り付ける必要があります。これは主にあなたが採用したスタイル( 2.2.4 スタイルを採用するを参照)とあなたが設計または採用したレイアウト(2.2.3 論文レイアウトを作成するを参照)に基づいて行います。これらを用いて、レイアウト担当編集者やタイプセッターが従う一連の指令書 - スタイルシート - を作成する必要があります。タイプセッターを雇い、彼らの提案したレイアウトを採用した場合は、スタイルシートは既に存在することになります。スタイルシートチェックリストの見本を追加情報源で提供しています。

実際に論文を出版し始める前に、できれば実際の論文を使って、レイアウト担当編集者かタイプセッターに論文見本を作成してもらうのが賢明です。

スタイルシートの作成は当然制作担当編集者がするべき仕事ですが、レイアウト担当編集者やタイプセッターの意見をあらかじめ聞くべきです。


2.4.2 ファイルフォーマットを決める

出版を始める前に、論文を複製・出版するためのファイルフォーマットを決めなければなりません。最終ファイルとして最も良く使用されているフォーマットはPDFとHTMLです。自社でレイアウト編集を行っている多くの学術出版社はPDFファイルしか作成したくないようです。Adobe Acrobatやその他のプログラムを使って簡単に作成することができるからです。しかし、PDFに加えてHTMLフォーマットも作成すると有利になるでしょう。このフォーマットはサイズが小さく発展途上国でも容易にアクセスでき、動的コンテンツの作成にも都合が良いので幅広く使われています。

XML(Extendable Markup Language)版も非常に有用です。ハーベストやアーカイブ向けの用途や、このフォーマットを必要とするPubMedやPubMed Centralなどのインデックスサービスやデータベース向けの用途には特に有用です。現在では、テキスト文書をXMLファイルに変換し、XMLファイルからHTMLやPDFファイルを作成する業者が数多く存在します。


2.4.3 DOIの登録をする

出版する論文にデジタル・オブジェクト識別子(DOI)を与えるために雑誌を創刊する前に登録機関に登録することを検討するべきです。DOIは原理的には私書箱のように機能し、同じ利点があります。私書箱の持ち主は度々引越しをしても、住所は変らず元のままです。新しい家の本当の住所は郵便局に知らせるだけで済みます。郵便物はこの永続的な住所に送ればいつでも届けることができます。同じように、DOIは雑誌論文に安定した「住所」を与える永続的な「私書箱」を提供します。論文URLの変更につながる新しいホストやサーバーに出版者が移動しても、出版社は「住所」の変更をDOI登録機関に伝えるだけで済みます。DOIを持つ論文がDOIを使って引用されていると、将来、その本当のURLが何であってもDOIを使って論文を見つけることができます。

DOIの取得にはほとんどの学術出版社がCrossRefに頼っています。CrossRefは、DOIを発行し、学術論文間のリンキングサービスを提供している非営利の会員制組織です。CrossRefは、DOIを発行してこの永続的な「住所」を提供しているだけでなく、論文のメタデータとしてタグ付けされているDOIを通じて論文間のリンキングを可能にするリンキングサービスでもあります。CrossRefにより効率的でスケーラブルなリンキングシステムが実現し、研究者は雑誌の引用文献をクリックすることにより直ちに引用論文にアクセスすることができます。このシステムに参加することにより、あなたの雑誌へのトラフィックを生み出すことができます。

利用の開始法

a)      CrossRef申請書を送付します。CrossRefは同意書を返送し署名を求めます。

b)      申請が受理されるとDOIプリフィックスが与えられます。

c)       論文レベルのDOIの構成を決めます。詳細は、CrossRefのヘルプが参考になります。

DOIの使用法

メタデータとDOI番号を含む参照データ

  1. 新たな原稿を受理した際に、この論文の参照データをメタデータと共にCrossRefに登録します。
  2. 論文を出版する前に、CrossRefを検索してメタデータを取り込み、リンクを追加またはペーストします。
  3. 論文が出版された際にDOI番号を登録します。

専門のタイプセッターを雇っている場合は、あなたの代わりにタイプセッターがDOIの登録をしてくれるでしょう。

料金

CrossRefはそのサービスに2種類の料金を課しています。(出版収入に基づく)年会費と論文ごとの登録手数料です。たとえば、

収入が100万米ドル未満                     275米ドル/年

1論文のDOI登録                                1米ドル/登録

このガイドの公開時点において、オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)は、その会員である学術出版社にDOIを無償で提供する協定をCrossRefと結んでいます。詳細はOASPAにお問い合わせください。

CrossRefの料金に関する情報は、CrossRefの情報ページを参照してください。

CrossRefは「この論文を引用している論文」機能を提供するCited byを初めとする数多くのサービスを提供しています。Cited-by Linking(旧 Forward Linking)は、どの論文が引用されているかを示すサービスです。この情報をあなたのオンライン出版プラットフォームで提供することができます。詳しくはCrossRefのウェブサイトを参照してください。



2.4.4 制作ワークフローを設計する

雑誌を準備するにあたって最も重要な作業の1つが受理した原稿を実際に出版するまで管理する効率的な作業計画を立てることです。ほとんどの出版社はこのワークフローに含まれる作業を制作作業(production work)と呼んでいます。

制作の役割

制作作業を実行するためのワークフロー案を提示する前に、この作業に含まれる役割をレビューしておくと役に立つでしょう。特にこの作業の一部は外部委託される可能性があるからです。

雑誌の種類、論文の数、巻号の数、資金などにより、様々な制作段階の作業を著者、編集チームのメンバー、任命された制作担当編集者、外部の業者、これらすべての組み合わせで処理することができます。たとえば、雑誌が原稿レイアウトに特定の「テンプレート」を使用している場合は、投稿(あるいは改訂版または最終版を提出)する際に雑誌のスタイルに原稿を合わせるよう著者に要求することができます。こうすれば原稿整理担当編集者やレイアウト担当編集者が必要なくなるかもしれません。必要となる制作上の役割は、あなたのチームの能力、投資できる時間とお金、論文の量によるでしょう。1月あたりの論文が少なければおそらく社内で行うことができるでしょうが、10本以上になれば外部の助けが必要になるでしょう。

制作担当編集者 (Production Editor)

一般に、制作担当編集者の役割はチームのメンバーが果たすべきです。制作担当編集者は原稿が受理されてからオンラインで出版し、第三者に配布するまでの工程全般で原稿の管理を行います。制作担当編集者の他に制作に参加する可能性のある役割には、原稿整理担当編集者、言語校閲担当編集者、レイアウト担当編集者またはタイプセッターがあります。

原稿整理担当編集者 (Copyeditor)

多くの学術出版社は原稿整理担当編集者の役割を社員が担当しているか、大学院生か出版チームのメンバーに任命しています。フリーランスの原稿整理担当編集者を雇うことも可能です。これはインターネット(追加情報源にリンクがあります)(訳注: 見当たらないようです)や口コミで探すことができます。一般に、タイプセッターは追加料金で原稿整理サービスを提供します。上で述べたように、テンプレートを使用し慎重に執筆要項に従うよう著者に求めることにより、原稿整理担当編集者の役割を著者に与えている雑誌もあります。

原稿整理担当編集者の役割は、正しい参照システムを使用し、雑誌のスタイルやレイアウトに合うように原稿を修正することです。原稿整理には、編集者の決定により様々なレベルの言語校閲が含まれることもあります。

レイアウト担当編集者またはタイプセッター (Layout Editor or Typesetter)

最後に、レイアウト担当編集者(おそらく制作担当編集者が兼務)またはタイプセッター(DTPオペレーターまたはWebデザイナーに相当)を任命するかどうかを決める必要があります。このどちらかが、様々なフォーマットで提出される図や表を含むオリジナル原稿を論文として構成します。レイアウト編集は編集者や編集チームの身近にいる者により社内で行われますが、DTP処理は外部の専門会社により行われます。

雑誌が原稿レイアウトに厳格で非常に特殊なテンプレートを使用している場合は、著者が投稿の際に雑誌のスタイルに沿って原稿を調整したり(2.2.4 スタイルを採用する)、編集者が最終版の論文の編集を自分で行うことができます。

資金が限られており、出版すべき論文の数も限られている場合は、チーム内でレイアウト編集を行うことになります。1月あたりの論文が少なければおそらく社内で行うことができるでしょうが、10本以上になれば外部の助けが必要になるでしょう。

現在では様々なソフトウェアが利用できるので、Microsoft WordなどのワープロソフトやAdobe InDesignなどのデスクトップパブリッシングソフトを使うことにより、論文のレイアウトを社内で行うことができます。校正刷りには、テキストファイルをPDFに変換することを勧めます。

原稿の量が大幅に増えた場合、DTP処理の料金が続落していることを考えると、DTP処理を専門のタイプセッターに外注することも選択肢になりえます(原稿整理を含めることもできるかもしれません。もちろん、雑誌論文が必要とする原稿整理の量によります)。インデックスサービスやアーカイブサービスなどの第三者への論文の提供やDOIの生成などを業者に直接やらせることができるという利点もあります(2.4.3. DOIの登録をするを参照)。

メタデータについて

制作工程の間に、論文のメタデータが作成されます。メタデータは制作工程そのものにとっては重要な意味は持ちませんが、論文のハーベストを可能にし、検索される可能性を高めます。

メタデータは1段階上のレベルからデータを記述するもので、アイテムの内容に関する情報を提供します。たとえば、文書のメタデータには文書の著者、制作された日付、単語や文字の数などの情報を含めることができます。図や画像は、図や画像の大きさ、解像度、作成日付などのメタデータを持つことができます。

通常、ウェブページにはページの内容を説明するためにメタタグ(キーワードや記述)形式のメタデータが含まれており、サーチエンジンはサーチインデックスにページを追加する際にこのデータを使います。

研究論文を記述するメタデータレコードは通常データベースに収録されるようにするために人手で作成されます。論文の記述に使用されるメタデータフィールドの例には、タイトル、著者名、所属、要旨、キーワード、分類などがあります。出版されると、これらのメタデータはメタデータハーベスタにより収集され、論文が検索される可能性が高まります。

メタデータレコードを発見した人(ほとんどの場合グーグル経由ですが)は、(a) その論文が興味のあるものであるかをすばやく判断でき、(b) 論文のコピーをできるだけ簡単に見つけるために必要な情報を取り出せるべきです。(a)と(b)を満たすより良い情報を公開すれば、論文の利用と引用が増加するチャンスが増えます(4.5 インパクトを確保する4.5.3 インパクトを追跡するを参照)。

メタデータハーベスタとはメタデータを収集するソフトウェアプログラムです。ハーベスティングは自動的に行われますので、データは組織化と構造化がされている必要があります。これは、メタデータプロトコルにより実現されます。最も良く知られているプロトコルに、通常はOAI-PMHと呼ばれているオープンアーカイブイニシアティブのメタデータハーベスティングプロトコルがあります。

雑誌のコンテンツを配信する良い方法はオープンアーカイブイニシアティブ(OAI)ハーベスティングシステムに参加することです。数多くのメタデータハーベスタが存在します。たとえば、幅広い雑誌、図書、デジタルリソースからメタデータを収集しているデジタルリソースの総合目録であるOAIsterPKPハーベスタです。

主な検討事項:

  • メタデータ作成ガイドラインを作成する際には、対象とするユーザに知られている標準を使用してください。たとえば、医学雑誌を出版する場合は、論文を記述する際に国立医学図書館のMESHキーワードを使用するよう著者に要求することを検討してください。
  • あなたの雑誌に関係するのはどのメタデータハーベスタですか? 所属の図書館が様々な(ローカルの)イニシアティブを知っているはずです。
  • 使用する雑誌管理システムはOAIプロトコルに沿ったメタデータを作成することができますか? たとえば、PKPハーベスタはOJSソフトウェアに組み込まれています。

ワークフロー

以下のフローチャートは制作作業のワークフロー案を示したものです。受理された原稿がオンラインで出版されるまでに行われる作業にしたがって編成されています。各ステージの説明は関連するボックスにカーソルを置くと見ることができます(訳注: この機能はオリジナルサイトにおいても現在のところ実装されていないようです)。各処理の説明は図の下にあります。また、追加情報源には「制作ワークフロー」というタイトルで1つのファイルにしたものもあります。

制作フローチャート - アクセプトから出版まで

原稿を受け取る

原稿が受理されると制作工程に回されます。受理された原稿はメールまたは雑誌管理システムを通じて制作担当編集者に送られます。

原稿を登録する

オンラインシステムを使用している場合は、著者がウェブサイトから最終版をアップロードしますので、原稿は既にシステムに「登録」されています。原稿が制作担当編集者に郵便やメールで送られる場合は、編集者または編集事務局が最終版を受け取って登録します。

原稿の品質をチェックする

制作担当編集者はレイアウト、スタイル、その他の指示が守られているかをチェックします。たとえば、

-          図や表が満足できる品質であること

-          正しい引用システムが使用されていること

-          該当する場合は適切な要旨があること

-          キーワードが指定されていること

チェックリストが追加情報源にあります。

原稿は品質基準を満たしている場合もあれば満たしていない場合もあります。満たしている場合は、原稿は直接、言語校閲と原稿整理に回されます。満たしていない場合は、制作担当編集者か著者が原稿を修正する必要があります。著者に原稿の修正を依頼する場合は、返送までに数日の時間を与えることが普通です。

原稿整理と言語校閲を行う

すべての形式的な品質指示にしたがって、様々なレベルの原稿整理と言語校閲を原稿に行います。原稿整理では文法、引用システム、一貫性、および、雑誌のスタイルで禁止されているレイアウトに従わないその他の要素の修正を行います。

原稿のDTP処理/レイアウト編集を行い、組み見本を作成する

チーム内であるいは外部のコンサルタント、タイプセッターによりレイアウト指示書にしたがって、原稿のDTP処理やレイアウト編集を行います。ガイドラインや執筆要項にしたがっていることが重要です。この段階でできればPDFフォーマットの組見本を作成します。

校正刷りを確認して関係者に送る

制作担当編集者はPDFが雑誌スタイル通りに制作されているか、図や表が正しく表示されているかを確認します。校正刷りを著者、編集者、校正担当者などに送ります。校正刷りには、校正作業自体への明確な指示と共に、原稿整理の段階で生じた質問を書いた著者質問票(Author Query Sheet)を同封する場合もあります。著者校正のガイドラインを書面またはオンラインで提供するべきです。

校正結果を修正する

著者および編集者による修正を校正刷りにまとめて反映し、清書ファイルを作成します。制作担当編集者は原稿整理担当編集者による著者質問票のすべてに著者が答えているか確認するべきです。なお、著者が大幅な修正を行った場合は、最終的な承認を行う前に著者に第2稿を送った方が賢明です。後で正誤表を出すよりこの追加作業を行った方がはるかにましです。

(PDF, HTML XMLなどの)ファイルを作成する

この段階で、タイプセッターまたはレイアウト担当編集者は規定のフォーマットによる最終ファイルを用意して提供することになります。また、CrossRefからメタデータを検索・抽出して(2.4.3 DOIを登録するを参照)ハイパーリンクを追加/ペーストします。制作担当編集者はこのファイルをチェックして、最終的な修正が正しく反映されていること、様々なファイルが正しく開くこと、参照リンクが正しく動くことを確認します。

ファイルをオンライン上に配備し、必要であれば第三者に送付する

レイアウト担当編集者またはタイプセッターはファイルを出版プラットフォームにアップロードし、表示順を確認します。これで、論文が正式に出版されたことになります。同時に(または少し後に)ファイルを第三者(PMCやERICなどのeプリントデジタルアーカイブ)に送ります。

ファイルを様々なインデックスサービス、抄録サービス、データベースサービスなどに送ります。読者への新着案内やRSSフィードを送信または更新します。

巻号単位で出版する場合は

巻号を編成する

巻号単位で出版している場合は、論文の掲載順を決めます。

ページ付けを行う

制作担当編集者は、目次の確認、表紙と(必要な場合は)背表紙の巻数、号数、ページ範囲の確認と更新(これはもちろん雑誌を印刷する場合に必要なことですが、多くのオンラインジャーナルが最新号に表紙をつけています。)、(必要な場合は)奥付の確認と更新(これは印刷版の場合のみ)を行います。

巻号校正刷りを編集者に送り承認を得る

校正刷りを必要に応じて(すなわち、レイアウト編集やタイプセットを外注した場合)、編集者と校正担当者に送ります。制作担当編集者は最終的なすべての修正が反映されていること、ページ付けが正しいこと、目次が正しいこと、表紙が正しく更新されていることを確認します。

巻号校正結果を修正する

最終の修正を行います。必要に応じて最終的な承認を得るために清書版を作成します。

発行を承認する

これで印刷の準備が整ったことになります。

印刷・製本を行う

印刷版も作成する場合は、使用する紙、板紙、製本方法、印刷部数、カラーページ、送付情報を示した印刷・製本発注書を作成します。

保管倉庫への配送と購読者への送付

雑誌は倉庫に送られるか、印刷所から直接購読者に送付されます。送付のための指令書(購読者リスト)または宛名ラベルを作成します。

論文/巻号のメタデータがハーベストされる

収集、エクスポート、配信を行います。上の「メタデータについて」を参照してください。

論文/巻号をアーカイブ/保存する

ファイルをアーカイブサービスや保存サービスに送ります。2.1.3 アーカイブと保存の設定を行う追加情報源の「アーカイブ: 概要」を参照してください。

論文/巻号のバックアップコピーを作成する

定期的に(たとえば、1日1回)、できれば2ヶ所にバックアップを行います。2.1.4 バックアップを確保するを参照してください。


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