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外国人観光客の動きを把握するモバイルセンシング (68-2)

現在、人々が持ち歩くスマートフォンなどにより、その人の動きや周囲の状況をセンシングするモバイルセンシングに注目が集まっている。すでに、モバイルセンシングの取得データから国内旅行者や訪日外国人などの観光客の動態を捉え、観光振興につなげていく研究も始まっている。この研究を進めるNIIの相原健郎准教授に、オリンピック・パラリンピック競技大会を見据えて、研究の詳細や現状、さらに展望を聞いた。

東京2020大会の先を見据え、観光振興に貢献

aihara68-2.jpg相原 健郎
AIHARA Kenro
国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授 /
総合研究大学院大学 複合科学研究科情報学専攻 准教授

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センシングデータを社会的価値につなげる

 現在、スマートフォンが広く普及してきています。スマホはいわば、センサーの塊です。位置情報はもちろんのこと、加速度センサーからはユーザーの向きや動作がわかります。また、マイクやカメラもセンサーの一種です。スマホは通常は特定の個人が使うので、センサーから取得できるデータにより、持っている人の動きや周囲の状況がわかる。これがモバイルセンシングです。

 しかし、モバイルセンシングで得る情報はプライバシーに関わるため、ユーザーにデータを提供してもらうためには、データの提供と引き換えにメリットを与えるような仕組みづくりが必要となります。その仕組みを組み込んだサービスを利用してもらい、データを取得し、社会の価値や個人の利益につなげていく。私は、そのような仕組みづくりを含めて、データ取得のサイクルを回していくことがモバイルセンシングだと考えています。

 現在、観光庁とモバイルセンシングを活用した外国人観光客の動態調査を行っていますが、そこでもサービスの中にモバイルセンシングの仕掛けを組み込んでいます。

 外国人観光客に対するアンケート調査では、利用可能な無線LAN接続環境が少ないという不満があることがわかっています。サービスを利用しながらデータの提供に協力してもらうには、ユーザーメリットが必要ですが、もしそのアプリを使用することで、ユーザーが使える無料Wi-Fiスポットが増えれば、外国人観光客にアプリを使ってもらえるでしょう。この動態調査では、そこにデータ収集の仕組みを組み込んでおくわけです。

 また、調査には一定規模以上のユーザー数が必要です。外国人観光客がよく利用するアプリを調べたところ、経路検索等を行う移動支援アプリの人気が高いとわかりました。そこでナビタイムジャパン社の移動支援アプリ「NAVITIME for Japan Travel」にデータ収集の仕組みを入れて、2014年10月末からプレスタディを開始。1カ月弱で約3万のダウンロードがあり、そのうち約1万の方からの利用者登録データが取得できました。年間にして10万人強という人数は、年間1300万人の外国人観光客の1%にあたり、十分に調査が成り立ちます。これをさらに増やしていくことで、よりクリアに動態が見えてくることが期待されます。

 データ収集の許可を得られた人については、性別、年齢、国・地域という属性情報を入力してもらいました。これを分析する方法論を検証したうえで、2015年度からは、いよいよ本事業がスタートします。今後はより広く情報収集できるよう、他の外国人向けアプリの活用も検討しています。

動態調査から何がわかり、どう活用できるか

 動態調査によって、さまざまなことがわかります。マクロな視点では、外国人観光客の国内の移動経路が俯瞰できる。例えば、観光客の動きは東京-京都の、いわゆる「ゴールデンルート」を経由する観光地に集中している実状が明らかになりました。

 細かく分析すれば、国別、世代別の行動も把握でき、その結果は訪問する観光客とその観光客を受け入れる側のマッチングにつなげられる。例えば、あるスポットに外国人が訪れても、周辺の情報を知らなければ、周遊せずに帰ってしまいますね。このとき、周辺の魅力的な情報を適切に届けられれば、観光客も受け入れ側も、よい機会を失わずにすむのです。地域の方々には、動態調査で得られた情報を有効に活用していただきたいと考えています。

 一方、ミクロな視点では、観光客の細かな動きが把握できる。スカイツリーから浅草に向かった後に観光客はどこに行くのか、浅草の表通りと裏通りを歩く人の属性がどう違うかなどがわかれば、結果をまちづくりに活かしていくことができるでしょう。

 また、サービスに地域情報を組み込むことで、人の行動を変容させることも可能になります。例えば、神田にいる観光客がB級グルメを食べたいと思ったとします。その際、地元の人のお薦めの店をピンポイントで伝える仕組みがあれば、地に足のついたマッチングが実現でき、移動の分散化も図れるのです。

センシングデータを活用し 魅力的な地域づくりを

 現在、観光立国を目指す日本は、訪日外国人2000万人を目標に掲げています。そのような中で東京2020大会の開催が決まりました。これは日本が安全で、多くの魅力的な観光資源がある国であることを示す絶好の機会となります。それまでに外国人観光客の日本での動きを把握する方法論を確立し、データを活用するノウハウを蓄積して自治体に活用してもらい、外国人観光客を発展的に受け入れていく体制づくりに役立てたいと考えています。

 さらに今後は、SNSへの投稿やレンタカーの移動経路など、モバイルセンシング以外のさまざまな情報も重ね合わせて、観光ルートや訪問の意図をつかみ、より魅力的な観光ルートの設定や受け入れ体制構築に活用できる仕組みをつくっていく予定です。

 オリンピック・パラリンピック開催時には、人の流れが一カ所に集中することが想定されるため、モバイルセンシングを活用した防災やリスク回避のためのサービスを提供することになるでしょう。しかし、オリンピック・パラリンピックは一つの通過点にすぎません。その先を見据え、ユーザーに役立つ情報サービスの提供により、街と人をつないで人々の行動変容を促したり、リソースを効果的に使って新しいビジネスチャンスを生み出したりするなど、魅力ある地域づくりに貢献していきたいと思っています。

(取材・文=桜井裕子)

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第68号/2015年5月発行

東京オリンピック・パラリンピック特集 Vol.1
情報学が貢献できること

・多様性で育むイノベーション、鍵はパラリンピックにあり
・外国人観光客の動きを把握するモバイルセンシング
・幻肢痛リハビリシステム構想
情報学による都市化問題解消と真のバリアフリー化を考える
・ロンドン2012大会から東京2020大会へのバトン

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