【概要】
学術雑誌の購読価格高騰を原因としたシリアルズクライシスへの対応として,大学図書館はコンソーシアムを組んで大手海外出版者を相手にビッグディールという包括的な契約方式を実現させ,同時に,機関リポジトリによる雑誌論文のオープンアクセス化とポリシー策定による組織内のルール化を行ってきた。
現在のオープンアクセス化の方法は,購読料支払いを前提に出版者サイトからアクセスコントロールされた論文公開に対し,機関リポジトリに出版された論文のコピーや著者最終稿を掲載して無料でアクセスさせるグリーンOA(open access)と呼ばれる方法と,APC(article processing charge)という論文加工料を著者が出版者に支払って,出版者が出版者サイトから論文を無料でアクセスさせるゴールドOAと呼ばれる方法が主流となっている。
2012年に英国政府がゴールドOAを主体としたフィンチレポートを実現する意向を表明して以降,欧州ではオープンアクセスのあり方をめぐってグリーンOAとゴールドOAを2極とする議論が沸き起こっている。
英国内では,JISCは購読料とAPCが混在したハイブリッド誌のゴールドOA化を促し,機関の総支払額を抑えるオフセットシステムを導入したパイロット契約を実施している。オランダは自国の研究者が出版したシュプリンガーの2000誌の雑誌論文をゴールドOA化することを決定し,エルゼビアとも同様のOA化を約束した。欧州委員会は,“オープンサイエンスポリシープラットフォーム”を推進する中で,ゴールドOA化への道を探ることを含めている。素粒子物理学分野では,SCOAP3という名のもと,分野の主流な雑誌を対象にゴールドOA化するビジネスモデルを開発し,実施している。
一方で,セルフアーカイブを推奨し続けるスティーブン・ハーナッドは,見境なくゴールドOA化を進めようとしている現状に警鐘を鳴らし,COARはユネスコと共同で同様の声明を発表している。また,様々なステークホルダーは,急進的なゴールド OA化への懸念をブログ上に発信している。
このような状況の中で,我が国はどう振る舞うべきか。主要な学術雑誌の大半を欧州や米国のプラットフォームに依存している我が国は,欧州や米国のOA化への流れを避けて通ることを許されない。我が国にとっての,機関リポジトリの存在意義を見出してきたのと同様に,ゴールドOA化へのあり方の議論とその反動としてのグリーンOAへの回顧が必要である。
本セミナーでは,オープンアクセスに関心のある実務家や研究者が一堂に会し,オープンアクセス化のあり方と今後の日本の取り得るべき戦略を議論する。
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