Jun. 2019No.84

コンピュータビジョン研究の最前線見えないものを捉える"機械の目"

Essay

「研究100連発」と研究への思い

武田 英明

Hideaki Takeda

国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 教授
総合研究大学院大学 複合科学研究科 教授

「研究100 連発」で司会をする武田教授。脳波で動く「猫耳」と白衣スタイルで登場=2019 年6 月

 NII オープンハウスでは、2015年から2019年まで5年にわたって「研究100連発」という企画を実施してきた。NII研究100連発では、10人のNIIの研究者が自身の研究10個ずつを紹介するというものである。10人×10個で計100個というわけだ。「そんな100個も研究発表を聞いてられないよ」、と思われるかもしれない。この企画には重要なルールがある。それは、一人当たりの発表時間は7分30秒ということである。つまり1研究あたり45秒しかない計算になる。普通、そんな短時間で発表はできない。その普通じゃない状況で発表してもらおうというのがこの企画の真の意図なのである。

 だいたい、研究者に研究のことを語らせたら一晩中でも喋ってしまう。10個の研究を7分半で、というのは喋りたい気持ちと時間の制約が絶妙に組み合わさって研究者にフラストレーションが溜まる。そのため、研究者の本音だったり性格だったりが図らずも露出してしまう。

 この研究100連発を5年続けたので計50人が登壇したことになる。この間、私は司会あるいは登壇者として参加してきた。私もNIIの研究者50人(うち一人は私自身だが)の500個の研究を聞いたわけだ。NIIは一研究所としては小さいが、それでも多様な研究者が在籍している。私は比較的スコープの広い研究者であるが(Twitterアカウントでは雑食系研究者と自称している)、それでも知らない、もっといえば興味のない研究がたくさんある。それでも100連発の超高速プレゼンだからこそ垣間見える研究への思いがわかると、素直に感動してしまう。研究というのは、研究者の研究への思いで成り立っているのが実感できるのが素晴らしい。

 ちなみにこの研究100連発というのはオリジナルではなく、ニコニコ学会βという活動で作られたプレゼンスタイルである。ニコニコ学会βは、ニコニコ動画にインスパイアされ、江渡浩一郎氏が始めた既存の学術の枠を超えた広義の"研究"が集合する場である。私は縁あって(この縁だって不思議な縁だったけど)、初期の頃から参画してきた。ニコニコ学会βへの参加も私にとっては素晴らしい経験であって、ふだん絶対に出合うことのない研究の世界に出合うことができた(普通に研究をしていたら、情報の研究者が"う○こ"を研究する医師や、市井のキノコ研究家に出会うことがあるだろうか)。それは自分の研究に直接間接に役立っている。自分自身が持っている研究の枠を壊すことができたと思っている。情報は世界に普遍的に存在し、その意味では世界の全ては情報学の研究対象である。

 戯言はここまでとしよう。もし読者の皆さんの興味が湧いたならば、ぜひNII研究100連発、あるいはその元となったニコニコ学会βの動画を見て欲しい。YouTube[1]あるいはニコニコ動画[2]に全て残されている。

[1]https://www.youtube.com/playlist?list=PLKzfdUM-Rtgysb07aR5ahL2MgVA4w37JC

[2]https://ch.nicovideo.jp/jouhouken

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