NIIオープンハウス2015 レポート

所長挨拶・NII活動報告

「新SINETに向けて:全国・対米100ギガ化を目指す~NIIが描くe-infrastructure」

喜連川 優(国立情報学研究所 所長)

本日はオープンハウスにお越しいただきありがとうございます。この後、メディアをユニークに牽引されてこられました角川歴彦会長にお話しをいただきます。明日も株式会社ドワンゴさんのご協力でニコニコ生放送で生中継をしていただくことになります。アカデミアのコンテンツと学術が今後どのように融合してくか、ご堪能いただければと思います。

 

今年は非常にシンボリックな年です。平成28年4月1日からSINET5が全国100ギガ化するということで現在移行作業を進めています。わたくしが来たときは2年連続予算減となってしまいました。NIIは東京大学情報図書館学研究センター発足(1976年)に端を発しています。いわゆる研究所というイメージからいうと、研究だけを行っていると思われますが、研究と事業の2つの両輪で行っている世界的にも珍しい組織であり、好循環の源泉であります。NIIは今度どのように進むかというと、多くのプレイヤーとともに常にITの先端を走る、ということに尽きると思います。

NIIが行ってきたサービスというのはSINETという学術情報ネットワークです。加入機関はどんどん増えてきている状況であり、これは学術・教育において、大きなコンテンツを扱う場合、SINETを使うことが経済的に便益を与えるという証左であると考えます。日本の中での大規模な実験装置からはじまり、外国にある大型実験装置などは、SINETが生命線であるという状況です。もちろん学術情報や教育にもなくてはならない存在です。

 

SINETを40ギガにしたときは世界初でしたが、平成23年ごろアメリカが100ギガへと移行しました。さすがに世界から陸の孤島になるという危惧から、日本学術会議や国立大学協会から力強いエンドースメントをいただき、ようやくSINETの新整備が認められました。

100ギガ化の意義として重要なポイントはクラウド化ができることです。1点目は、本質的価値は「所有から利用へ」ということです。多くのシステムの利用率は5%以下でありクラウドによる圧倒的効率化が狙えます。2点目は、圧倒的に短時間で実現できるという点です。調達の手間を大幅軽減できます。最後のポイントは、最新テクノロジーのデプロイが可能となるという点です。クラウド上で新しいソフトウエアがデプロイされ、様々なチャレンジができる。この価値を実現するためには、SINETの大容量化が圧倒的なベネフィットになるといえます。「管理・運用等にかかるコストの軽減」「業務の省力化・効率化」が効果として見込まれ、検討中も含め、クラウド導入予定の大学は増えています。研究基盤の導入予定が現在では少ない状況ではありますが、アメリカのスタンフォード大学では、コンピュータサイエンスはクラウド化するという動きもあります。

 

日本の中でクラウドがどのように利用されているのかというと、クラウドの市場は、日本は世界と比較して少ない状況です。日本はなぜか独自のものを作りたがる傾向があり、どんどんカスタマイズするという文化です。NIIが描いているのは、「学術サービスを皆で作ろう」ということで、競争とはいえ日本の中で戦う意味はありません。共通領域というものと競争領域(特徴領域)を区別しメリハリをつけるべきだと思います。

そうすると、クラウド調達に関してNIIは何ができるのかというと、「四角くする」ということです。四角くするというのは、サーバの使用率の変動は大きく波打つ。この変動においてピークをいかに減らすか、ということです。800の大学が集まればダイバーシティの力がでるのではないでしょうか。

クラウドも集中と分散のバランスが重要です。適度な物理的・論理的ローカリゼーションをかけていかなければならないと考えています。天文のクラウド、物理学のクラウド、バイオのクラウドはそれぞれ異なるだろうとことです。

 

先日、UBERを利用しました。これはすごいと思った点は、とにかく速い。申し込んでから、配車予約は1~2秒で完了します。このスピード感、そしてとても正確(ローカリゼーション)です。UBERが極度なローカリゼーションをしていると考えられます。名前から場所への変換関数を非常に丁寧につくっていると。そうすると、100ギガ化の意義、デプロイが早いということ、そしてデプロイをローカライズするという点は、エッジITサービスと通じるのではないかという気がします。

 

もうひとつのドライブはなにかというとオープンサイエンスです。今までのサイエンスのオープン化というのは、誰でも論文を読めるようにしなければならないというオープンアクセスという点でなされてきました。その次が、論文を書いた際に使ったデータをオープンにするという動きです。ヨーロッパを中心に、リサーチデータをどのようなプラットフォームで管理するかという動きがあります。たとえばマテリアルゲノム、物質材料、DDBJ、ADNI、NBDC、MatNavi、DIAS、ありとあらゆるものが、データドリブンな世界になってきています。そういうときに、データ基盤が脆弱では世界の研究には勝てない。IT+ドメインのダブルメジャーが必要になってきており、今後加速度的に進んでいくだろうと思います。

 

もうひとつ面白いのは、データジャーナルというものが出てきています。このデータは良い、というのし紙=レッテルをはるという仕組みです。データ基盤は地味かもしれませんが、あらゆる科学において力の源泉となりつつあります。ここでCold Storageへの期待が出てきます。データをみると、ほとんどはアクセスされていないものが多いのですが、しかしデータ保存の要求は無視できません。データリテンションの煩雑さからの解放メリットは絶大です。

 

最後に、脱不正論文問題です。論文発表し、使ったデータで再現できる、オープンデータプラットフォームとフューズしたものを今後作っていかなければならないと思います。NIIでは、JAIRO Cloudにて機関リポジトリのホスティングを提供しています。クラウドストレージのディスカウントはコンピューティングほど大きくありませんが、有効であることは事実だと思います。

 

本日の講演を振り返ると、調達パワーを超巨大化する、ということです。今日ITの王道の考え方です。クラウド調達を一緒にやると圧倒的なsavingが可能です。これを次の新たIT投資へということを考えていかなければならない時代になったと思います。所長就任時から、NIIは、「共考共創」一緒に考えて一緒に作りましょうというと申し上げております。今後とも何卒ご支援のほどをよろしくお願いしたいと思います。

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