Sep. 2022No.96

智の結晶が発見できるCiNii Research 本格始動

Article

分野を超えて "ナビ"してくれる研究基盤

研究者、図書館職員らが語る CiNii Researchの強み、そして期待

2022年4月に本格運用が始まり、新たなフェイズに入ったCiNii Research。検索やデータ活用する人たちは、どんな価値を見出し、いかなる期待を寄せるのか。さまざまな立場の方々に「本音」を尋ねた。

後藤 真 氏

GOTO, Makoto

人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館 准教授

専門は歴史情報学・人文情報学。特に日本の各地域の歴史資料のデータインフラ構築とそれを活用した研究、歴史学を中心とした人文学研究データの蓄積と利活用に関する検討を行っている。人文系研究評価の検討にも従事している

田辺 浩介 氏

TANABE, Kosuke

物質・材料研究機構
統合型材料開発・情報基盤部門材料データプラットフォームセンター
主任エンジニア

図書館システム・研究者総覧システム・データリポジトリなど、学術情報流通に関するシステムの設計・ 開発・運用に従事。東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科助手を経て現職。「CiNii Researchに関する検討会」委員。

山形 知実 氏

YAMAGATA, Tomomi

北海道大学附属図書館 研究支援課
研究支援企画担当係員

大学図書館での資料購入と管理、大学図書館コンソ―シアム連合(JUSTICE)事務局員を経て現職。主な関心は、オープンアクセスの広がりによる学術情報流通の変転。

大向 一輝

OHMUKAI, Ikki

東京大学大学院人文社会系
研究科附属次世代人文学開発センター 准教授
NII客員准教授

国立情報学研究所助教、同准教授を経て現職。人文情報学、ウェブ情報学、学術コミュニケーションの研究開発と教育に携わる。著書に『ウェブがわかる本』(岩波書店)など。「これからの学術情報システム構築検討委員会」委員長。

吉田 光男

YOSHIDA, Mitsuo

筑波大学 ビジネスサイエンス系 准教授
NII客員准教授

豊橋技術科学大学大学院工学研究科(情報・知能工学系) 助教を経て現職。主にウェブで得られる大規模なデータを用いて、社会現象を定量的・実証的に観測・分析する研究に取り組む。著書(共著)に『計算社会科学入門』(丸善出版)など。

―最初に、それぞれのCiNii Researchとの関わり、ご自身の使い方などについてお聞きしたいと思います。

大向  3年前まで国立情報学研究所(NII)でCiNii1シリーズの開発リーダーを務めていました。CiNii Researchに関しては、基本コンセプトを考え、開発のロードマップを引くあたりまで関わりました。今は東京大学の文学部におり、人文系の研究者や学生がこうした情報技術をどう使っていくか、あるいはそのためのデータをどう作ればいいのかといったことを研究テーマに、1ユーザーとしてCiNiiを見ています。

後藤 純粋にユーザーの視点でいうと、CiNii Researchとは、まずは必要な論文を探す際の"とっかかり"であることは言うまでもないと思います。現在の職場、国立歴史民俗博物館に行く前は関西の小さな私大で教員をしていましたが、当時は学生に教える際、「まずはCiNiiを引け。話はそれからだ」とよく言っていました。

歴史の講義で学生を連れて東京巡検に行った際には、江戸城跡から見えるNIIの入っているビルを指して、学生に「あれがCiNiiの里だ」と言ったら、みんな手を合わせていましたよ(笑)。

山形 北海道大学の大学図書館に勤務している立場からすると、CiNii Researchは、新入生向けのさまざまなサービスガイダンスのなかで、最初に紹介するものの一つという存在です。初めに紹介するものとして、他に「Web of Science」(学術論文データベース)や「PubMed」(医学や生物学分野の学術論文データベース)などもありますが、特にCiNii Researchは日本語がベースということで、初学者にも取っ付きやすいし、我々にとっても紹介しやすいと言えます。

一方、図書館業務の中では、ILL(図書館間の相互利用)の作業で、他の機関で目的の資料を所蔵しているかどうかを調べる目的で利用されています。

田辺 CiNii Researchの検討会のメンバーの一人として、いくつか意見を言う、というのが個人的な関わりです。現在の私の職場である物質・材料研究機構では、データリポジトリT2の開発・運用に携わっており、その関係で、材料科学に関する所内の実験データなどを公開用に集め、CiNii Researchにも載せていくというのが大きな課題となっています。

吉田 筑波大学で主にSNSの研究、最近では学術情報検索の研究などに携わっています。NIIの客員准教授として、CiNii Researchの中では新しい機能開発の検討などを中心に手掛けています。実を言えば仕事上は英語文献を調べることが多いうえ、私の大学では学内検索システムの「Tulips Search」で、契約の範囲内で本文にもアクセスできるため、あえてCiNii Researchを使って抄録を見る機会は多くありません。ただ、テレビなどに登場する研究者の方に関し、「この先生はどんなものを書いているのかな」などを調べる用途には、しばしば使っています。

―CiNii Researchの強み、弱みについてお聞かせください。

後藤  日本語文献が網羅的に探せることは、CiNiiの最大のメリットだと思っています。特にCiNii Researchになってから、一番ありがたいのは論文と書籍が同時に探せるようになったことです。また網羅性が高く、漏れ落ちも少ない。特に人文学で、かつ日本のことを扱っているなら、まずは日本語文献をきっちり探せることが重要ですから、これも大きなメリットです。

大向 後藤先生同様、人文系の学部にいる立場としての見方ですが、人文系と理数系の大きな違いとして、「論文だけで評価されるわけではなく、書籍なども評価対象としてミックスされてくる」ということがあると思います。新たなCiNii Researchでは、論文、書籍に加えて現在手掛けている研究プロジェクトまでまとめて引くことが可能になりました。「この人は何の研究をしてきたのか」を、ひとつの画面のなかである程度総覧できるというのは強みだろうと思います。

一方で、それは自分もどう見られるかについて――セルフブランディングとまではいきませんが、研究者として意識する必要が出てきたということも感じています。

山形 個人的には、どこから本文にアクセスできるのか、というのが、旧CiNii Articlesに比べると若干わかりにくくなったように感じます。これは長らく統合前のCiNiiシリーズに馴染んでいたためかもしれませんが、パッと見てわかるアクセシビリティがあると嬉しいなと思います。

後藤 実は先ほど言ったことの裏返しになってしまうのですが、論文、書籍等が同時に検索できるようになったのはありがたい一方で、それによって望まない情報も混ざりやすくなったとも少し感じています。もちろんそれは検索のテクニックで解決することではありますが、そうしたテクニックが余計に必要になったこと自体は一つの弱点かなと思います。ただ、私自身、多くの統合検索システムに関わっていますが、これはそういうところで必ず生じる問題ではあります。

質の違う情報がまとまって検索できることは、一覧性の点でメリットがあり、予想外の発見に結び付くこともありますが、結果的に、情報の質などは判断しづらくなる。そこが解決できれば、もっと使いやすくなるとも思いますが。

吉田 CiNii Researchだけでなく、抄録データベース全体に言える話なのですが、どの範囲の論文が検索できるのかがなかなかわからないのは弱点と言えるかなと思います。私自身は長く使っているので、収録しているデータベース一覧などを見ればある程度範囲の想像はつきますが、慣れていない学生には、わりと想像できない。実際には抄録データベースと電子ジャーナルなどの出版システムとの違いがわからない人も多く、それによって本当に探したいものになかなかたどり着けていないケースもあります。

山形 確かに、本文を見るデータベースと、抄録データベースとの違いは、特に初学の学生には区別がついていないことも多いですね。大学のネットワークの中にいると、電子ジャーナルなどの契約コンテンツへのアクセスまですべてつながっていてシームレスに見えてしまうので、余計にそうした問題が起こりやすいとも言えそうです。私自身の仕事との関わりで言うと、そのあたりも附属図書館のガイダンスできちんと教育していくべきところかもしれません。

田辺 私のいる研究所の場合、学生がいないということもあり、CiNii Researchの使用頻度はそれほど高くありません。専門の研究者の場合は、毎日見るデータベース・サービスはわりと決まっている傾向があり、なかでも「Web of Science」や「Scopus」(学術論文のデータベース)のような商用データベース、あるいは「Google Scholar」(学術論文のデータベース)を使う場合が圧倒的に多いように思います。やはり専門的なデータを深く調べようと思うと、CiNii Researchではやや不足を感じます。その点で、CiNii Researchから専門的なデータベースへと、もう少しつながりがあればよいなと思っています。

また、先ほど後藤先生がおっしゃったことと同じですが、「このデータがなぜここに出てくるのか」が少々わかりにくい。例えば研究データと一言で表現しても、ジャーナルのサプリメンタル・データなのか、あるいはジャーナルとは無関係にデータだけ独立してあるものなのか。現状だとややわかりにくいと感じています。「日本のものだけ」探せるのも、研究データの場合はどれだけ意味があるのかという問題もあると思います。

「内容」へとつなぐ連携の今後

―今までの話から、抄録データベースとして、「連携」というのは大きな課題と言えそうですね。

後藤  今後に関しては、研究資源を提供しているようなサービス群をどれだけ捕まえていけるかは、検討の余地があると思います。例えば「JAPAN SEARCH」というデジタル・アーカイブの統合検索サービスを国立国会図書館が中心となって構築していますが、そういったところの目録データを持ってくるかどうかも、一つの論点になりうるかなと思っています。ここで「論点」と言っているのは、性質が違いすぎるので、あると望ましいかどうか自体も検討の必要があると思っているためです。検索できるものが増えることは、すなわちノイズが増えることでもあるので、その点でも注意深く検討する必要があります。

田辺 先ほど、専門性の高いデータベースとの連携について述べましたが、もう一つ難しいのはクローズドなデータベースとの関連性ですね。特に材料科学の分野では、データを活用した研究が急速に進展していますが、競争性の高さや共同研究の契約内容などのさまざまな理由により、オープンにできない、あるいはオープンにするのにかなりハードルが高いデータというものもあります。当然ながらそれらのクローズドなデータに対しては、CiNii Researchが容易にデータを収集できるわけではないのですが、こちらに関しても、せめて上手なナビゲーションがあればと思います。

大向 研究においては、最終的に必要な情報そのものが手にできなければ、いくら抄録が充実していても仕方がない。抄録は「手に取るための判断材料の一つ」なわけです。ただし現在は、情報入手のプロセスも一通りではなく、モノによってはクリックすれば即座にダウンロードできてしまう。モノによっては図書館に行けば書棚に置いてある。あるいは取り寄せる必要がある。

ゴールまでのルートが多様化している中で、どこまでを守備範囲とするか、あるいはその範囲を外れるものに対しても、どうスムーズに次のアクションにつなげていってあげるかが問われていると思います。

CiNiiはもともと「学術情報ナビゲータ」を称してきたのですが、その「ナビゲータ」という言葉の意味も、この10年、20年で大きく変わってきた気がします。情報を得るための全体のプロセスの中でCiNii Researchは重要なパーツであると認知してもらえるよう、データや使い勝手を鍛えていくといいのかなと思っています。

山形 特に論文に関してはDOI(デジタル・オブジェクト識別子)3が普及してきたこともあり、CiNiiなどで存在が確かめられれば、そこから先につないでいくことは、昔に比べればだいぶ容易になったと思っています。実際にそこから先にアクセスできるかどうかは、コンテンツの種類にもよりますし、大学の契約の種類にもよるわけですが。

大向 確かに、情報のIDはここ20年で圧倒的に整備されてきましたね。ID整備が進むと、それほど工夫せずに図書館や他のデータベースの力を借りることができます。その結果、本のタイトルがわかったら本にアクセスできる。論文のタイトルがわかったら論文にアクセスできる。そうしたことは、ユーザー側としても当たり前だと考えられるようになっています。だとすると、次は「ユーザーが思っていないつながり」をどう見つけてきて、「ユーザーが思ってもみなかった地点」に、どう連れていってあげるかが、2020年代のナビゲーションのテーマと言えるのではないでしょうか。ゴールのない問いに対して、どこに連れていけるのか。「IDが整備されたから、あとは誰がやっても同じ」ではなく、むしろ頑張っていける余地がどんどん膨らんでいるのではと期待しています。

CiNii Researchの今後の展望

―大向先生から話が出ましたが、今後についてご意見を。

山形  CiNii Researchがパブリックな基盤として、初学者が日本語でやさしく使える入口として、親しみやすい存在であるということは、これからも崩さず継承されていって欲しいと思います。一方で、研究サイクルは非常に早くなっています。実際には、先生方の研究のフロー自体はそう大きく変わらないのかもしれませんが、昔であれば研究室に保管されるだけだったデータも、例えばプレプリント4も公開しようとか、学術情報流通が変化してきています。そんな時代の流れと合わせてCiNii Research も変化を続けていけることを望んでいます。

後藤 コアな専門の研究者は、おそらくあまり CiNii Researchを使いません。これは統合検索サービス全般について言えることだと思います。統合検索サービスはある種の道案内だと考えると、そうした人々は「すでに道を知っている人」だからです。

一方で、教育であるとか、入門者向けということでは、CiNii Researchは非常に力を持っていると思います。また「文理融合」とまでは行かずとも、隣接分野の論文を探すときに、CiNii Researchは非常に有効なんですね。私も、専門とちょっと違うところについて知りたいときには、まずCiNii Researchを引いてみて、雰囲気をつかんだり、どのような人が研究に関わっているかを探ることがあります。さらには、分野をまたいで人を結びつける手掛かりにもなるかもしれません。この点は、今後有効であろうと思います。

吉田 最近もう一つ思うのは、当たり前の話ではありますが、論文には書き手の情報しか載っていない、ということです。一方で、皆さんが書籍を買う際には、amazonのレビュースコアや新聞などの書評を参考にすることも多いと思います。論文は誰かが紹介しているから読むなどということはまずなくて、まだまだ能動的に探す時代が続いています。

もちろん、論文に好き勝手にレビューがつくというのは私としてはちょっとイヤな事態ですが(笑)、今後、一般の人にも論文を手に取ってもらう機会を広げるという意味では、何らかの取っ掛かり的なものの付加は考えてよいと思います。特にCiNii Researchはパブリックでオープンにされているサービスであって、研究者だけのものではなく、むしろ今後はますます一般の人にも使ってもらうことを考えると、そのような仕組みもあると使いやすくなるのではと思います。 (取材・構成=川畑 英毅)

[1]CiNii
CiNiiは「CiNii Articles」、「CiNii Books」、「CiNii Dissertations」の総称で、現在CiNiiと呼んでいるのは、「CiNii Research」、「CiNii Books」、「CiNii Dissertations」のこと。CiNii ResearchはCiNiiの進化系サービス。

[2]データリポジトリ
リポジトリは「貯蔵庫」「倉庫」「収納場所」という意味の英単語。研究や実験、統計などのさまざまなデータを一元的に保存、管理し、提供する仕組みのこと。

[3]DOI(デジタル・オブジェクト識別子)
DOIは、Digital Object Identifierの頭文字をとったもので、デジタル化されたコンテンツに付与される国際的識別子(コード)のこと。

[4]プレプリント
学術雑誌(ジャーナル)に掲載される前、査読される前にインターネット上に公開・投稿された論文のこと。査読前論文ともいわれる。

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