Mar. 2021No.91

NII Research Data Cloud 本格始動へオープンサイエンスを支える研究データ基盤

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知の検索基盤として新たな役割を担う「CiNii Research」

サイテーションからリレーションへ、オープンサイエンスへの道を拓く

NIIが提供する学術検索基盤「CiNii」は、国内の論文を探す「CiNii Articles」、全国の大学図書館に収蔵されている書誌を探す「CiNii Books」、日本の博士論文を探す「CiNii Dissertations」という3 つのサービスから成る。現在、これらを統合し、加えて論文にひもづく研究データの検索も可能にする新たな検索基盤「CiNii Research」の開発が進んでいる。 その先行サービスとして「CiNii Research プレビュー版(以降、プレ版)」が 2020年11月から公開されていた。

大波純一

Onami Jun-ichi

国立情報学研究所
オープンサイエンス基盤研究センター
特任准教授

阪口幸治

Sakaguchi Koji

国立情報学研究所
学術基盤推進部 学術コンテンツ課
学術コンテンツ整備チーム 係長

3つのサービスをまとめて一律の検索を可能に

 CiNii ResearchがCiNiiと大きく異なる点は3つに分かれていた検索サービスが統合されること、研究データや研究プロジェクト情報も検索対象としていることである(図)。インフラにはCiNiiの技術はほとんど踏襲せずに、新規につくり上げた。検索基盤はパブリッククラウド上で構築され、外部のデータベースや海外の学術機関ともAPI連携されており、さらに検索エンジンにはオープンソースの「Elasticsearch」を実装するなど、モダンでパフォーマンスにすぐれた構成だ。
 大幅な更改に至った背景について、開発リーダーの大波純一准教授は「論文と研究データや関連資料の関係性をたどり、ある研究データを別の研究に再利用する機会を増やすという、サイテーション(citation)からリレーション(relation)へのニーズがサイエンスの世界で急増しているため」と説明する。近年、学術の世界ではオープンサイエンスの考え方が浸透しており、それに伴って研究データも公開する傾向が強くなっている。また、既存のCiNiiはリソースごとに特化した枠組みとなっているため、統合されたインターフェースから横断的に検索を行いたいと望む声も大きくなっていた。こうした時代の変化と要請に応えるべく、NIIは2017年からCiNii Researchの開発を開始、2021年4月の正式公開に向けて着々と準備を進めてきた。

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図|CiNii Researchがめざす適用範囲

関連の研究データやプロジェクトも検索可能に

 機能を進化させるために、CiNii Researchではオリジナルなグラフデータベースを構築している。グラフデータベースは、個々の情報(論文、研究データ、書誌など)のエンティティ(実体)をグラフにおけるノード(節点や頂点)として、それぞれのエンティティ同士の関係性をエッジ(線)を使って表現する。1つのエンティティにつながるエンティティの数や種類には制限がないためデータの追加が容易なうえ、関係性をより速く深く検索することが可能だ。初期からプロジェクトに関わってきた阪口幸治係長は、「これまでは一度検索すれば、その時点で終わりでしたが、1つのエンティティにつながるほかのエンティティを次々と横断的に検索できれば、オープンサイエンスがより加速していくでしょう」と期待する。
 もっとも既存のサービスはそれぞれが異なるスキーマ(構造)を使ってメタデータを格納していたため、統合にあたり、「新しい基盤ではいかにメタデータを格納すべきか、その標準化にかなり頭を悩ませました」と大波准教授。最終的にはJPCOARが策定している『JPCOARスキーマ』をベースにした。JPCOARは公開基盤「WEKO3/JAIRO Cloud」の運用パートナーでもあり、基盤連携のしやすさの面でもメリットがある。
 公開されていたCiNii Researchプレ版について、利用者からは「こういう検索基盤を求めていた」「検索スピードが速くなった」「1つの検索基盤から利用できるのは便利」などかなり高い評価が寄せられた。今後はフィードバックを取り入れながら改善を続け公開後も随時アップデートを重ねていく。
 阪口係長は「CiNii Researchは新規に開発したが、検索のしやすさや表示の見やすさなどは引き継がれています。また、日本語の検索が可能な基盤は英語などに比べて難易度がかなり高いのですが、CiNiiではその最適化も図ってきました」と語る。日本語による潤沢な学術情報を見やすい形式で検索できるというCiNiiの使命は、そのまま継承されているというわけだ。
 大波准教授はCiNii Researchを「現代の図書館員の発展型」と表現する。日本の学術資産を継承しつつ、変化の潮流を受け入れたCiNii Researchは、日本の知の検索基盤として新たなスタートを切った。

(取材・文=五味明子 写真=佐藤祐介)

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