Dec. 2016No.74

地方創生情報学が果たすべき役割

Article

ネットワークの専門家 「小説家」になる!? NIIの人々 vol.3

漆谷 重雄

Shigeo Urushidani

アーキテクチャ科学研究系 教授
1960年生まれ。博士(工学)(東京大学)。超高速・高信頼ネットワークのアーキテクチャー及びシステムの研究開発、各種高速ネットワークの設計・構築などに従事。現在は、学術情報ネットワーク(SINET)などを担当している。

池澤 あやか

Ayaka Ikezawa

タレント/エンジニア。「Rubyの女神」と呼ばれ、特に IT分野で活躍。著書に『アイディアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)。第6回「東宝シンデレラ」審査員特別賞。

imag74-5.jpg

『時代を映すインフラ ─ネットと未来─』を手にする2人。
「ネットワークがすごい速さで進化していると分かりました」と池澤さん。

─ネットワークの専門家なのに、小説も書くんですか?(池澤)

漆谷 「私と栗本崇准教授の共著『時代を映すインフラ ─ネットと未来─』は、情報通信ネットワークの変遷について解説した学術書なんですが、若い世代の方にも気軽に読んでもらいたいと思い、思い切って高校生を主人公にした" 小説仕立て"にしてみました。主人公は、幼なじみの一橋未来と竹橋真凛。好奇心旺盛な2人が、家族や親戚の話を基に、ネットワークの進化をひもといていくというストーリーです」

─ネットワークの設計や構築をすることと、本を書くことは正反対の作業のように思うのですが、書く時は頭の中のスイッチが切り替わるとか?

「研究者なので論文は書きます。だから初めは論文みたいな堅い文章でこの本を書いていたんです。でも途中で『なんだか面白くない!』って(笑)。スマホやSNSを使いこなすイマドキの高校生を見て、この子たちの目線から過去のネットワークの世界を見たら面白いかもしれないと。未来君のキャラクターはそこから誕生しました」

――すごい!そんなことが頭に浮かんでくるなんてまさに小説家ですね。しかも、この本をわずか1週間ほどで書き上げたと聞きました。超高速ネットワークの専門家は、執筆も超高速なんですね(笑)。

「高速というより集中して仕事をする方だと思います。でもすごく疲れてしまった時は、未来君の家族のように、お菓子を食べながら家族と団らんするんですよ」

─そうなんですか。ということは、ご自身のご家庭が未来君一家のモデルになっているんですね。

「未来君の家族や親戚が集まってわいわい話す様子はまさに我が家の風景です。家族の姿がヒントとなり、今回の具体的なストーリーが浮かびました。そして、幅広い世代の方に楽しく読んでもらえるようにしたいと思ったので、イラスト入りの解説を付けたり、それぞれの時代の通信機器がどんな場面でどのように利用されていたのかが分かるエピソードを盛り込んだりしました」

─次回のテーマはネットワークの未来ですか?

「20年余りでこれほどの進化を遂げたネットワークが今後どれくらいのスピードでどんなふうに進化していくのか、私も予測できません。でも、本の最後で未来君が言っているように、『誰かが新しい技術を日々開発して、着実にネットを進化させてくれる。そして僕らの暮らしを豊かにしてくれる』ということは間違いありません。その『誰か』の一人に私がなれればと思っています」

(構成=高橋美都 写真=長尾亜紀)

※NIIが推進する情報学の総合的研究の内容を一般の方々に分かりやすく紹介し、情報学をより身近に感じてもらうため、新書(丸善ライブラリー)として刊行されている情報研シリーズの最新刊。

NIIの人々に会って

未来君のお父さんは、ITには強いけれど、奥さんには弱くて(笑)家族思い。ご家族のことを語る時、眼鏡の奥の目が優しくなる漆谷先生のイメージと重なりました。本業はもちろんネットワークですが、家族団らんからストーリーを思いついたり、読者に楽しんでもらえるように趣向を凝らしたりと、"作家魂"も感じました。次回作は未定とのことですが、未来君と真凜ちゃんと10年後、20年後の未来を旅してみたくなりました。

第74号の記事一覧