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金融と情報、そして仮想通貨 - Essay (69-5)

羽田 昭裕
HADA Akihiro
[国立情報学研究所 客員教授/日本ユニシス株式会社 総合技術研究所長]

 金融業は装置産業といわれてきた。主な装置はICTである。当初から続くのが、バックシステムと呼ばれる、約定データを受け取り財務諸表を作成するシステムで、さらに市場や顧客とのチャネル、経営・リスク管理やマーケティング支援、それらを結ぶハブなどで「装置」を構成している。1970年代までは実体経済と金融市場が寄り添っていて、大切なことは決済や現金取引を遠隔的に即時、大量に扱うことであった。言い換えると、金融で扱われる情報は、売買や融資に伴う「私秘性」を持ち、実体経済という「重力」が作用していて、「装置」はそうした私秘性や重力を切り離した「データ」を電子的に処理するものだった。

 その後、ロンドン証券取引所の改革から始まった実物資産の証券化や金融の価格、業務分野、商品設計、対外取引の自由化後、金融市場は実体経済の幾層倍もの規模になっている。証券化や自由化へのICTの貢献は、「装置」の地球規模のネットワーク化が実現して金融取引データのやりとりから空間や時間の制約を取り除いたことと、もともとは情報にまつわるリスクのヘッジを目的とした金融工学を高度化したことといわれる。データ処理の高速さと数理的な難解さが、擬似的な私秘性を生み出したともいえよう。

 そして、金額と付随する条件だけという金融商品の性格と、リアルタイムで切れ目のない処理に対する要求から、金融取引は総じて自動化やセルフサービス化が進んできた。またICTは資産運用力や新商品開発力の強化を助け、堅牢さに加えて柔軟さを持つバックシステムは金融システムが提供する中核機能が分散し各金融機関から自立するのを促した。

 すると、eビジネスの流儀で、ほかの業界と同様、周辺的な領域にICTを利用して新しいビジネスモデルを持ち込む新規参入者が現れる。最近では、そうした新規事業者が始めた金融サービスへの、従来の利用者の期待とは異なる期待に対応する、仮想通貨や個人の資産管理などのFinTechが注目されている。
これから先、周辺的な仮想通貨が中心的になるかもしれない。その場合、いろいろな時間と空間の制約が取り除かれ、過剰流動性を保ったままグローバルな金融取引の中心が仮想空間に移っていくのだろうか。むしろ、IoT(Internet of Things)やCPS(Cyber Physical System)を活用した新しい生産・物流の登場とともに擬似的な重力が生み出されて新しい実体経済となり、従来の投資対効果などとは異なる新たな企業経営の目標を持つというほうが、情報学のテーマも増えて面白そうだ。

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第69号/2015年9月発行

仮想通貨の技術と課題
群衆の力を科学に活かす

・黎明期にある仮想通貨をどう捉えるか
・実世界データ間の隠れた構造を探る
・仮想通貨に技術的跳躍をもたらしたブロックチェーン技術
・「ビザンチン将軍問題」とは何か

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