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"究極の電波望遠鏡"からのデータ転送に貢献 (72-5)

大学共同利用機関法人自然科学研究機構 国立天文台
立松 健一 電波研究部/チリ観測所 教授[アルマ 東アジア地域センターマネジャー]
日米欧による国際共同プロジェクト
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アルマ望遠鏡©ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

 太古の昔から人は空を見上げ、天体の観測に取り組んできた。エジプトやギリシャ、インダスなど数々の古代文明の遺跡にも、その証は残る。天文学は古代から続く、最も古い自然科学だ。アルマ(ALMA)[1]望遠鏡のプロジェクトで東アジアの地域センターマネジャーを務める立松健一教授も、かつては望遠鏡を通して星を見つめた天文少年。しかし、現在の天文学は、人の目で捉えられる可視光以外の波長、例えば電波も対象にしており、その観測を担うのが電波望遠鏡だ。「アルマ」はチリの砂漠に66台のパラボラアンテナを並べた「人類史上最強、究極の電波望遠鏡」(立松教授)。ビッグバン後の銀河の誕生や太陽系と惑星の誕生、そして、宇宙における物質の進化といった謎の解明に取り組む国際プロジェクトは、「はじめからネットワーク利用を前提としていました」と立松教授は話す。

 アルマ望遠鏡は平成14年(2002年)に建設計画がスタートし、平成25年(2013年)3 月に開所。2年前の6月に最後のアンテナの設置が完了した。プロジェクトには東アジア、北米、欧州の計21カ国・地域が参加しているが、元々は別個に大型電波望遠鏡の建設計画を進めていた日米欧が最適の立地を追求した結果、同じチリの高原に行き着いたことから国際共同研究プロジェクトになったという。チリ北部のアタカマ砂漠は乾燥していてサブミリ波[2]を吸収してしまう水蒸気が少なく、天候も安定。かつ、多数のパラボラアンテナを設置する広さもあった。かくして、「アルマ」はアンデス山脈の標高約5000メートルの高原に建設されることになった。観測には最適なアタカマ砂漠だが、日本から片道35時間という距離に加え、富士山はもとよりアルプスのモンブランやマッターホルンよりも高い標高だけに高山病という問題もあった。このため、アルマ望遠鏡では、研究者は現地に行かず、準備から観測までをリモートで行い、日米欧の拠点に送られた観測データを入手して解析する方式を採用している。この点で日米間など国際回線を増強したSINET5への移行は大きい。「平成14年に設置したASTE 望遠鏡[3]の時は『ラストワンマイル』を通信速度の遅い衛星通信でつないでいたため、コマンドだけをリモートで送っていました」と振り返る立松教授。観測データはハードディスクに保存し、1 ~2か月に一度、研究者が持ち帰っていたという。

「宝物」はノイズの中に埋もれている

 2年前の11月、アルマ望遠鏡の一つの大きな成果として、惑星誕生の現場である塵の円盤を、これまでにない高画像で撮影した画像が公開された。「このデータ関連ですでに数十本の論文が書かれており、新しい理論も出ています。研究者の世界も競争。世界中の研究者が一刻も早く最新のデータを入手できるようにするにも、高速のネットワークが必要です」と立松教授は話す。アルマ望遠鏡は直径16キロの巨大望遠鏡と同等の能力を誇り、最高で人間の視力なら「6000」相当の解像度を持つことができる。宇宙や銀河、太陽系、さらに、生命の起源について、大きな観測的手がかりを得ることが期待されているが、「そうした発見につながる『宝物』は、ノイズの中に埋もれているんです」。このため、転送する際もデータを単純に間引くわけにはいかないと言う。現在は1日約200GBの転送量は、来年10 月からのプロジェクトの「サイクル5」では約500GBまで増える予定だ。「小さいころ、屈折式の光学望遠鏡で初めて土星やオリオン大星雲などを見た時はワクワクしました」と立松教授。可視光による観測で捉えられるのは「大人の星」だけだが、電波望遠鏡では「赤ちゃんのころから星の一生を探ることができる」。星を見つめる手段は変われど、探究と発見のワクワクする思いは変わらない。そのワクワク感をSINETが支えている。

(取材・文=美土路昭一)

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立松教授

[1] アルマ(ALMA):「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」の略。複数のアンテナを組み合わせた仕組みを電波干渉計と呼ぶ。口径12メートルのパラボラ50基のアンテナ群と、日本が開発と製造を担当したアタカマ・コンパクト・アレイの16基のアンテナ群で構成。

[2] サブミリ波:波長1ミリメートル以下の電波。ミリ波とともにアルマ望遠鏡の観測対象で、最も波長が短い部分に相当。ミリ波やサブミリ波の観測により、光学式望遠鏡では捉えられない部分の構造も知ることができる。アルマ望遠鏡で国立天文台は最も波長が短いバンド10など世界で唯一複数の周波数帯の受信機を担当。波長が短くなるほど受信機開発の技術的難易度は高くなる。

[3] ASTE 望遠鏡:「アルマ」プロジェクトのパイロット望遠鏡の役割を兼ねて国立天文台がアタカマ砂漠に設置した実験用のサブミリ波電波望遠鏡。

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