Dec. 2018No.82

オープンアクセスへの道これからの学術情報流通システムを考える

Essay

バイオ研究者にとってのOA推進

Noriko Osumi

東北大学副学長 附属図書館長 大学院医学系研究科 教授

 医学生命科学研究分野は研究者人口が多く、関連学会数も発行雑誌タイトル数も多い。小さな分子を扱う研究者から、生態系や疫学を専門とする研究者まで多様性に富んでいるが、現在、論文を投稿する雑誌は英語による国際誌が標準というのはほぼ大方のコンセンサスであろう。

 このようなバイオ系研究者にとって、「オープンアクセス(OA)」問題の第一は、「うちの大学でJournal of XXXXがダウンロードできるかどうか」だ。大手出版社による雑誌のパッケージの価格は右肩上がりで、運営費交付金を毎年複利で減らされている国立大学法人では、人件費のみならず、図書館経費などの基盤的経費も削減されつつある。

 もう一つのOA問題は「またA誌の論文掲載料(APC)が上がった。OAではないB誌にするか?」という点。こちらには少し説明が必要かもしれない。

 研究者人口の増加は研究者間の競争激化を招いた。研究ポジションを得るためには良い業績を出す必要があり、現在それは数字として表されることも多い。

 例えば、論文の引用数、分野ごとの引用数(FWCI)、h-index(論文の被引用数に基づいて算出される研究者の評価指標)、閲覧数、ダウンロード数、SNS拡散数、そして雑誌のインパクトファクター(IF)など。研究者としては、APCは抑えつつ、なるべく高いIFの雑誌に論文を掲載したい。

 現状のAPCとIFの費用対効果で言えば、OA推進のために設立されたNPOにより運営されているPLoS ONEよりも、後からOA商業誌として創刊されたSci Repの方が「若干お得」となってしまった。海外ブランド好きな日本人研究者は某社のかっこうの餌食となり、Sci Repの掲載数がきわめて多い。結果、我が国は国外出版社に購読料とAPCを二重に支払っていることになる。

 理論物理系などの研究者たちと異なり、バイオ研究者はとくに労働集約的であり、研究時間の確保が難しいので、「日本で高IFの雑誌を皆で協力して創刊しましょう」という話には乗ってもらえない。「OAはもちろん、その方が良いでしょ。機関リポジトリ? そんなところに出してもIF付かないし......」というような認識からなかなか進まない。

 ともあれ、2018年4月より東北大学の附属図書館長を拝命することとなった。立命館アジア太平洋大学の学長となられた出口治明先生の流儀に倣えば、「歴史を知り、世界の状況を見て、数字を把握」して、それを研究者の間でも共有し、本学や日本におけるOAを推進していくことが新たな創造に繫がると信じるものである。

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