創刊

この章は『オープンアクセスジャーナル出版のためのオンラインガイド』の中で最も短い章です。事業計画の作成、それに続く雑誌基盤の準備と何ヶ月も作業して、ようやく雑誌を創刊して世界中に告知する準備が整いました。準備万端整っていれば、創刊はたやすい仕事です。

雑誌の創刊作業に参加するのは(ウェブサイトの公開作業をする)技術支援担当と雑誌の創刊を発表する営業担当または広報担当、これらの作業を支援し投稿原稿の処理を始める準備を行う編集チームです。

3.1 編集会議を開く

新しいオープンアクセスジャーナルの創刊「イベント」を最高に活用するために、編集委員会の委員はこの出版モデルを理解し、積極的に参加するべきです。編集長が委員にやる気を持たせることは非常に重要です。委員は雑誌大使として働く者です。論文を投稿するよう潜在著者に働きかけてもらわなければなりません(2.3.1 編集チームの体制を決める2.3.2 編集委員を集めるを参照)。

実際に雑誌を創刊する前に、編集長は雑誌チームと場合によっては数名の編集委員を召集して編集会議を開くと良いでしょう。会議は、参加するグループの人数により、直接集まっても、電話会議やウェブ会議システムを使用しても良いでしょう。また、公式でも非公式でも構いません。この会議は以下を目的とするべきです。

  • 創刊までの工程、タイミング、各自の役割を確認する。
  • チームや編集委員に創刊だという感情を持たせる。
  • 創刊にあわせて行う営業活動を確認し、その活動にチームや編集委員が参加する必要があるかを確認する。
  • あなたの雑誌やオープンアクセスの利点など、あなたが伝えたいメッセージを確認する。

編集委員との会議は次の目的にも使用できます。

  • 学界内外のあらゆる関連メディアに雑誌の創刊を伝えるために使用するプレスリリースに載せる情報を提供してもらう(3.4.1 プレスリリースを発行するを参照)。
  • 雑誌の内容ができるだけ幅広い想定読者に関心を持ってもらえるように最初に出版する数論文または創刊号掲載に最もふさわしい論文を決定する(3.2 創刊コンテンツを準備するを参照)。
  • 特定のコミュニティや報道機関が特に注目すると思われる主題別の論文特集や特集号を計画する。
  • 関連する研究コミュニティを見つけ、これらのコミュニティが集まるポータルサイトに雑誌へのダイレクトリンクを追加するよう依頼する(4.5.1.2 営業チャネルを選択するを参照)。

会議の前に議題を送付しておいてください。また、会議の議事録を作成して、参加者に配布してください(自らの立場を優しく思い出させることになります)。


3.2 創刊コンテンツを準備する

新しい雑誌のウェブサイトを訪問した際、そこにコンテンツがあれば、新雑誌の情報を広めたり、読者や投稿を呼び込むことが容易になります。全く新しい雑誌にとって、創刊の辞と共にいくつかの論文を出版することは創刊当初から読者を雑誌に「定着させる」効果があります。そのためには編集者は創刊のずっと前から論文の執筆依頼をする必要があります。編集委員は編集長が適当な著者を選ぶのを助けたり(2.3.2 編集委員を集めるを参照)、自ら論文を提供することになるでしょう。最も重要な創刊記事は創刊の辞です。これは通常編集長が書きます(3.2.1 創刊の辞を書くを参照)。

オープンアクセスに移行する雑誌では、「新」雑誌の創刊時にバックナンバーが電子的に公開され無料でアクセス可能になっていれば、創刊前に論文を集める必要はありません。

原則的にあらゆる種類の記事を依頼するべきですが、総説論文は多くの読者の関心を惹き、通常の研究論文より引用が多いことが知られています。そのため、また、短期的展望に立って、雑誌の様々な分野をカバーする総説論文を集めるのは良い考えかもしれません。

有名な研究者や研究グループの優れた品質の論文を最初に出版するのも有益だと思われます。多くの注目を集めるだけでなく、雑誌の学術上の基準を設定することにもなるからです。

長期的展望に立つと、主題別の論文特集や特集号の計画は、事前に決めた専門分野の研究で雑誌を満たすのを助けます。主題別の特集は多くの注目を集める傾向もあります。

これらの著者に原稿を依頼する前にウェブサイトを構築し、著者には特別にアクセスを許可して、論文の投稿をしてもらったり、創刊雑誌のスニークプレビューをしたりすることができます。

主な検討事項:

  • あなたや編集委員の人脈の中で誰が論文を雑誌に投稿してくれそうですか?
  • 誰が依頼論文の対象分野を決定しますか?
  • 誰が選ばれた著者に論文を依頼しますか?
  • 論文を依頼した著者には報酬を払うべきですか? いくら払いますか?
  • 創刊時に出版する3本から5本の論文を用意するのにどのくらい時間がかかりますか? 著者やレフェリーがきつい締め切りを守ることを信用できますか?
  • 主題別の論文特集は出版日のずっと前に計画してください。様々な作業工程を詳細に記したスケジュールを作成し、すべての著者に伝え、締め切りを厳守するよう依頼してください。


3.2.1 創刊の辞を書く

オンラインで出版される最初の記事はもちろん編集長が書く創刊の辞です。これはまったく新しい雑誌でもオープンアクセスに移行した雑誌でも同じです。ここでは(私的で凝った文体を使い)雑誌の刊行目的と対象範囲を述べ、創刊に至った経緯を説明します。投稿の呼びかけをするにも適しており、編集委員会の紹介も通常はここで行います。

特に雑誌が購読ベースの出版モデルから移行した場合は、もちろんオープンアクセスである点を指摘します。

主な検討事項:

次の事項を含めることを検討してください。

  • 創刊に至った経緯
  • 雑誌の刊行目的
  • 雑誌の対象範囲
  • 求める論文の種類
  • オープンアクセスの理由
  • 査読審査工程の説明
  • 編集委員会の紹介
  • 原稿の電子的処理について
  • 該当すれば、出版社の選定について
  • 投稿の呼びかけ
  • 将来計画


3.3 ウエブサイトを正式公開する

通常、雑誌のウェブサイトは一時的なURLで開発を進めます。指定した日時に正式なURLで「正式公開」することを通知します。

ドメイン名のレジストラでホスティングをしていない場合は、レジストラとドメインネームサーバ(DNS)の管理者に連絡して、正式なURLを新しいサーバーまたはホストに向け、必要に応じてウェブフォワーディング機能を有効にしてもらう必要があります。

新しいウェブサイトを「公開する」には最大48時間かかる場合があることに注意してください。

OJSを使用している場合は「この雑誌をこのサイトで公開する」ボタンをクリックするだけですが、必要に応じてウェブフォワーディング機能を有効にすることを忘れないでください。「サーチエンジンを阻止する」すべてのメタタグを削除することも忘れないでください。


3.4 創刊を売り込む

雑誌の創刊は積極的な営業活動をする絶好のチャンスです。品質の高い論文が同時に出版される場合はなおさらです。

情報の繰り返しを避けるために、以下の節では創刊時にするべきことを思い出してもらうために手短に述べます。営業活動に関する詳細な説明は4.5.1 雑誌を売り込むを参照してください。


3.4.1 プレスリリースを発行する

プレスリリースは、対象分野に新しい雑誌が登場したというメッセージを伝える優れたツールです。多くの大学の広報部門はそのようなプレスリリースの作成と発表を喜んで支援してくれます。これを自分で行う場合は、グーグルで「プレスリリースの書き方」と検索すればプレスリリースを書く際のヒントや定石を提供しているウェブサイトを数多く見つけることができます。一般的なヒントは次の通りです。

  • プレスリリースのヘッドラインまたはタイトルは直ちに興味を与えるものであり、できる限り短く、プレスリリースの本文の本質を捕らえたものであるべきです。
  • 本文はリリースを行う日付と都市名で始めます。
  • 本文の最初の文で直ちに注目をひくべきです。
  • 最初の段落ではメッセージをまとめ、2番目の段落では多くの事実と情報を提供してメッセージを明確かつ強固なものにするべきです。
  • ウェブアドレスなど雑誌に関する情報を含む短い段落を含めます(会社や機関に関する情報もここに置きます)。
  • もっと詳しい情報を知りたい人のために連絡先の情報を含めます。この情報には連絡先の名前、電話番号、メールアドレスを含めます。
  • 最終版を決める前に数多くの草案を作成してください。

プレスリリースは広告になってはいけません。報道価値のある情報を含めなければなりません。創刊自体に報道価値があるかもしれません。特に、その分野の初めてのオープンアクセスジャーナルである場合や大学で初めて出版される雑誌の場合などです。創刊時にセンセーショナルな論文、議論の的になる論文、学術上重要な論文を出版すればプレスリリースの目玉になると思います。一方で、これが新しく創刊された雑誌であるという事実は本文や雑誌に関する情報を提供する段落で触れることができます。

プレスリリースを配布するために、受取人リストを作成し、プレスリリースを特定のフォーマットで作成する必要があるか否かを確認するべきです。一般的なニューズワイヤー(通常は無料)と想定読者が読むと思われる出版物、双方へ配布することを検討してください。また、以前に同じ分野を扱ったことのあるジャーナリストを探してください。ジャーナリストにプレスリリースを送る場合は、その人の以前の作品に触れ、今回送るプレスリリースがそれにどのように関連するかを書くと効果的です。所属大学の広報部門はプレスリリースの配布を喜んで手伝ってくれると思いますが、少なくとも機関のウェブサイトに載せられるようにプレスリリースのコピーを広報部門に渡してください。

予算が豊富にある場合は、プレスリリースの作成・配布を支援する専門のサービスが存在します。インターネットで検索すれば簡単に見つけることができます。


3.4.2 初期営業計画を作成する

営業活動と営業計画に関する詳細な説明は4.5.1 雑誌を売り込む4.5.1.3 営業計画を作成するを参照してください。

雑誌の創刊時に特有な点は以下の通りです。

  • 雑誌について聞いたことがある人がほとんどいない。
  • 営業対象となる雑誌の登録ユーザを持っていない。
  • 営業するためのコンテンツが限られており、持っているものを最大限に活用する必要がある。

雑誌の創刊を大きな会議や集会に合わせた場合は、ウェブサイトやプログラムで宣伝を行ったり、営業資料を手渡ししたり、会議バックに投げ込むことにより大量に配布する機会を得ることができます。

この時点では次のような営業チャネルが役に立ちます。

  • 既にある関連窓口に転送可能な資料をつけてメールを送る。
  • メーリングリストに投稿する。
  • 関連コミュニティーにツイートする。
  • LinkedInなどのソーシャルネットワーキングの場にディスカッションアイテムを投稿する。
  • 記事をオンラインで提供する。
  • ブログで創刊を紹介する。または、ブロガーにプレスリリースを送る。

営業計画の作成は営業担当となった編集チームのメンバーか、マーケティングサービスやコンサルタントサービスを提供する外部の業者が行うことになります。


3.4.3 営業活動を開始する

雑誌の創刊は一回限りです。創刊によるチャンスを活かすために、営業担当は営業計画通りに活動を行うためにできるだけすばやく動く必要があります。

出版チームのメンバーはすべて、この短期間の間は営業活動を最優先するべきです。この時期は査読中の論文や投稿される原稿は(あったとしても)少ないので、編集者も新雑誌について幅広く伝える活動ができるはずです。この時期に読者の関心と原稿の投稿を生み出すことは雑誌の順調な運営にとってきわめて重要です。

この初期段階では、口コミによる情報の伝達や各自のネットワークを通じた電子情報の転送など、他の人々(編集委員などの)による営業活動の支援に大きく依存することになります。


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