May. 2016No.72

SINET5始動全国100ギガで新たな可能性を拓く

Essay

情報技術は大学革命の砦

YASUURA Hiroto

国立大学法人 九州大学 理事・副学長

 わが国の高等教育、特に国立大学は、厳しい環境の中で大きな改革を迫られている。国立大学法人化後の運営交付金の継続的な削減は累積で年間1300億円を超え、平成16年度比で年額10%以上となっている。一方で国際間競争や産学官民連携などの社会からの大学への期待はますます増大し、世界最先端の研究成果はもちろん、オープンサイエンスやビッグデータ解析などに対応できる新しい研究環境の提供、MOOC(Massive Open Online Course)やe-Learningなどの教育の多様化など、教育・研究環境の充実が求められている。さらに、教育・研究を支える大学の経営・運営の仕組みは前世紀とほとんど変わらず、民間企業のように効率化されていない。

 このような現状を打破するには社会や産業界で行われているように最新の情報通信技術を活用し、1)世界先端レベルの研究基盤の確立、2)教育の情報化によるアクティブラーナーの育成環境の整備、3)学内業務の抜本的な効率化、を早急に行う必要がある。NIIはSINETをはじめ日本の高等教育機関へさまざまな情報基盤と運用サービスの提供を行ってきたが、その多くは研究基盤の高度化に軸足を置いていた。しかし、主なサービス対象の国立大学の基盤が大きく揺らいでいる現在、その使命は教育環境の改善や支援業務の高度化も含めて大幅に拡大する必要がある。

 クラウドサービスは、国立大学全体の教育・研究・業務の支援の高度化と経費削減に大きく寄与する。計算・記憶資源、さらには保守などの運用経費は、個々の大学で個別に機器を保有しカスタマイズや保守をできる時代ではない。そもそも同じ国立大学法人法で運用されている国立大学が、財務会計システムや人事給与システムを個別にカスタマイズして利用する必然性はまったくない。個別システムを利用することが、不正の温床となりコンプライアンスの確保を困難にしている事例は枚挙にいとまがない。教育に用いる学務情報システムも、各大学の独自性に対応できる柔軟さを担保すれば、クラウドによる共有化は可能である。オープンデータやオープンサイエンスの理念を実現するには、研究支援環境も共有する方が望ましい。研究不正や研究費不正の防止にも各大学のノウハウを共有できる。さらに、現在のサイバー空間の戦争とも言える状況に対し各機関のシステム安全性を担保するためには、個々の大学による対応は現実的ではない。

 セキュリティを保障したSINETの上に構築されたクラウドサービスで教育・研究・業務支援のサービスの大学間の共有化を実現することで、日本の大学は大きく変容し、再び世界の範となり得ると信じている。

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