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「アドレナリンの出るアルゴリズム研究」 NIIの人々 vol.1

秋葉拓哉
情報学プリンシプル研究系 助教
1988年生まれ。情報理工学博士(東京大学)。現実世界の大規模ネットワークにおける効率的なアルゴリズムの開発に取り組む。プログラミングコンテストでは日本情報オリンピックやACM ICFP Programming Contestで優勝するなど国内外の大会で活躍。

池澤 あやか
タレント/エンジニア。「Rubyの女神」と呼ばれ、特にIT分野で活躍。著書に『アイディアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)。第6回「東宝シンデレラ」審査員特別賞。
「はじめてのP」を収録した東京・根津の古民家で。2人が持つのは、
秋葉助教特製のアルゴリズム学習用「ビットくんトランプ」。
─秋葉先生とは、日本版MOOCのプログラミング講座「はじめてのP」でご一緒しています。(池澤)
秋葉 「この講座では、パズルや迷路で遊びながら、アルゴリズムの面白さを知ってもらおうと思っています」
─ 一番の専門がアルゴリズムなんですね。手強そう。私は大学でプログラミングを勉強し、最近も簡単なプログラムを書いて楽しんでいますが、アルゴリズム、実は苦手です......。
「僕の場合は、中学生の頃からいろいろなプログラムをつくっていたら、いつしか興味がアルゴリズムに移っていました。アルゴリズムは"計算のアイデア"みたいなもの。プログラムが賢く動作するのは、アルゴリズムのおかげです。アルゴリズム次第で、サクッと問題を解くことができるようにもなります」
─アルゴリズムって、私の周囲ではプログラミングコンテストに出るような、どこか特別な人たちが興味をもっていたように思います。
「僕も学生時代はコンテストに夢中でした。レーティングが世界4位になったこともあるんですよ。そこで培った力を最大限発揮できるのがアルゴリズムの研究だと、今は思っています」
─世界4位!!凄すぎ。研究は、いったいどんな内容なんですか。
「新しいアルゴリズムを考えて計算を速くする研究です。特に大きいデータを対象にしています。データが大きくなればなるほど、アルゴリズムの威力が増すんです」
─ IoT時代になって、せっかく家電がインターネットにつながっても、レスポンスが遅いとイライラします。
「そうそう。レスポンスの速さとかメモリーの制約をアルゴリズムで解決するのも有効です。ただ、僕が扱っているのは、『グラフ』というやや特殊なデータです」
─グラフって、棒とか折れ線とか?
「そう思いますよね、普通(笑)。ここで言うグラフは数学の理論の一つで、点と点を線でつないだもの。10億人以上がつながっているFacebookのような巨大SNSもグラフです。こうした数学的グラフデータは、人と人との関係性を調べたり最短の流通経路を解き明かしたりするのにとても有効ですが、まだあまり活用されていません。要素が複雑に絡み合っていて情報を抽出するのが難しく、処理に時間がかかるからです」
─そこに挑戦しているんですね。
「どんなに巨大なグラフデータが来ても、高速で処理できるアルゴリズムを開発したい。それが夢です」
(構成=高橋美都 写真=長尾亜紀)
※研究から事業まで幅広い分野で活躍するバラエティーに富んだNIIの人々を、プログラミングができるタレントで「Ruby の女神」と呼ばれる池澤あやかさんが紹介します。
NIIの人々に会って
私の座右の銘は"緩い"かな、と言ったら、「それなら、僕は"速い"だね」と秋葉先生。プログラミングをしている時やアルゴリズムを考えている時は脳内でアドレナリンが出ているそうです。最近の楽しみは、月に1回レーシングカートに行くことなのだとか。とにかく、速いことが好きなようでした。秋葉先生の高速アルゴリズムが世の中をどう変えるか楽しみです。