Dec. 2015No.70

クラウドソーシング/クラウドセンシング群衆の力を科学に活かす

Essay

クラウドソーシングは失業者問題を解決できるか?

MIZUNO Takayuki

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授

 クラウドソーシングが持つ可能性を、失業者問題の視点から見てみよう。国にとって、失業者に働いてもらうことは重要である。クラウドソーシングのウェブサイトを、求人者と求職者のマッチングを行う労働市場と考え、彼らの行動ログを解析することで、失業者問題が解決できないだろうか。

 経済学では、我が国に働きたい失業者がいる原因として次のようなことを考えている。❶求人はあるが失業者は(求人誌などで)求人を探す能力がない。❷求人側が失業者を見つけられない。❸求人が(自分の住んでいる地域に)ない。❹求人はあるが失業者は働くためのスキルがない。❺求人はあるが賃金が安いから他を探して失業を選択する。❶、❷、❸の原因は、求人者と求職者のあらゆる情報が簡単に検索可能で、地域に依存せずに働けるクラウドソーシングであれば解決できると期待されている。❹の原因は、中小企業が高いスキルを要求していないにもかかわらず労働者が集まらないことから、自分のスキルに合う仕事が中小企業にしかないことに失業者が気づかずに、大企業相手に就活しているだけかもしれない。❺も、求人側の提示する賃金が相場より安いことに求人側が気づいていない可能性だってある。どちらにせよ、経済学の観点では、皆が大量の情報を得られるクラウドソーシングサイトがあれば失業者が発生しにくいと考える。

 では果たして、求人者と求職者双方に大量の情報を与えるだけでよいのであろうか。場合によっては、マッチングを阻害する情報や難解な情報もあるだろうから、失業者が減らないどころか増えるかもしれない。例えば、雇用主による労働者の評価履歴、労働者による雇用主の評価履歴があるサイトを考えてみる。求職者は評価の良い求人に殺到するし、求人者も評価の良い求職者の争奪戦になるだろう。評価の良い求職者(or 求人者)には仕事(or 人)が集中し、次々に良い評価を増やしていく。一方で、最初に良い評価を得られないと、仕事(or 人)が一切やって来ないので良い評価も増えない。結局、マッチングがスムーズにいかず、多くの失業者と人手不足の企業が存在し続ける。

 オフラインの労働市場とは異なり、クラウドソーシングのサイトには行動ログが記録されている。このログから、マッチングを阻害する不要な情報や難解な情報は何であるか、利用者はどれくらいの情報を処理できるのかを特定できないだろうか。その知見をもとに、必要な情報を嚙み砕いて伝える仕組みができれば、それはハローワーク等のオフラインの求職求人情報の提供においても役立つであろう。

第70号の記事一覧