Dec. 2025No.106

[特集]大学をUP!DX戦略が拓く大学変革

NII Today 第106号

Interview

URAがリードする研究データのカルチャー変革

研究データを学内外に積極的に共有し、それを研究力強化につなげる──。そんな“カルチャーチェンジ”ともいえる研究データマネジメント(RDM)を、大学の研究推進を担う専門職「URA」がリードすることでドラスティックに進めようとしているのが、広島大学と藤田医科大学だ。RDMをURAの視点から促進する利点と、横たわる課題、そして国立情報学研究所(NII)が果たし得る役割について、当事者の2人に聞いた。

平田 徳宏

HIRATA, Norihiro

広島大学 学術・社会連携室
未来共創科学研究本部 シニアURA

九州大学大学院理学研究科修了(博士(理学))。複数の大学で、技術移転・産学連携マネジメント、研究プロジェクトの企画・運営支援、研究基盤の整備に従事。2024年から広島大学シニアURAとして、J-PEAKS 事業や研究データマネジメントの実施支援を担当している。

小清水 久嗣

KOSHIMIZU, Hisatsugu

藤田医科大学 研究推進本部
URA室 室長・教授

大阪大学大学院理学研究科修了。博士(理学)。研究の専門は神経科学。産業技術総合研究所、米国立衛生研究所 (NIH)などを経て、2011年に藤田保健衛生大学(当時)に着任。2018年からは現在の研究推進本部にて研究力強化を主たるミッションとする。2023年よりURA室長。J-PEAKS事業ではリエゾンを務める。

山地 一禎

ファシリテータYAMAJI, Kazutsuna

国立情報学研究所
コンテンツ科学研究系 教授

(敬称略)

研究データを学内外に積極的に共有し、それを研究力強化につなげる──。そんな"カルチャーチェンジ"ともいえる研究データマネジメント(RDM)を、大学の研究推進を担う専門職「URA」1がリードすることでドラスティックに進めようとしているのが、広島大学と藤田医科大学だ。RDMをURAの視点から促進する利点と、横たわる課題、そして国立情報学研究所(NII)が果たし得る役割について、当事者の2人に聞いた。

大学DX化の現状

山地 藤田医科大学と広島大学は、共にJ-PEAKS2の採択校です。研究データのDXが、今どのような状況にあるかを教えてください。

小清水 私立の単科大学である藤田医科大学は、創設者の藤田啓介氏が医師であり生化学の研究者だったことから、教育のみならず研究にも重きを置いています。特にここ10年は、精神・神経、再生医療、がん、感染症など各分野のトップレベルの研究者をリーダーに、学内外から元気な若手・中堅研究者を集めた研究組織を立ち上げ、研究力が高まっています。そうした中、研究データを共有・活用する体制を、順次整えている状況です。

山地 具体的にはどんな取り組みを進めていますか?

小清水 当校では、複数の研究部局などをまとめた研究推進本部の本部長を学長が兼ね、月2回の本部会議を通してそれぞれの研究状況をオンタイムで共有しています。その中で私が室長を務めるURA室では、研究力評価や、各部局の研究費の獲得、研究成果の発信などを支援し、その一環としてRDMの取り組みも担わせていただいています。昨年は、図書館と共同で申請した「オープンアクセス加速化事業」に採択され、オープンアクセス・オープンサイエンス推進委員会(OA/OS委員会)を立ち上げました。そこに、各学部を代表する先生や、学術誌の編集長経験のある先生、当校のデータベースを運営されている先生などに入っていただきながら、データ管理の指針となる研究データポリシーの策定などを進めています。

平田 広島大学は、J-PEAKSを含め研究力の強化・促進を目的とした国の支援プログラムに採択され、研究大学としての機能強化を推進しています。本学には藤田医科大学と同様に、URA組織が研究推進の中核を担い、外部資金の獲得支援などを通じて研究活動を機動的に担う体制を構築しています。こうしたURAの機能発揮が、広島大学の研究力向上に大きく寄与していると考えています。研究データマネジメントに関しては、2021年度に、「広島大学 研究データ管理・公開・利活用ポリシー」を策定しました。しかし、その後の組織変更や研究環境の変化を受け、現在、その内容をアップデートする必要性が生じています。

 2024年度には、文部科学省の「オープンアクセス加速化事業3」に採択されたことを契機に、URA、図書館、研究戦略・支援グループ、情報化推進グループ、知的財産部が連携し、オープンサイエンス・オープンアクセスを全学的に推進する体制を構築しました。申請段階から複数の部署が協働し、採択をきっかけとして、広島大学全体での仕切り直しと新たな取り組みが動き出しました。その推進のリード役をURAが担うこととなり、研究力強化に資する業務として活動を展開しています。研究者への「オープンサイエンス」や「研究データマネジメントの重要性」の周知にあたっては、国立情報学研究所(NII)が提供する研究データ保存・共有クラウド「GakuNin RDM」を積極的に紹介しながら、研究データの管理や共有の重要性の理解を深めながら、広島大学の研究基盤をさらに強化していきたいと考えています。

山地 URAが研究資金の獲得だけでなく、データ管理を通したオープンアクセス、オープンサイエンスを実現させることで研究力強化を図る。そんな「URA DX」に取り組まれているわけですね。

小清水 研究データポリシーについては、藤田医科大学でも現在、草案を共有して学内で意見を募っているところで、研究大学として認知されてきた同校の独自性もできればしっかり盛り込めればと思っています。例えば論文が学術誌に掲載された際、必要に応じて根拠データを提出することが前提となっているにもかかわらず、実際にそれを求められたときに応じないというのは、倫理的にも研究公正の面でも問題となります。当校ではポリシー解説の中で、合理的な理由なく研究データを秘匿することはやめてください、といった内容も盛り込む予定です。

山地 公的な研究資金を使った研究なのだからできるだけ広くデータを共有しましょうとか、研究データの公開を研究のアドバンテージにしようという考え方は、従来の研究カルチャーとは大きく異なります。それをふまえると、研究者の視点でも捉えた「研究のカルチャーチェンジ」に挑まれているとも表現できそうです。

研究データ管理の課題と対応策

平田 研究データマネジメント管理に関するURAのコミットメントに関しては、広島大学は今まさに過渡期にあると感じています。2021年に策定した「研究データ管理・公開・利活用ポリシー」は、URAは策定メンバーに入らず、論文の公開を担う図書館や、データインフラを担う情報部門、研究推進・支援を担う事務部門メンバーが策定をリードしました。それも一つのやり方だと思いますが、一方でこれらの部門からは、研究者と接する機会はあるものの、研究の現場において研究データがどのようなプロセスを経て生み出されているのか想定の範囲を超えないといった話も聞きます。そこで研究力強化を担うURAがリード役として研究データマネジメントにコミットしていきましょうという動きが新たに始まりました。これまで、広島大学のURAは外部資金獲得支援に注力し実績を重ねてきたという経緯もあり、研究データマネジメントに関する役割をURA業務として認知・理解してもらう動きも進めています。

小清水 やはり研究者の視点で改革するには、自分も研究者であり、現場の実情を体感できている人材が推進役に回ることが大切でしょう。当校はそこを理解して、URAにRDMのリード役を任せてくださっているのではないかと思います。

平田 研究データマネジメントに関するポリシーは、策定することが目的ではなく、それを研究現場にどう周知し、履行してもらうかが重要です。私は、これまで研究プロセスの川上(研究企画・外部資金獲得など)から川下(技術移転・産学連携など)までの実践経験があり、研究大学における研究活動を俯瞰(ふかん)して見てきた中で、研究成果を学内外に発信し社会で活用してもらう仕組みを整えることで、その結果、研究者が夢を持って研究に邁進(まいしん)できるようになるという構想をイメージしながら、研究現場と大学執行部に研究データマネジメントの重要性を提案していきたいです。

山地 早くに研究データポリシーを策定した大学が、今度はそれをアップデートするというのは、これまでには見られなかった動きです。

平田 それに関しては、NIIが中心となって構築を担っている研究データエコシステム4の枠組みが大きな後押しとなっています。その中に他地域の取り組みを共有する仕組みがあり、そこでたくさんの大学の取り組みを見聞きする中で、データポリシーのアップデートの必要性を感じることができました。そもそも私自身が、そうしたオープンアクセスの仕組みによって、オープンサイエンスに対する理解を短期間で深められたという経緯があります。

小清水 当校の課題は、データの全容把握が難しい点です。OA/OS委員会では、講座、研究者レベルのボトムアップ的なデータの受け皿を作ろうとしています。こちらはアンケートを通して把握を進めていて、少なくともメタデータに関してはGakuNin RDMを使って収集管理できそうな見込みです。一方で、例えば企業と一緒に合弁会社を作って医療ビッグデータを活用したり、大学をまたぐ形で臨床系のデータを取り扱ったりという、トップダウン的に大規模データを扱うプロジェクトがあります。そちらは独自に走っているところもあるので、こうしたデータ群をどう把握し、どこまでをどう管理するかのデザインについて議論を進めています。

山地 それぞれでヘテロに(異質な形で)行われている研究に、新しくガ イドラインのようなものをはめ込む形になるので、ワンフィッツオールでまとめるのはなかなか難しい。かといって、ルールが緩すぎるとガバナンスが利かず、結果的に研究者や組織にとってマイナスになってしまいます。

平田 広島大学では、大学全体のポリシーのもとに、研究領域ごとに実施手順を策定することを計画しています。研究領域ごとに研究データマネジメントの手順が異なることを想定しており、画一的に研究データマネジメントポリシーを周知しても、研究現場から反発を買って何もできないということにもなりかねません。もちろん研究データマネジメントの実践に際し、研究者側に相応のマインドチェンジや手間が生じることになるのですが、だからこそ義務として押し付けるのではなく、それをやることで研究者の研究データマネジメントの苦労が解決できるなどのメリット部分を強調し、前向きに受け入れてもらえるようにしたいです。

小清水 これまではジャーナルインパクトファクター(IF)の高いジャーナルに論文掲載されることが最大の評価指標だったのが、今日では個々の論文の被引用数やそれに関連した指標で大学や研究者が評価されるようになってきた、という潮流をURAが5年ほど前から発信してきました。あわせて設けたのが、論文の被引用数が学内研究費の評価に用いられるという、インセンティブが働く仕組みです。そうした取り組みを通して、オープンアクセスにするとたくさんの人に読んでもらえて引用数が上がり、結果、評価が高まって研究費を獲得しやすくなり、プロモーションにも繫がるという流れに対する認知を高められたのかなと。

山地 さまざまなジレンマに向き合いながらDXに手探りで臨まれるお二人のようなURAが各校で登場してきたことで、大学のデータ管理のあり方が今、大きく変わりつつあるのを実感しています。

NIIがなすべきこと

山地 そうした中でNIIには、機関を超えた連携やコミュニティを促す"横 串"的な役割も求められると思います。NIIの役割についてはどうお考えですか?

平田 研究データマネジメントを推進するにあたって、大容量のデータストレージを各大学で維持管理するのは、コスト的にも大きな負担となります。だからこそ、ナショナルデータセンターのような共通基盤を受益者が適切なコスト負担により利活用できる仕組みの運営をNIIに担っていただけるとありがたいです。私たち大学側としては、NIIが提供しているGakuNin RDMなどの研究データマネジメントシステムの利活用実績をどんどん上げ、データストレージシステムを実現・維持する一助としたいです。

小清水 私は、やはりインセンティブのデザインがすごく重要だと感じます。みなさんが幸せになれるエコシステムにならないと、結局は持続しません。その点、日本は研究を支える事務方が受け取る間接費の割合が少ないともいわれるだけに、そこもうまくチューニングし、優秀な事務人材に高いモチベーションで担っていただけるようにしたいです。その部分の情報共有もNIIに後押ししていただけると、日本の研究コミュニティにとって非常にポジティブではないでしょうか。

山地 なるほど、研究を足もとで支える方々のあり方を持続的なものにするためにも、データ管理やオープンサイエンスが大切になってくると。そうした視点からも、NIIは単純にインフラやツールを提供するだけでなく、センシティブな情報や実務の知見をうまく共有できる場を作ることが大切であると感じました。

[1]URA:University Research Administrator。大学などで研究推進を目的に、外部資金の獲得、研究戦略の立案、産学連携の推進などを支援する役職。

[2]J-PEAKS:地域中核・特色ある研究大学強化促進事業。地域に根ざし、特色ある研究をする大学を対象に、国際展開や社会実装の加速に必要な環境整備を支援する政府事業。

[3]オープンアクセス加速化事業:大学などの研究成果の管理・利活用システム(機関リポジトリなど)の開発・高度化などを支援し、即時オープンアクセスに向けた体制整備・システム改革を加速させることを目的とする文部科学省の事業。

[4]研究データエコシステム:研究者、大学、国、企業などが、研究データを共有・利活用できるように連携して循環させる仕組み。

取材・構成:田嶋 章博/写真:杉崎 恭一

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