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「研ぎ究めを遊ぶ」 - Essay(86-4)

浅田 稔
Minoru Asada

大阪大学先導的学際研究機構共生知能システム研究センター特任教授

 研究とは、自身を「研ぎ」、基本的課題を「究める」過程を楽しむことであると考えている。そして、多くの研究者との出会いが、研究を究める推進力になってきた。コンピュータビジョンの動画像研究から始まり、強化学習のロボットへの応用を経て「ロボカップ」の発想に至り、認知発達ロボティクスの提唱と推進、そして、その延長上にある構成論的人間学の考えに至る経緯の中で、多くの人との出会いが、これまでの研究の核である「人間とは何か」に迫るための課題を生み、研究を進展させてきた。

 その一つに、今回の特集の巻頭を飾るカーネギーメロン大学の金出武雄先生との出会いがある。すでにご存知のように、金出先生は令和元年度文化功労者に選ばれており、日本ロボット学会会長として、学会誌にお祝いの言葉を寄せたところだ。なにしろ金出先生は、私の研究人生の中で、恩師の辻三郎 大阪大学名誉教授、卒論時からお世話になった生物工学の鈴木良次 大阪大学名誉教授に次いで、三番目に尊敬する研究者なのである。特に、金出先生の座右の銘ともいうべき「素人発想、玄人実行!」という考え方にはたい へん共感を覚える。

 今年3月の退職記念最終講義でも紹介したが、私の座右の銘の一つに「Out of sight, out of mind」がある。和訳は「去る者は 日々に疎し」だが、「見えないものは存在しない」と訳すこともできる。実は1歳以下の新生児は、見えないものは存在しないと知覚する。ワーキングメモリが未熟だからだ。 この言葉は、私の卒論研究であるゴンズイという魚の群れの追跡システムにおいても一つのヒントになった。というのも、魚の重なりによる隠れを発見するには予測と注意が必要だからだ。研究の最初にこのような重要な課題に接したことはラッキーだった。ちなみに、我々大人も、都合の悪いことは、意識的にも無意識的にも無視(Out of sight)しがちで、新生児のことを馬鹿にできない。

 二つ目の座右の銘は、「すべてのサクセスはハンディキャップから始まる」だ。これは、孔雀の羽や尾長鶏の尾などの生物のハンディキャップ理論になぞらえた言葉だが、私は「順風満帆が一番危ない! 危機意識が問題の本質にたどり着く近道」だと考えている。そのことを実感した経験がある。ロボカップの最初の論文を大きな国際会議に投稿したものの、落とされて憤慨し、小さなワークショップや研究会で発表し、大きな反響を得たことが自信につながり、翌年、大きな国際会議で一字一句違えず投稿した論文がベスト10(最優秀論文候補で1% !)に選ばれたのである。憤慨したことが効いたわけだ。

 座右の銘は他にもあるが、最近はロボット学会の新たなホームページ「ロボ學(robogaku.jp)」で会長ブログ「みのつぶ短信」の中でも触れている。そちらもご高覧ください。

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第86号/2019年12月発行

ロボットと情報学
人間とロボットの新しい関係

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・賢いロボットをつくるために、仮想空間でロボットと対話する
・ロボットから人の知能の謎を解き明かす

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