Sep. 2016No.73

CPS実社会×ITがもたらす未来

Essay

CPSが支えるサイバーフィジカル空間

TOKUDA Hideyuki

慶應義塾大学環境情報学部 教授

 ポケモンGOのブームが世界中で広がっている。日本発のコンテンツを使ったゲームが世界を席巻しているのは、久々のことである。いつもは誰もいない公園で、多くの人がスマートフォンをかざし、ポケモンを捕まえ、バトルをするために集まっている姿は異様である。このポケモンGOにより、あらゆる人がサイバー空間とリアル空間が融合したサイバーフィジカル空間を体験したと確信している。では、いつごろから我々の生活空間であるリアルな空間がサイバー空間と融合してきたのであろうか?

 振り返ってみると、70年代には、プログラムで使う変数名 "x" や"y" はプログラマーが勝手に決め、リアルなオブジェクトとひも付けされていなかった。80年代、e-mailが活用されるようになり、" ユーザー名@マシン名" で初めて我々がサイバー空間内で固有なアドレスを持つようになった。90年代にインターネットの商用利用が進み、ドメインネームシステム(DNS)が普及してweb空間が創出されてからは、生活空間の融合が加速し、飛行機や電車の予約も、スーパーマーケットでの買い物も、タクシーの呼び出しも、すべてweb経由で可能となった。"www.keio.ac.jp" といったサイバー空間での名前は、リアルな空間に存在する慶應義塾大学とひも付けされた。さらに最近では、センサーなどのスマートデバイスやスマホの普及により、モノ、人、データ、プロセスなど「あらゆるモノ」がインターネットにつながったIoT(Internet of Things)やIoE(Internet of Everything)の時代へと進化している。

 CPS(Cyber-Physical System)は、サイバーフィジカル空間を対象としたシステム、あるいは、複数のシステムからなるシステムであり、いわば、制御されたモノたちの環境(Internet of Controlled Things)を提供している。交通、エネルギー、環境、建築、防災、安全、製造、医療など超スマート社会を支える新しい社会インフラの実現に向けた重要なテーマであり、自動運転やドローンなど新しいイネーブラー(ビジネスなどを後押しする要素)の社会応用に向けてのCPS技術が注目されている。新しい社会インフラが社会に受け入れられていくためには、CPSの技術的なイノベーションだけでなく、法律、制度、ガイドラインなどの革新といった社会的イノベーションとの協調が重要な課題である。

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