Mar. 2018No.79

ITによる新しい医療支援「医療ビッグデータ研究センター」始動

Interview

医療画像ビッグデータクラウド基盤とは

高いセキュリティと高速性で医療画像解析を支える

医療画像解析技術の研究開発プロジェクトを支えるプラットフォームとして、NII は「医療画像ビッグデータクラウド基盤」を構築した。機密性が求められる医療画像を安全に集め、研究者が大量データをクラウド上でスムーズに解析できるようにするために、どのような技術や機能が組み込まれているのか。構築を担当したクラウド基盤研究開発センター長の合田憲人教授に聞いた。

合田憲人

Kento Aida

国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系 教授
クラウド基盤研究開発センター長
総合研究大学院大学 複合科学研究科 教授

 Q  医療画像ビッグデータを集めて解析するための基盤には、何が求められますか。

 A  「セキュリティ」と「高速性」の両方を確保することです。医療画像という高い機密性が求められるデータを扱うためには、セキュリティは最も大切な要素です。医療画像データは病院等から医学分野の各学会に集められ、そこで匿名化処理をしたのちに、医療画像ビッグデータクラウド基盤に送られてきます。匿名化されたものとはいえ、やはり医療情報ですから流出は絶対に避けなければなりません。また、医療画像というデータ量の大きいものを全国から大量に集め、計算量を必要とする深層学習の手法で解析するためには、ネットワークと計算機の高速性も不可欠です。

 Q  「セキュリティ」を高めるための対策は。

 A  昨今、情報漏洩がよく問題になっていますが、ネットワーク上の攻撃によるもの以外にも、人が介在した盗難や紛失によるものも多いのです。そのため、クラウド基盤を構成する機器はすべて、サイバーだけでなく物理的なセキュリティ対策も万全なデータセンターに置くことにしました。これによって、集めた医療画像は安全に管理できます。
 各学会のサーバからのデータ送信や、研究者がクラウドに接続するために使用するネットワークには、一般のインターネット回線よりも高速な学術情報ネットワーク「SINET5」を利用しています。さらに、仮想的に専用線接続を実現するVPN 機能(PDF9頁参照)を用いて、あらかじめ設定したところ以外とは接続できないようにすることで安全性を高めています。

 Q  「高速性」はどのように実現していますか。

 A  まず「SINET5」自体が、全国を100Gbpsの超高速回線で結んでいるネットワークですから、データを高速に送ることができます。そして、一般のインターネット回線でVPN接続を利用すると通信速度が落ちるのですが、「SINET5」は技術的な工夫によって速く、かつ安全にデータを送信できることが強みです。
 また、深層学習の計算を高速でこなすために、大量の計算を並列化して高速に実行可能なプロセッサ、GPUを積んだ高性能サーバを採用しました。実際に利用した研究者からは「計算が速くて驚いた」という声もいただいています。

 Q  クラウド基盤の構築にあたって、留意した点は。

 A  研究者に実用基盤として提供されるクラウド基盤で重要なことは、最先端で、かつ実績のある技術を採用して信頼性と安定性を確保することと、先を見据えた設計にすることです。この基盤自体は、2017年11月の医療ビッグデータ研究センター開設に合わせて運用を開始していますが、今後、研究開発が本格化すると膨大な量の医療画像が送られてくるため、これらの需要に対応できるように設計されています。また、医療画像は撮影する機器によってファイルフォーマットが異なるのですが、事前に医学分野の研究者にヒアリングしておき、あらゆるフォーマットに対応できるように準備してあります。
 クラウド基盤はつくったら終わりではなく、実際の使い方に合わせて改善、成長させるものです。今後も医学分野と情報分野双方の研究者の意見を取り入れながら、ブラッシュアップしていきます。
(取材・文=関亜希子 写真=佐藤祐介)

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