NIIについて / About NII

競技力向上に貢献する新しい ICT - Essay(68-6)

東野 輝夫
HIGASHINO Teruo
国立情報学研究所 客員教授/ 大阪大学 大学院情報科学研究科 教授

 センサー技術や「モノのインターネット」(Internet of Things=loT)の発展に伴い、身体に貼付したり腕時計や靴・ラケットなどに埋め込んだりすることができる小型センサーが多数開発され、ヘルスケアやスポーツ分野で幅広く活用されている。近年は、それらのセンサーとスマートフォンを連係させることで、スポーツ器具の活用状況(例えば、テニスのラケットのスウィング速度やインパクト位置など)や選手自身の生体情報(運動量や体温、心拍数など)をリアルタイムに収集できるようになってきている。また、それらのデータをサーバーに蓄積し、ビッグデータ解析することで、スポーツ選手の競技力向上やスポーツ器具の性能改善などを行う取り組みがなされている。さらに、ビデオ映像の情報からスポーツ選手の動きを詳細に分析する技術や、数十メートル先から数センチオーダーの誤差で人の動きを計測できるセンサー(レーザレンジスキャナー)なども実用化されており、スポーツ選手の活動状況もかなり詳細に計測・分析できるようになっている。

 このような背景から、私どもの研究室でも、温度、湿度、気圧、日射量など環境データロガーから得られる情報と、腕時計型の表体温計測センサーから得られる情報などから、活動中のスポーツ選手の深部体温をリアルタイムかつ高精度に推定する技術の開発を進めている。深部体温の上昇は熱中症の発生や運動能力の低下につながるため、開発センサーを用いて熱中症の早期検知や予防につなげたいと考えている。また、疲労度を推定するセンサーやスポーツ選手の活動状況を高精度に計測・分析する技術と併用することで、スポーツ選手のパフォーマンス解析やストレス・疲労度解析などにつながる技術開発ができればと考えている。

 近年のセンサー技術やIoTの発展には目を見張るものがあり、オリンピック選手の競技力向上や弱点の修正、ストレスや疲労の軽減などにつながる新しいICT(情報通信技術)が次々と誕生してくる可能性がある。大げさに言えば、このような新しいICTを上手に活用できるかどうかで、メダル獲得数が変化する可能性も秘めているのではないかと感じている。

 これらのICTはオリンピックの観戦法も大きく変える可能性がある。さまざまな映像情報や選手の活動状況のデータをリアルタイムに取得することで、観客があたかもコーチになった気持ちで観戦したり、さまざまな意見をツイートしたりできるようになるかもしれない。ロンドンオリンピックが史上初のデジタルな大会だったなら、東京オリンピックは一歩進んだ新時代のデジタルな大会(デジタルオリンピック2.0)になると考えられる。日本選手の活躍を、これまで以上の感動を持って観戦できることを期待したい。

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第68号/2015年5月発行

東京オリンピック・パラリンピック特集 Vol.1
情報学が貢献できること

・多様性で育むイノベーション、鍵はパラリンピックにあり
・外国人観光客の動きを把握するモバイルセンシング
・幻肢痛リハビリシステム構想
情報学による都市化問題解消と真のバリアフリー化を考える
・ロンドン2012大会から東京2020大会へのバトン

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