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黎明期にある仮想通貨をどう捉えるか - NII Interview (69-1)

 ビットコインに代表される「仮想通貨」が世界的に注目を集めている。しかし、技術的にも社会的にも解決すべき課題が残る。不正送金の手段となり得ることや、一部、取引所の破綻などの問題もあり、肯定的に広く評価されているとは言いがたい。一方で、仮想通貨に関する技術は一歩ずつ着実に進んでおり、今後さらに法制度の整備が進むと予想されることから、将来、大きな潮流になる可能性を秘めている。
 なぜ、仮想通貨は注目されるのか。情報制度論の研究者として、1995年より電子マネーの研究に取り組み、既存の法体系ではカバーしきれない電子商取引などの研究を手掛けてきた岡田仁志准教授は、「仮想通貨を取り巻く環境は、1995年前後のインターネットの黎明期に似ている」と言う。岡田准教授に、仮想通貨の問題点と課題、それを支える技術や仕組みについて聞く。

仮想通貨の技術がもたらす世界

okada69-1.jpg 岡田仁志
OKADA Hitoshi
[国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授/総合研究大学院大学 複合科学研究科 准教授]
ohkawahara69-1.jpg(聞き手) 大河原克行
OHKAWARA Katsuyuki
ジャーナリスト。1965年、東京都出身。IT 業界の専門紙の編集長を経て、2001年からフリーランスジャーナリストとして独立。25年以上にわたってIT 産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍。
仮想通貨を取り巻くリスク

大河原 日本では、ビットコインを取り巻く事件によって、仮想通貨が何であるのか正しく理解される以前に、危険なものというイメージが先行しているように思います。仮想通貨とは危険なものなのでしょうか。

岡田 仮想通貨という大きなくくりで議論すると、その結論を誤ります。一つ目は、技術そのものにどれほどのリスクがあるのかという観点。そしてもう一つは、仮想通貨を扱う取引所や現行の制度やルールにどれほどの危険が存在するのかという点。少なくとも、この二つの観点からリスクを見る必要があるでしょう。前者については、ビットコインをはじめとする分散型仮想通貨には発行主体が存在せず、国家の裏付けがないという点で、これまでの通貨とは仕組みが大きく異なり、そこに不安を感じる人が多いのかもしれません。

大河原 ビットコインを例にあげると、参加者全員が秘密鍵と公開鍵の2種類のペアになった鍵を持つという暗号技術によって取引が守られています。さらに、中央管理型の電子マネーとは異なり、「ブロックチェーン」(詳細はP6-7)という方式を用いることで、参加者全員の記録によって支払い情報の正しさを担保する仕組みとなっていますね。その点では、秘密鍵が壊れたり、失われたりしない限り、利用者自身が持つビットコインをしっかり確保できる環境ができている。Mt.Gox の場合も、取引所としてのセキュリティが確保され、社内からのアクセス管理が強固であれば、あのような事件は起こらなかったはずです。

岡田 その点で、今、問題とすべきなのは、仮想通貨そのものの仕組みや技術的な課題ではなく、先に挙げた二つのリスクの観点の後者である取引所の技術的課題や、それらを管理する制度だといえます。銀行業務は、銀行法によって認可された企業だけが行うことができますが、仮想通貨については規制がない。金融庁は取引所を免許制あるいは登録制とする方向で検討を始めたと報じられていますが、そうした仕組みによって信頼できる取引所を制度面から支えることも必要でしょう。

 今年6月、マネーロンダリングを規制する国際組織である金融活動作業部会(FATF)は仮想通貨の規制強化を求め、取引所に対する免許制導入などを提言しました。米ニューヨーク州は仮想通貨ビジネスに関するライセンス制度の運用を開始している。こうした制度面の整備は、仮想通貨の広がりに大きく影響するでしょう。ただ、免許制や登録制とする場合、仮想通貨の特徴を踏まえたものにしなければなりません。これまでの銀行法の延長線上で、金融業のノウハウを持つことを前提に認可するだけでは不十分です。仮想通貨はICT 環境での運用を前提としていますから、ICTの十分な知識とノウハウを有し、セキュアな環境を実現することが不可欠です。そうした意味で、仮想通貨の普及には情報セキュリティ監査がより重要な要素を担うことになると考えています。

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仮想通貨は普及するのか?

大河原 現状では、仮想通貨はまだアーリーアダプターと呼ばれる一部の人たちが使っているに過ぎません。日本で仮想通貨は広がるのでしょうか。

岡田 国内だけなら、仮想通貨の必要性はあまり感じられないかもしれません。日本は金融インフラが整備され、貨幣にしても、商品券や電子マネーにしても、信用された主体によって発行されたものだけを使用してきた文化があります。また、リスクが発生した際にも、多くの場合は救済されてきた。しかも、これだけ電子マネーが広がりをみせ、日本全国どこでも、コンビニエンスストアでも鉄道でも手軽に電子マネーが使える中で、あえて仮想通貨を使う必然性はないでしょう。

 しかし、2020年に向けて外国人観光客を2000万人にまで増やすという政府目標を実現する上で、仮想通貨への対応は避けて通れないものになる可能性があります。成田空港に到着した外国人観光客が最初に困るのが、1杯目のコーヒーを飲む時です(笑)。日本ではクレジットカードの少額決済を嫌う傾向がありますから、日本円に両替をしておかないと、コーヒー1杯すら飲むことができない。これが仮想通貨で購入できれば、スマートフォンを持っているだけで済む。すでに六本木や銀座などにはビットコインで決済できる店舗がありますが、2020年に向けて、小売業やサービス業では仮想通貨の利用環境の整備を視野に入れた検討が進むかもしれません。

 もう一つは、企業における国際間取引で仮想通貨を利用する動きです。為替の影響を受けず、共通の通貨価値で取引ができ、しかも、手数料がほとんどかからないという点で、国際間取引における仮想通貨の利用が増えていくことが予想されます。日本では今後、TPP(環太平洋経済連携協定)により、国際間取引の増加が見込まれます。その中で仮想通貨活用の動きも出てくると思います。

大河原 日本にいると、そこまで仮想通貨が普及するようには感じられません。

岡田 確かにそうかもしれませんね。しかし、欧米では静かに仮想通貨の活用が広がっています。旅行予約サイト大手の米エクスペディアやパソコン大手のデルが決済に仮想通貨を活用し始めています。また、銀行口座を持たない人たちが多い新興国で、インターネットとスマホの普及とともに仮想通貨の活用が広がることが予想されます。仮想通貨の口座を持ち、スマホから金融取引を行うという使い方が一気に広がる可能性がある。よく「周回遅れのトップランナー」と言われますが、新興国においては、インターネット、スマホ、仮想通貨という組み合わせは、金融インフラを整備する上で効率的な提案の一つでしょう。利便性の高さが認識されれば、これまで以上に普及が加速するのは明らかです。

 実は、ビットコインの性質は、1995年にイギリス・スウィンドンで実証実験が行われた電子マネー「モンデックス」と「現金らしさ」という側面で少し似たところがあり、インターネットによる決済やデバイスの広がりなどの条件が整ったことで、かつて各国の銀行まで巻き込んだ取り組みがいよいよ実現しつつあるともいえます。そして、当時を知る人たちが、このビットコインに大きな期待を寄せ、利用促進に向けた整備を進めようとしているのも興味深いことです。ちなみに、現状の電子マネーと仮想通貨の最大の違いは、不特定の者との間で決済の手段として利用され、さらにそれを譲受人が第三者に譲渡し得る「転々流通性」を持つことにあります。そういった意味では、現実の貨幣により近い性質も持ち得るのです。

大河原 米マサチューセッツ工科大学(MIT)はメディアラボの伊藤穣一所長が中心となってビットコインの普及に向けた最先端研究機関を設立すると発表しました。これはどんな影響を及ぼしますか。

岡田 ビットコインの仕組みには一定の評価があり、ゆえに多くの研究者や企業が関心を払ってきたわけですが、その一方で、新たな技術に実際の動きが追随できていないという課題がありました。「ビットコインファウンデーション」がその役割を果たしてきましたが、より技術中立的な研究機関の登場が求められています。MIT が中立的な立場で中核技術の進化を支えるような形になれば、仮想通貨の技術研究をさらに発展させることになるでしょう。

仮想通貨はインターネットに似ている

大河原 仮想通貨が世界中を巻き込んだ金融システムの変革を促す可能性があるということですか?

岡田 今の仮想通貨を取り巻く環境を見ていると、1995年前後のインターネットの黎明期によく似ているんですね。インターネットもビットコインも中央管理者がいないという点で似ているし、当時はそれがどんな技術なのか、本当に安全で信頼できるものなのかが議論され、未知の技術に対する懐疑的な意見も多かった。一方で、メリットについてもよく議論されていました。その後、インターネットは世の中を大きく変えました。そして、今では仕組みを気にする人はほとんどいません。それぞれがリスクを知りながら活用しています。仮想通貨も同じで、今はその仕組みやリスク、メリットに注目が集まっています。インターネットの時もそうでしたが、多くの人がメリットを感じれば、自然と普及していくものです。

大河原 ビットコインに所有権が成立するかどうかが議論されているようですが、仮想通貨はモノとして捉えればいいのでしょうか。

岡田 日本では、昨年3月に国会でも質問があったように、ビットコインは通貨かモノかという二者択一の議論が展開されました。政府答弁は、少なくとも通貨には該当しないことを確認していますが、モノであると定義したわけではありません。まずは、仮想通貨が通貨としてどう位置づけられるのかを議論しなければなりません。

 仮想通貨は国際的な取引にも活用されるものですから、欧米の動きを注視しながら、日本の制度をつくる必要がある。一方、米国では、通貨とは法的な強制通用力を持ち、流通性があり、慣習的に利用されているものと定義していますが、仮想通貨に関しては強制通用力を持たないものであるとされています。つまり、任意で受け取れば支払いとして成り立つが、通貨としての属性をすべて備えるわけではないということです。日本でも同様に、相手の同意を得た上で取引の対価に利用できる任意通貨として認める方向が適していると思います。ただ、日本法と米国法では通貨の位置付けが異なりますので、法的整合性をとるための検討が必要です。

 まず、仮想通貨の制度的リスクと技術的リスクを洗い出して、次にその技術や仕組みを正しく理解し、それに対応する準備を始めることが必要でしょう。将来を見据えて、ビットコインの基幹技術であるブロックチェーンに関しても、日本が最先端の技術や知識を蓄積しておくことが不可欠だと強く感じています。

(写真=佐藤祐介)

インタビュアーからのひとこと

 発行主体を持たない仮想通貨は、これまでの通貨制度とは大きく異なることから、不安視する声があるのも当然だ。しかし今こそ、発想の転換が求められているのではないか。インターネットやモバイル環境が社会インフラとして定着した時代においては、仮想通貨の利活用は避けては通れないものになる。とくに、過去のしがらみがない新興国では一気に仮想通貨が利用されるようになるだろう。日本人の発想の転換が遅れると、国際取引における競争力を失うかもしれないという危機感すら感じる。リスクが大きいという先入観を持つのではなく、まずは仮想通貨を正しく理解することが大切だ。

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第69号/2015年9月発行

仮想通貨の技術と課題
群衆の力を科学に活かす

・黎明期にある仮想通貨をどう捉えるか
・実世界データ間の隠れた構造を探る
・仮想通貨に技術的跳躍をもたらしたブロックチェーン技術
・「ビザンチン将軍問題」とは何か

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