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リチャードソンの夢 - Essay (66-6)

速水 謙
HAYAMI Ken
国立情報学研究所 情報学プリンシプル系 教授

 季節はずれの大きな台風が二つ、日本列島を駆け巡って行った。その威力を感じるとともに、昔に比べて台風の進路の予報が正確になったように感じた。

数値気象予測事始め

 その昔、イギリスの数学者で気象学者のリチャードソンはコンピュータのない時代に、流体の方程式をもとに、天気を予測する計算方法を着想し、それを実現しようとした。空間を升目のように区切り、気圧の高い升目から低い升目に空気が流れるように計算するのである。しかし、計算尺などに頼った手計算では到底予報に間に合うようには計算ができなかった。6時間後の予報を行うのに6週間かかったのである。しかもその予測は現実とは程遠かった。

 そこで、彼は劇場のような大きな建物の座席に60,000人の"コンピュータ"(計算をする人)を配置し、各升目の計算を担当させ、"指揮者"の統率のもとに全体の計算を並行して行わせることにより予報に間に合うように計算を高速化することを夢想した。これを"リチャードソンの夢"という。

数理モデルとアルゴリズムの役割

 この夢は、電子計算機の出現とともに具体化し、今日、スーパーコンピュータや並列計算機により現実のものとなり、かなり正確な天気予報や、中期的な気象予測が可能になっている。ただ、リチャードソンの夢が彼の時代に実現しなかった理由はもう一つある。数理モデルである方程式が現実の気象現象を的確に表現していなかったのである。その後、計算機の発達とともに、モデルの改良が積み重ねられた。また、予測のもとになる観測データが不十分な場合にいかにしてそれを補うかといった工夫や、並列計算機の実力を十分に発揮させるアルゴリズム(計算法)の開発など、数理モデル、アルゴリズム、計算機の発達の相乗効果によって今日のような天気予報や気象予測が可能になってきているのである。

 この例が示すように、計算機を使った予測は、数理モデル、アルゴリズム、計算機を総動員して、初めて可能になるのである。

 因みに、リチャードソンの興味は気象にとどまらず、クエーカー教徒で平和主義者の立場から数理モデルによる戦争の解析を行ったり、国境線の長さの解析を行う中からフラクタルという数学の概念の端緒をつかむというように、数学を様々な実社会の問題に応用し、またその中から新しい数学やアルゴリズムを生み出したことは興味深い。

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第66号/2014年12月発行

アルゴリズムと数理研究の融合

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