Essay
学術と産業がつくる「データのうねり」
関口 智嗣SEKIGUCHI, Satoshi
独立行政法人 情報処理推進機構 上席執行役員/CTO
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 特別顧問
国立情報学研究所 特任研究員
幕張メッセで開催されたCEATEC2025は、InnovationforAllのテーマのもと「AI/DXforeverything」を体現するような展示や議論で熱気に包まれていました。あらゆる分野でAIの適用が進んでいることを実感しましたが、その背景でますます重要度を増しているのが「データ」です。表面的には生成AIや半導体に話題を奪われていたテーマが、「データスペース」「オープンデータ」として再び脚光を浴びてきました。20年前、NIIでNAREGIプロジェクトに携わり、スーパーコンピュータとネットワークとデータをどう結び付けるかを考えていた頃を思い出しました。当時は、研究者が自由にデータを行き来できれば新しい知が拓けるのに、と皆で夢見ていたものです。その発想が「データを資源とする」という考え方となり、いまや産業政策のど真ん中に据えられるようになったのは感慨深いことです。
この流れの中で独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が打ち出したのが「OpenDataSpaces」です。国内の複数の取り組みを共通仕様で束ね、国際的にも一元的に示していこうというものです。経済産業省が進めるウラノス・エコシステムや、経団連のデジタルエコシステム官民協議会の活動とも歩調を合わせ、さらには国際的な発信の場も準備されています。産業界と政府の意気込みが国内外に強くアピールされたといえるでしょう。
一方で、学術界ではオープンサイエンスの推進を背景に、研究成果の再現性確保やデータ公開が着実に進んでいます。しかし両者の議論はまだ十分に交わっていません。両者はメタデータやID、認証、アクセス制御といった基盤要素を共有しているにもかかわらず、学術は「公開と共有」を、産業は「保護と競争力」を前提にしているためです。技術的な要素は共通しているのに、すれ違いがあるのはもったいないことです。
ここでこそ学術の知恵が活きるはずです。積み重ねてきた透明性や信頼性の仕組みは、産業界のデータスペースや国際ルール形成に役立ちますし、逆に産業界の国際展開や実装経験は学術基盤の強化につながります。学術のアイデアをもっと産業界に活かし、日本全体のエコシステム形成に貢献する―その姿勢が求められています。
私自身、NIIの特任研究員として、また長年データとコンピューティング基盤を見てきた立場として、学術の優れた成果を産業に橋渡しし、日本全体をパワーアップさせたいと考えています。「みんなでデータを盛り上げよう」という少しお祭りのような気持ちも大事です。データを資源とする視点を共通の前提に、学術と産業、そして政策を橋渡ししていく動きが広がれば、さらに大きな「データのうねり」が生まれてくるでしょう。