Sep. 2020No.89

COVID-19と向き合う情報学の挑戦データから新型コロナウイルスをみる

Essay

教育が変わる時

Hiroto Yasuura

九州大学 理事・副学長

 それは、突然やってきた。昨年末に中国武漢で始まったCOVID-19の感染拡大は、2月後半から我が国や欧米に広がり、3月以降は世界全体を覆うパンデミックとなった。8月末の時点で、全世界で2500万人が感染し、85万人以上の犠牲者を出している。

 春、花々は咲き誇り、山々は新しい芽吹きに覆われ、海や川は夏の装いに変わって行く。見慣れた街並みや風景も季節の変化を刻んで行くのに、人々の生活は、以前とは一変した。祭りやイベントは中止となり、通学や通勤の機会も減り、繁華街の賑わいも消えた。大学では、卒業式や入学式の式典もなく、突然、遠隔授業だけの開講となった。物理的な社会の構成はほとんど維持されたままで、我々は唐突にサイバー空間を中心とする世界での活動を強制されるようになった。

 戦争や自然災害による社会の非常事態を想定していた人は多いであろうが、このような形での社会活動の変化を想定していた人は少ないであろう。しかし、見方を変えれば、これまでCPS(Cyber Physical System)の構築を進めてきた成果がうまく機能し、社会活動もある程度維持されていると見ることもできる。特に、大学においては、国内外の多くの大学が遠隔授業を実施して、次世代の育成である「教育」を止めずに継続できていることは、将来の歴史家もある程度評価してくれるのではないだろうか。

 4年前に、このEssayに「情報技術は大学革命の砦」という一文を投稿したが、そこで夢見ていたことの一部が実現している。さらに、研究や大学の運営業務などについても、これを機に、デジタル化(DX: Digital Transformation)を実現しようという機運が高まってきている。

 特に、教育のDXは、世界各国がほぼ同時に同じような条件下に置かれ、さまざまなアイデアを生み出し、ツールを構築し、運用の基準やノウハウを蓄積している。我が国でも、NIIと主な大学が中心となって「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」を15回(9月4日時点)にわたって開催し、大学から初等・中等教育までのさまざまな工夫や実践例を共有するとともに、海外の事情も紹介してきた。10年後には、2020年を機に「教育」のあり方が本質的に変わったと言われるようになる可能性も大きいと思う。これは、世界的な潮流であり、今後、初等・中等教育から高等教育、社会人教育までを含む大きな潮流になると予想する。このような歴史的転換期に、情報技術やそれを用いた教育基盤の改革に少しでも参画できていることを、幸いに思うこの頃で ある。

参考文献

安浦寛人:「情報技術は大学革命の砦」,
Essay, NII Today No.72, https://www.nii.ac.jp/today/72/7.html

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