Sep. 2019No.85

フェイクに挑む不正な情報を見抜くために

Essay

「情報操作からSNSを守れ」

Takayuki Mizuno

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授/総合研究大学院大学複合科学研究科 准教授

 香港で続く大規模デモは、情報戦の様相を呈してきた。体制派と反体制派の双方が都合のよい情報をSNS(交流サイト)に流して、国内外での世論づくりに励んでいる。

 近年、計算社会科学分野では、SNSによる情報の共有の仕組みの危うさが活発に議論されている。人々はついつい、自分に都合のよい情報を信じてしまい、それを仲間に伝えて情報を共有し、仲間を増やそうとしてしまう。そうすると、それに反応した仲間が関連情報を投稿し、それにまた自分が反応するという連鎖が発生する。これを「エコーチェンバー現象」と言い、どんどん、SNSの中で意見の分断が進んでいく。特に、人々はセンセーショナルな情報を好み、それが自身に都合がよければフェイクニュースでも構わないという傾向さえある。

 ハーバード大学のGary King教授らは、中国政府による匿名のアカウントがデモ等の集団行動を抑制する書き込みを行っていることを、APSR(American Political Science Review)'17の論文で明らかにした。その書き込み内容は、政府の意見を擁護するものではなく、巧みに人々の関心を別の話題に向けようと、まさに世論誘導を行っているというのである。我々は、性善説にもとづいて、より自由で効率的なSNSを作り、人類の集合知を手に入れようと、日々、研究開発を行っているが、それが逆手に取られた格好である。

 これからは、安全安心なSNSを作るための技術が必要となってくるであろう。例えば、発信者情報を保持し、改ざんを防ぐなら、ブロックチェーン方式が有効である。これは、情報の発信元からの上流側に対する対策となる。一方で、誰に情報を提供するかという下流側に対する対策も考えられる。Aさんに情報を流すか、Bさんに情報を流すか。それぞれの下流に誰がいるかを考慮して、送信先の安全度をリコメンドするシステムも有効であろう。

 ネットにおける書き込みは、単なる街角の落書きと考えられていた時代から公共財となる時代へと変化してきた。このような時代に合わせて、安全安心な、それでいて自由で効率的なSNSが求められる。公共財として活用できるSNSの確立のために、我々情報学の研究者も日々、研究を続けている。

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