Mar. 2021No.91

NII Research Data Cloud 本格始動へオープンサイエンスを支える研究データ基盤

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研究データ管理基盤「GakuNin RDM」の本運用がスタート

先進的な研究データ管理を支援する

2021年2月15日、研究データの管理を行う大学や研究機関を支援するサービス「GakuNin RDM(Research Data Management)」の本格運用が始まった。これは、NII がオープンサイエンスのために提供する研究データプラットフォーム「NII Research Data Cloud(NII RDC)」内で、初めて提供する研究データ管理基盤として、オープンサイエンス基盤研究センター(RCOS)が開発したものである。オープンサイエンス実践の鍵となるRDMの基盤として、どのような機能を備えているのだろうか。

込山悠介

Komiyama Yusuke

国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系
オープンサイエンス基盤研究センター 准教授

新妻聡

Niitsuma Akira

国立情報学研究所
学術基盤推進部 学術コンテンツ課
研究データ基盤整備チーム 係長

サービスビジョンは「研究推進」と「研究公正」

 近年、大型研究での先進的なデータマネジメントの実施に加え、研究助成機関に提出する計画書にデータ管理の記載が義務付けられるなど、研究を進める上でデータを組織化・構造化して保存・管理することは避けて通れなくなってきた。研究データ管理業務を適切に行うために、その管理業務は研究者個人から大学や研究機関などの組織に移り始めている。
 この学術界の変化を支えるため、NIIは、NII RDC内で初めて研究データ管理基盤サービス「GakuNin RDM」を開始した。主要な目的は研究データを管理・共有するITインフラの提供だが、開発者を担当した込山悠介准教授は、本サービスの機能について「研究者には気軽に使ってもらい、機関には手堅い研究データ管理環境を提供する基盤でなくてはならない」と話し、「研究推進」と「研究公正」をサービスビジョンに掲げる(図)。

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図|GakuNin RDMサービスのビジョン。「研究推進」によって研究者を支援し、「研究公正」によって機関に手堅いデータ管理を提供する

 まず、研究推進の観点においては、NIIが提供している認証フェデレーション GakuNin の参加機関であればすぐにサービスを受けることができる。また、これまで蓄積してきた研究データを取り込めるよう、外部のクラウドやリポジトリとの連携を可能にした。データ共有など共同研究で必要となる機能も備えている。これらは研究者個人や機関など利用者の使いやすさに配慮した機能である。一方で、研究データの研究証跡をシステムが常に記録しており、研究不正や疑念行為が発生した際には研究データの追跡調査ができる。この機能には研究不正の抑止効果もあり、機関の手堅いデータ管理を支援する。

安全なデータの共有と産学連携の支援をめざす

 現在、利用できる機能については、2019年4月から2020年10月までの実証実験で、参加22機関がトライアルを行った。東京大学定量生命科学研究所は研究公正機能を自機関で活用する方法を検討し、北海道大学はデータ管理基盤と実験装置・計測装置との連結を計画するなど、機関ごとに独自のRDMの取り組みを行った。こうしたGakuNin RDMの利用実態を踏まえて、研究者が発表する論文、画像、生データなどをすべて適切に管理する仕組みや、実験装置から取り込んだデータを分析するプラットフォームとの連携、学内向けに提供されるストレージのRDM用途での活用など、幅広いニーズがあるとわかった。「なかでも多く聞かれたのが、NII RDCのデータ公開 基盤であるJAIROC loudと接続してほしいという声と、産学連携のために企業のアクセスを可能にしてほしいという要望でした」と込山准教授。多くの機関が、GakuNin RDMを単なるストレージではなく、将来はデータ利活用や大規模な共同研究で使いたいと考えていた。なお、JAIROC loudとは2021年度中に接続する予定で、これによりスムースなデータ公開が可能になるだけでなく、GakuNin RDMからJAIROC loudへのデータ受け渡しの手続きを経ることで、データの誤公開を防ぐことができる安全な研究データ基盤が構築される。
 GakuNin RDMは2月15日に本格運用がスタートした。これを機に、サービスの運用業務が学術コンテンツ課に移った。組織的、法的な準備を担当した新妻聡係長は、「学術コンテンツ課では参加機関のうちの約10機関で構成する研究データ基盤運営委員会を立ち上げました。これからは運営委員会と議論しながら、RCOSとともに安定運用や機能強化、改善を続けます」と話す。将来的には、サービスの継続のために有料化も視野に入れている が、当面は無料での提供を予定している。日本の研究を活性化させる力を秘めたGakuNin RDMは、盤石の体制の下で充実したサービスを提供していく。

(取材・文=池田亜希子 写真=古末拓也)

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