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医療分野の重要課題に取り組む
「医療ビッグデータ研究センター」
2017年11月1日に発足した「医療ビッグデータ研究センター」(センター長:佐藤真一 コンテンツ科学研究系 教授)は、医療画像を対象としたビッグデータの構築と画像解析を中心とした人工知能システムの開発を目的としています。医療画像や映像の検索と認識、将来は深層学習(deep learning)による診断支援の技術開発も視野に、情報系研究の根幹となるネットワーク技術・セキュリティ技術・クラウド基盤技術・AI(人工知能)解析技術のエキスパートがセンターの構成メンバーとして集結し、研究に取り組んでいます。
研究推進に向けて、まず、合田憲人アーキテクチャ科学研究系 教授を中心に、医療画像ビッグデータとAI画像解析のために高性能クラウド基盤の開発・整備を進めています。これは、最先端のAI技術を用いた画像解析に威力を発揮し、研究者間の大量の医療画像データの共有と高度な画像解析を可能にします。このクラウド基盤の開発・整備により、医療分野において全国の研究者が医療画像ビッグデータを安全かつ容易に利用し、従来は不可能であった大量のデータを活用した研究が推進できるようになります。
また、構築されたクラウド基盤は、医療関係者および研究者が医療画像データに「高速に」かつ「安全に」アクセスできるように、学術情報ネットワーク「SINET5」[1]で接続されています。これは、医療研究データの利活用において大きな役割を果たします。
一方で、オールジャパンでの取り組みとして、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもとに、医学系学会との共同研究がスタートしています。医療画像の収集は、医学系学会が介することで、画像の品質を保ちながら、安全にクラウド基盤に送られます。現在までに、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会と、それぞれの学会が収集した医療画像について共同研究を開始しています。次年度以降は、より多くの医療機関の協力を得てデータ収集の規模を拡大する予定で、新たに課題解決を必要とする医療分野との連携も視野に入れて、研究活動を推進していきます。
AI画像解析技術を活用した医療画像ビッグデータの解析では、東京大学、名古屋大学、九州大学と共同で研究開発体制を整え、それぞれ研究テーマを立てて課題解決にチャレンジしています。工学的、情報学的視点を持つ専門家ならびに、医療現場の医師や技師などの関係者とともに、分野を超えた相互連係の仕組みの構築も重要なテーマとなっています。今回構築したクラウド基盤は、医療分野と情報分野の研究者の共同研究基盤として機能するものであり、両分野の共同研究を促進することになるでしょう。
また、実現される医療用人工知能システムは、診断支援のみならず、医師の教育に利用することも視野に入れています。こうした取り組みが、日本の医療レベル全体の底上げにつながることにもご期待ください。
[1] 「SINET5」:NIIが構築・運用している学術情報ネットワーク(Science Information NETwork)。2016年4月に本格運用を開始したSINET5は、全国のすべての都道府県を100Gbpsの超高速回線で結び、さらに日米回線も100Gbpsに高速化、日欧回線も新設した。国立大学86校すべてを含む全国の大学や研究機関など850機関以上が加入している。