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情報系ERATOプロジェクトに求められるもの - Essay (78-5)

湊 真一 Shin-ichi Minato

北海道大学 情報科学研究科 教授国立情報学研究所 客員教授

 科学技術振興機構(JST)ERATOは、日本の研究ファンドの中でも最大級の規模(5年半で10~12億円)と、35年を超える伝統を持ち、まさにフラッグシップとも言えるプロジェクトである。将来のノーベル賞候補の育成をめざして設立され、自然科学の全分野の中から毎年4~5件程度が選ばれてきた。2000年代に入って、情報科学も重要であるということになり、情報系分野からも1~2年に1件程度選ばれるようになっている。私がERATOリーダーを務めたのは2009年からで、「河原林ERATO」が開始される3年前のことである。

 ERATOはプロジェクトの公式名称にリーダーの個人名を冠する伝統がある。それだけリーダーの属人的な能力に期待し、既存の組織や分野にとらわれない自由な新しい発想を重視している。ERATOリーダーはこうあるべきという決まった型はない。10年後15年後に、あれが源流だったねと言われるような研究を期待されている。

 情報系分野のERATOでは、従来のERATO制度では想定されていなかった特殊事情がしばしば見られる。伝統的なERATOプロジェクトでは、例えば世界に数台しかないような大型実験装置や設備等を用意し、1人のスター研究者をPI(Principal Investigator)として、その指示に従う多数のポスドク研究員を有期雇用してチームで集中的に実験を進める、というスタイルを想定している。しかし情報系、特にアルゴリズムの研究では大型実験装置は必要ない。代わりに一定人数の優秀な専門家集団を構成すること、そして研究者が深く議論してアイデアを醸成する場を作ることが重要となる。

 大型実験装置に縛られない情報系分野では、若手の優秀な研究者は日本各地に分散していて、すでに正規雇用を得ていることが多い。そういう人を有期雇用で集めてくることは困難である。そこで、私がリーダーを務めた「湊ERATO」では、ポスドクを雇用するだけでなく、全国の大学や企業の有力研究者と緩い協力関係を築き、随時集まって集中的に議論するという、遊牧民的なオープンなコミュニティを形成することを狙った。これは既存のERATO制度では想定されていない形態だったが、その必要性をJSTに訴えて認めていただいた。一方、河原林ERATOでは、より若い世代(主に20代)にターゲットをしぼり、これから助教職を狙う新進気鋭のポスドクやプログラミングコンテスト優秀層の大学院生を多数集めて特訓するコミュニティを形成して、大きな成功を収めている。

 ERATOは良くも悪くも独裁的でリーダーの裁量が大きいので、慣例に合わないことでも信念を持って主張すれば実現できることが多い。我々のERATOでの実績により、情報系の大型プロジェクトでは様々な形態がありうるのだという理解がJSTや文部科学省にも浸透してきたように思う。ERATOは時代に合わせた新しいプロジェクトの形を提案し実践する場としても存在価値があると言える。

 ERATOでは何が成功か失敗かの定義にも決まった型はなく、リーダー自身が考えて最終ゴールを設定することになる。プロジェクトの終わらせ方も、次の発展の仕方も自分たちで考える必要がある。10年後15年後に、あれが源流だったねと言われるためには、全力でゴールインしてそのまま倒れ込むわけには行かない。後から走ってくる次世代のリーダーにうまくバトンを渡せるように適切なスピードで進み続けることが求められる。願わくは、私自身も、いろんな人にいろんなタイミングで少しずつバトンを渡しながら、持続可能なスピードで走り続けて行きたいと思っている。

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第78号/2017年12月発行

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ERATO「河原林巨大グラフプロジェクト」

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