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地方創生に積極的なIT活用を - NII Interview (74-1)

人口減少や少子高齢化、地域経済の衰退など日本が直面している課題解決のため、政府は各地域がそれぞれの特徴を生かして自律的で持続的な社会をつくる「地方創生」の推進に取り組んでいる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が独自の地域経済分析システムを提供するなど、地方の競争力を高める有用な手段として期待されるのがデータおよびITの活用だ。内閣府地方創生推進事務局と両輪となって地方創生推進に取り組む同本部事務局次長の髙

takahashi74-1.jpg髙はし 淳 TAKAHASHI Jun
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長/内閣審議官

東京大学法学部卒業。1988年通商産業省(現経済産業省)に入省。商務情報政策局情報処理振興課長、大臣官房参事官(商務流通保安グループ担当)、経済産業政策局地域経済産業グループ地域経済産業政策課長等を経て、2016年8月より現職。

 2年前にまち・ひと・しごと創生本部が設置され、地方創生が進められていますが、従来の町おこしとは何が違うのでしょうか?

髙はし 一番の違いは、背景にわが国の人口問題への強烈な危機感があることです。日本の出生数・出生率は昭和50年ごろ(1970年代半ば)から減少傾向にあり、ここ数年、やや持ち直す傾向にはあるものの、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に子どもを何人生むか示す指標)が人口規模を維持できる水準の2.07を下回る状態が、40年以上も続いているのです。
 出生率だけを見れば、地方が高く、東京圏は群を抜いて低いことがわかります。一方で、地方から東京圏への人口移動による東京への一極集中は、止まる気配がありません。つまり、地方での出生率が高くなっても、実際には地方の人口は増えていないのです。特に若年層の女性の地方への定着率が低いことが、大きな問題となっています。もちろん、東京圏に人が集まるのは、それだけ東京が快適かつ安全で、暮らしやすい都市であるがゆえで、日本の魅力を支える重要な要因となっています。ただし、このまま東京一極集中が続けば、いずれ人口減少は地方だけの問題ではなくなり、都市圏でも、労働人口の減少や医療・介護施設の不足など、深刻な事態に陥るでしょう。

 地方創生は、現実的な問題解決の手段だということですね。

髙はし はい。実は東京でも、子育て環境の改善により、中央区など都心の一部で出生率が回復しつつあります。お金に余裕さえあれば、東京の方が住みやすいということになれば、地方創生など不要だという風潮を招きかねません。単に人口問題だけにとらわれることなく、今こそ、東京と地方が互いに維持・発展できるような適正な人口比率を見通し、どういう国土の在り方を目指すべきなのかを真剣に考える時にきているのです。
 そうした中、まち・ひと・しごと創生本部では、地方に仕事を増やし、地方への人の流れを生み出して、若い世代の結婚・出産・子育ての環境を整え、安心な暮らしを守るためのさまざまな施策に取り組んでいるところです。

 リソースが限られる中で、いかに施策を進めていくかが重要です。

髙はし おっしゃる通りで、国はひな型を示すだけでなく、地方で人が足りないなら国から人を地方へ送るし、各地域の先駆性を有する事業に交付金を付けたり、情報を提供したりと、人・金・情報をできる限り投入する姿勢で臨んでいます。ただし、主体はあくまでも各自治体であって、自治体自らが人口問題を切実な問題として捉え、積極的に戦略を打ち出していくことが前提です。そのため、平成26年には「まち・ひと・しごと創生法」を施行し、すべての都道府県・市区町村に、「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を策定することを義務付けました。人口が少ない自治体であっても、リーダーがきちんと戦略を立て、摩擦を恐れずに取り組んでいる地域は強いし、生き残っていけるはずです。
 一方、限られたリソースを有効に活用するためには、都市機能の集約化やコンパクトシティー化なども同時に進めていく必要があるでしょう。

 中途半端に開発をした地域よりも、手付かずの自然や歴史的遺産がある地域のほうが、価値が高まるということもあります。人口規模ではなく、自治体の姿勢が問われています。情報提供という意味では、昨年4 月から地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」[1]を公開されましたね。

髙はし RESASは、企業間取引や人の流れ、人口動態など、地域経済に関わるさまざまなビッグデータを収集し、わかりやすく「見える化」するシステムです。地方創生のために、地域の現状・実態を正確に把握した上で、将来の姿を客観的に予測し、地域の実情・特性に応じた施策の検討と実行に活用していただきたいと考えています。
 具体的には、「産業マップ」「人口マップ」「観光マップ」「自治体比較マップ」の四つのメニューがあり、産業構造の全体像を俯瞰したり、拠点間のつながりをビジュアルで確認したりすることが可能です。この11月からは新しくデータを加工して使うことができるようにもなりました。先に述べた地方版総合戦略の中でKPI(重要業績評価指標)を定める際にも、RESASをぜひ積極的に活用していただきたいと思います。

 地域のブランド形成やマーケティングにも活用できそうです。

髙はし 地方の名産品のブランド化やマーケティングはもちろんのこと、人の移動といったダイナミックなデータを活用した観光政策などにも有用です。今後はさらに、都道府県単位ばかりでなく自治体単位での指標の整備を進め、より使い勝手の良いデータを用意していきたい。さまざまな使い方をしていただき、優れたアイデアがあれば、コンテストなどを通じて共有していく予定です。

 労働人口不足を補う意味では、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、ロボットなど先進的なITも活躍できそうです。

髙はし 地方では、サービス業の生産性を上げることが大きな課題となっています。そこにAI やロボットがどう絡むのか未知数ではありますが、例えば介護の現場にロボットを導入するとか、データ解析にAI を活用することで思いがけないつながりを見いだしてイノベーションにつなげるとか、そういったことが可能になるかもしれません。
 それ以前に、既存のITで実現できることもまだまだ数多くあるはずです。例えば、神奈川県秦野市にある温泉旅館の「陣屋」は、予約システムのクラウド化やソーシャルメディアとの連携で効率化を進め、存続の危機から経営を立て直しました。さらに、その際に導入したクラウドアプリケーションを「陣屋コネクト」として他の旅館やホテルに提供するという、新しいビジネスモデルも創出されました。ビッグデータやITは地方創生に欠かせない要素であり、さらなる進展と社会実装に大いに期待しています。

(写真=高橋美都)

[1]RESAS:https://resas.go.jp/

インタビュアーからのひとこと

 これまで地方経済の発展とは、政府が用意したひな型に沿って、政府からいかにカネを引き出し、どう東京に近づけるかが大事だった。それが地方自治体の重要な仕事だった。だから東京に近く、人口が大きいほどやりやすかった。
 ところがインターネットやビッグデータ、AIなどが比較的簡単に活用できる情報化社会になると、その常識が一変する可能性があるのではないか。小さい町だからこそ、一点豪華で特色ある投資ができるかもしれない。東京から遠く、開発されていない手つかずの自然がある田舎だからこそ、発信する情報に価値が見いだされるのかもしれない。「地方創生」のあり方が変わるくらいの革新事例が出てくることを期待したい。

hara74-1.jpg原 真人 HARA Makoto
朝日新聞社 編集委員

1985 年早稲田大学商学部卒、日本経済新聞社を経て、88 年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経済産業省、金融庁、総務省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済担当の編集委員。著書に『日本「一発屋」論』『経済ニュースの裏読み深読み』(いずれも朝日新聞出版)、共著に『失われた〈20 年〉』(岩波書店)、『不安大国ニッポン』(朝日新聞社)など。

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第74号/2016年12月発行

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