Mar. 2020No.87

「情報科学の達人プログラム」始動情報学分野の若き才能を育てる

Essay

達人をめざす中高生へ

語れる研究をしよう

Naoko Takahashi

國學院大學 経済学部 教授(特別専任)
情報処理学会理事(教育担当)
「情報科学の達人プログラム」
ワーキングメンバー

 これから情報科学の達人をめざす中高生の皆さん、世の中がどういう状態であっても、自分に訪れたチャンス(好運)は逃さないでください。迷ったら、迷わずつかんでください。なぜなら、好運は来年にとっておけないからです。よく「運も実力のうち」と言われますが、まさに今だからこそ訪れた運、自分で呼び寄せたものなのです。
 好運をつかんだ後は、多くの人から、研究の内容だけでなく、取り組むにあたっての考え方や技術的な手法の指導を受け、学ぶことになります。そこでは、自分が苦手なことを必ずメモして、意識しながら取り組むようにしてください。意識しているうちに無意識になり、習慣になっていきます。そして、たくさんの知識を蓄積し、技術を磨くだけでなく、このプログラムが終わった時には、ホンモノの「達人」になってください。
 達人になるとは「何をしたかを語れる」ようになることです。どんな難しい研究でも、スゴイ発明や驚きの発見があっても、自分だけにしかわからないのでは役に立ちません。自分が取り組んできたこと、発明・発見を、客観的に、相手が理解できるように説明できることが大事です。説明の一つが、報告(レポート)や論文と言われるものですが、簡単には書くことができません。説明するには、相手が何を知っているか、何を必要としているかを知り、内容を組み立てなければなりません。そのためには、行ってきたことの記録(ノート)をとり、整理し、余分なことを削り、わかりやすく表現することが肝要です。つまり、研究に夢中になるだけでなく、記録をとることで客観的に見直すことが重要なのです。
 良いレポートや論文を書くためには、お手本となる良い論文などを見つけ、型を真似していきます。お手本を見つけるためには、他の人が行っていることを観察し、話しを聞き、たくさんの情報を読むことです。レポートや論文だけでなく、関連する雑誌や専門書などにも目を通してください。その中から、わかりやすいと思う説明方法や書き方、好きな表現を見つけ出し、自分の型を作ってください。わかりやすく説明された研究は、いずれ人の目に留まり、使われるかもしれません。つまり、何をしたかを語れる達人になるには、読むことを怠らないことです。ぜひ、読む力もつけてください。
 最後に、この原稿を書いている現在、新型コロナウイルスの感染拡大で、国内だけでなく世界中が苦しんでいます。この冊子が手元に届くころには治まっていることを願っています。

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