Sep. 2022No.96

智の結晶が発見できるCiNii Research 本格始動

NII Today 第96号

Article

研究者の軌跡、研究トレンドをつかむ

URAの視点から見える 「CiNii Researchの可能性」

CiNii Researchは研究者だけが使うもの。そう考えるのは早計だ。ある職業にとって、CiNii Researchの登場は画期的な出来事だったという。そう話す職業で、CiNii Researchがどう活用されているのか、探った。

小泉 周 氏

KOIZUMI, Amane

自然科学研究機構
研究力強化推進本部 特任教授

慶應義塾大学医学部生理学教室やハーバード大学での脳神経科学の研究を経て、2007年より自然科学研究機構生理学研究所、また、2013年より現職。統括URAとして研究力分析や研究マネジメントにかかわる。

天野 絵里子 氏

AMANO, Eriko

京都大学 学術研究支援室
リサーチ・アドミニストレーター

1998年より京都大学附属図書館等で図書館職員として参考調査、機関リポジトリなどを担当。2014年より現職。オープンサイエンスの推進、URAの研修プログラム等を担当している。博士(技術経営)。

池谷 瑠絵

IKEYA, Rue

国立情報学研究所
オープンサイエンス基盤研究センター
特任研究員

研究者に寄り添い、さまざまな側面から研究者の活動を支援する人々がいる。URA(ユニバーシティー・リサーチ・アドミニストレーター)とよばれる人材だ。現在日本の大学や研究機関におよそ1,50人のURAがいるとみられ、研究資金の獲得支援から研究プロジェクトの進捗管理、研究イベントの開催や産学連携まで、研究者が研究に専念できる環境をつくろうとしている。最近では、大学や研究機関の研究力を調査・分析してその結果を組織経営に役立てる「研究 IR1(Institutional Research)」に関わるURAも多い。
 このURAにとって、CiNii Researchなどの国内外の学術情報基盤の活用が欠かせないという。

研究者情報の収集に活用

 京都大学学術研究支援室(KURA)に所属する天野絵里子氏は、URAの育成や研究者に向けた学内ファンドの運営のほか、京都大学の研究成果である書籍の情報を網羅的に収集し、可視化しようとしている。
 「現在はCiNii Booksから京都大学の研究者が書いた書籍情報を特定して取得していますが、その過程の一部でどうしても人の手が必要になってしまいます。CiNii Researchを使えばこの部分を自動化できるのではと期待しています」
 自然科学研究機構の統括URAである小泉周氏は現在、URA業務のDX2化を目指す「MIRAIプロジェクト」に力を入れている。小泉氏は、CiNii Researchの活用法についてこう話す。
 「URAの業務は年々多様化しています。また、各業務には定石がなく、URA一人ひとりが工夫しながら対応している状況です。いま進めているMIRAIプロジェクトは、そういったURA個人のスキルやノウハウを共有して、URAによる研究支援活動のDX化を目指すものです。このプロジェクトで、研究者情報の収集にCiNii Researchを活用しています」

データの種類、数が大幅に増えた

「CiNii Researchの行く手とURAの活動には、大きな関わりがあると考えています」と語るのは、2021年4月からNIIのオープンサイエンス基盤研究センター(RCOS)で特任研究員を務める池谷瑠絵。研究評価指標担当としてCiNii Researchの開発に携わっている。過去に情報・システム研究機構で主任URAとして活動した経験があり、他組織のURAとの交流も多い。
 池谷はこう続ける。
 「エビデンスに基づく意思決定の重要性が叫ばれる中で、CiNii Researchの開発を通してURAの活動に貢献していきたいと考えています」
 CiNii Researchの最も優れた点について、天野氏と小泉氏は一致して「データの種類と数の多さ」を挙げた。
 「CiNii Researchは、データの種類や数が前身のCiNii Articlesとは比較にならないくらい増えました。査読付きの論文から生の研究データまで、本当にいろいろなデータが入っています。研究力をアピールしたい研究者や、研究成果を分析したいURAにとっては、本当にいいことだと思います」(天野氏)
 「私も天野さんと同じ意見です。例えば、調査したい研究者の名前をCiNii Researchに入力すれば、学会発表や論文執筆を含めた最新の研究活動を追うことができます。必要なデータが全部ある、という安心感がありますね(小泉氏)
 2人が指摘するのは、CiNiiResearchは、研究者が研究成果をアピールすることに役立つという点だ。それは研究評価・分析を行う立場のURA にとっても有用であることにつながる。

日本語の研究成果の見える化に期待したい

 日本の研究者の研究成果は、日本語や英語など、さまざまな言語で公表されている。しかし、URAが主に使用してきた海外の学術情報基盤には、日本語で発表された成果の情報がほとんど収録されていない。だから、これまでは「日本の研究者の研究力を主に英語論文だけで評価する」のが現状だった。
 天野氏はこう指摘する。
 「英語論文は日本の研究者の研究成果の一部にすぎません。特に人文社会系に関しては、その傾向が強く見られます。海外製の情報を分析しただけで本当に日本の研究力分析になるのか、ずっと疑問に思っていました」
 ここで、CiNii Researchが威力を発揮する。「研究IRを正確に行うには、日本語の情報が不可欠です。CiNii Researchのデータを分析すれば、日本の研究力をうまくResearchのどんな点を改善してほしいですか」と小泉氏に尋ねた。小泉氏は、「分析インターフェースの充実」を挙げたうえすれば、日本の研究力をうまく見える化できると期待しています」(小泉氏)
 池谷は言う。「CiNii Researchには、論文や研究データのほか、日本の研究者が書いた書籍の情報など、日本語でのさまざまなアウトプットが収録されているため、研究成果の発見につながりやすいと考えています」
URAが担当する研究IRは、これまで研究成果に着目した分析がメインだった。しかし、CiNii Researchを使えば研究者「個人」に着目した分析ができるはずだと、天野氏は期待している。
 「CiNii Researchの内部では、いろいろなデータが関連性を持ってつながっています。この関連性を使えば、研究者がこれまでどの大学に所属してきたか、どのような研究者と交流があるか、といった情報も得られるはずです。これは、研究者の"キャリアやネットワークを見える化"することにつながります。こういった"人の分析"ができると、すごく面白いと思います」
 研究力を成果だけで見るのではない。人が歩んだ軌跡を追い、研究者が築いてきたネットワークが見える。CiNii Researchが持ちうる可能性の大きさが実感できる。

研究者の名寄せの精度向上が最優先

 CiNii Researchの機能追加や改善は現在進行形で進む。「URAの立場から見て、CiNii Researchのどんな点を改善してほしいですか」と小泉氏に尋ねた。小泉氏は、「分析インターフェースの充実」を挙げたうえで、こう話した。
 「いま私が進めているMIRAIプロジェクトでは、CiNii Researchを使って人同士の関係性や研究のトレンドを追いかけようとしています。しかし、そういった大局的な分析をCiNii Researchで行うには、ユーザーインターフェースがまだ弱いですね。そこで私たちは現在、独自の分析ツールを使ってCiNii Researchのデータを解析しています。この分析工程を全てCiNii Research上でできるようになれば、より使いやすくなるのではないでしょうか」
 天野氏にも同じ質問をした。するとこう答えが返ってきた。
 「研究者の名寄せ3の精度向上が最優先だと思います。現状は、同じ研究者の情報が2つ以上に分かれているケースが多い。CiNii Researchを研究IRで使用する場合、これは致命的です。逆に考えると、名寄せの精度が向上すれば、CiNii Researchの価値は格段に向上するはずです。名寄せに必要なデータ整備に関しては、従来NIIが図書の目録情報に関して行ってきているのと同様に、図書館員との協力で進める手もあると思います」

ノウハウを持ち寄り、協働を促したい

 CiNii Researchという新たな情報基盤を手にして、URAの仕事は今後どのように変化するのだろうか。小泉氏はURAの方向性を広げることにつながると指摘する。
 「各URAが縦割りでCiNii Researchを使うのではなく、ノウハウを持ち寄って協働する動きをつくりたい。そうすればDX化も進み、URAの新たな方向性が見えるのではと期待しています」
 池谷は、URAと図書館員をつなぐ役割も果たすと考えている。
 「データ構造や学術情報基盤にくわしい図書館員と、分析スキルの向上を目指すURAが協働するような場面でCiNii Researchが貢献できればと考えます」
 CiNii Researchは「データ同士をつなぐ」だけにとどまらない。「URAとURA」「URAと図書館員」といった「人と人をつなぐ」新たなプラットフォームになるのかもしれない。さまざまなものを「つなぐ」ことで、今後、CiNii Researchはどのような化学反応を引き起こすのだろうか。 (取材・文=太田 真琴)
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[1]IR(Institutional Research)
大学などの教育・研究機関において、意思決定や研究計画立案に必要なデータや情報を収集・分析することで、より効果的な組織運営を支援する活動。中でも、研究力強化を目的とするIR活動を「研究IR」とよぶ。

[2]DX(Digital Transformation)
データやデジタル技術を活用して製品や サービス、ビジネスモデル、企業文化などを変革し、競争上の優位性を獲得すること。単なるIT化とは異なり、業務や組織のあり方を根本から見直して変革(トランスフォーメーション)する点が特徴。

[3]名寄せ
個々の研究者を一意に同定し、その人物情報と関連データ(研究業績など)を適切に結びつけること。例えばデータベース内で名寄せがうまく機能していない場合、同じ研究者の業績が同姓同名の他研究者の業績として提示されてしまうことがある。

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