Jan. 2025No.104

研究データエコシステム分野を超えた研究データの連携と循環

Essay

データ利活用研究コミュニティの創成に向けて

田浦 健次朗

TAURA, Kenjiro

東京大学執行役・副学長
同大学院情報理工学系研究科 教授

(敬称略)

研究データエコシステム構築事業の中で「ユースケース創出」という事業を実施しています。そこでは研究データの整備や利活用に主眼を置いたプロジェクトを公募・審査をし、採択された課題を実施するのに必要なサポートを行っています。2025年1月現在までに33件の課題を採択しています。公募情報は https://www. nii.ac.jp/creded/use-cases.htmlに、これまでおよび現在、実施している課題の一覧は https://www.nii.ac.jp/creded/creded_result.html にありますのでぜひご一読ください。

採択された課題には、GakuNinRDM やmdxなどの、データを蓄積、共有、活用する基盤を積極的に活用していただき、課題を推進していただきます。また、口頭発表やポスター発表、パネルディスカッションを行うシンポジウムを開催し、ユースケース課題実施者から、事業全体へのフィードバックやユースケース課題実施者同士の意見交換、情報交換を行っています。ユースケース課題のSlackワークスペースも設営しており、GakuNin RDMやmdxなどの基盤に関する質問を随時受け付けています。

GakuNin RDMやmdxなどの、データを蓄積~共有~活用する基盤を活用する研究を支援・推進・創出

情報技術や情報基盤を活用した研究は従来から多くの分野で重要でしたが、AI の著しい進展も手伝って、データを集積、整備しそれを検索可能にすること、そのデータを活用することの重要性がさらに多くの分野で増しています。本事業では、GakuNinRDMやmdxなどの全国の研究者に提供されている研究基盤を積極的に活用することにより、研究データの蓄積、整備から、共同研究者との共有、AIなど大きな計算資源を要するものを含めた大規模データ処理を一貫した環境で推進することを支援しています。

全国的なデータ基盤の永続と高度化、それによる研究環境、研究力の向上

そのような基盤を利用した研究の進め方は、本ユースケース創出事業の課題であるか否かを問わず、研究の進め方の標準として促進されるべきものでしょう。そのような基盤が常に最新の設備に更新され続け、全国的に(所属機関を問わず)、迅速に、廉価に利用可能であることが当たり前になれば、各研究者や機関、または分野ごとに個別に研究環境を構築するコストも時間も削減でき、研究力の向上につながります。また、データ基盤、活用基盤と言っても情報基盤に課す要求はさまざまで、実験機器との連携、セキュリティの向上、大容量データの長期保存、耐故障性や耐災害性などがあります。本ユースケースのような事業を通じた成果により、そのような基盤の必要性が広く理解され、分野ごとに異なるさまざまな要求を取り入れた次世代基盤を作っていく流れにつながることを目指しています。

情報学・さまざまな分野をつなぐ学際的な研究

もともと情報学という分野は、多くの分野で利用可能なツール(文字通りのツールという意味にとどまらず分野を超えて使われる共通の計算手法やアルゴリズム)を提供している分野であり、他の分野との結び付きが広く存在します。本事業では、その結び付きを広げ、情報学と他の分野、または情報学を活用する複数の分野をつないだ学際的な研究を生み出すことを目指しています。

終わりに

このユースケース創出事業では、常時応募を可能とし、隔月で審査を行っています。また、一度の応募で2年度にわたる申請が可能であるなど、研究を効果的に支援をするための工夫を行っています。趣旨に合った研究テーマをお持ちの方はぜひ応募をご検討ください。もちろんGakuNin RDM やmdxの利用は本事業に応募しなくても可能ですのでそちらもご検討ください。

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