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データの利活用と流通の間 - Essay (75-6)

森亮二
MORI Ryoji
弁護士 国立情報学研究所 客員教授

 これまで、データ、特にパーソナルデータの利活用と流通は、表裏のものとして語られてきました。例えば、政府のIT戦略を示した閣議決定「世界最先端IT国家創造宣言」は、「データ流通の円滑化と利活用の促進」をテーマの一つに掲げています。
 しかしながら、パーソナルデータのマネタイズは、これまで「流通」によって実現していたわけではありません。「GAFA」と総称されるグローバル・プラットフォーマーのうち、GoogleとFacebookの収益の中核は広告であり、これは彼らが収集したパーソナルデータを、外には出さず、自分自身で利活用した成果です。日本からもGAFAを追撃するような事業者が出現する「第4次産業革命」を目指すのであれば、データの囲い込みを悪いことと決めつけるべきではないでしょう。加えて、パーソナルデータの「流通」は、プライバシーの脅威であることも忘れてはなりません。また、流通させるとなるとセキュリティのコストもかかります。「流通」「オープン」ばかり強調することは、それらの点からも妥当ではないのです。医療や金融といった社会的な課題が明らかなものを選んでオープンにし、それ以外は、本人や一次取得事業者がしっかり守る「オープン&クローズド」の制度設計がいいのではないでしょうか。
 実は、別の分野でこのような発想をしているものがあります。著作権法改正の方向性を示すものとして文化審議会が先日公表した「新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等に関する報告書(案)」です。長年の懸案であった米国型の一般的フェアユース規定の採否の議論に対する答えを示すもので、「第4次産業革命」の成否を占ううえでも大きな意味を持っています。
 報告書は、米国型の一般的なフェアユース規定を採用するのではなく、著作権者の不利益がないかまたは少ないと評価できる類型については、広い権利制限を設ける一方で、それ以外の部分については、公共目的での利用の必要が高い分野について範囲を絞った権利制限を置くべきであるとしています。これは、利用の必要性を確認したうえで、その部分のみオープンにする「オープン&クローズド」のアプローチです。
 しかしながら、これはこれで違和感が残ります。あえて悪く言えば、パーソナルデータはどんどん流通・利用させ、著作物は権利者の不利益をしっかり考えて慎重に流通・利用させるという組み合わせになっていないでしょうか。第4次産業革命が痛みを伴うものであったとしても、個人の人権に踏み込んでいいものではないでしょう。革命の代償は、旧来のビジネスモデルを変革できない事業者によって支払われるべきものです。

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