研究背景・目的
ビジネスから先端科学までさまざまな分野で今、人工知能(AI)の研究が急速に注目されています。例えば、ユーザやロボットの行動履歴や、ソーシャルネットワークにのぼる話題、突発する異常気象や災害などの情報、スマートフォンからの利用者ログなど、現在利活用が望まれるデータは総じて大量で間断なく移ろいやすく、不完全な形で供給されています。にもかかわらず従来技術では、データから抽出した知識は時間による変化を考慮しておらず、リアルタイムなデータ処理では重要なAI技術である推論が含まれていませんでした。これに対して本研究では、ダイナミック環境において即座に知的に問題を解決できるAI技術を目指しています。そこでは、環境や他システムとのインタラクションからダイナミクスを表現する内部モデルを学習により構築し、このモデルを基に予測や意思決定を推論によって実現します。またこれらを実現するAIプログラムは相互に作用し合い、環境からの影響も受けつつモデル自体もダイナミックに洗練され発展し続けます。 このため、未知の状況に遭遇しても自ら推論しながらタスクを遂行するAI技術を提案することができます。
研究内容
本研究では、これまであまり考慮されていなかったダイナミック環境を念頭に置き、代表的なAI技術である機械学習による知識獲得と制約最適化による意思決定をハイブリッドさせ、図のようなサイクルを持つソフトウェアエージェントの開発を行います。機械学習パートでは、ダイナミック環境に関する様々な知識や背後に存在するユーザの意図を帰納推論やアブダクションにより学習し、知識ベース・モデルに反映させます。意思決定パートでは、前パートで得られた環境に関する知識やユーザの意図に関する仮説を制約ネットワークとして捉えることで、制約充足問題(SAT)や多目的最適化問題(Multi-Objective optimization)の技術を用いて最適な行為を決定します。また、これらに加えて、SAT技術が応用可能なモデル検査を用いて、ダイナミック環境で未来に起こりうる結果を予測しつつ、ソフトウェアエージェントが正しく動作するか検証します。さらに、ゲーム理論の代表的な応用例であるメカニズムデザインの知見を用いて、相互に作用したソフトウェアエージェント達による社会的な決定(結果)が望ましい性質や均衡点を持つようにできます。 これらをモデルに組み込んだソフトウェアエージェントが相互作用するサイクルによって、人間の力を借りることなく自らを発展させ、推論・意思決定していきます。
産業応用の可能性
- レジリエント・システム
- システム検証
- ダイナミックスケジューリング
- サイバーセキュリティ
- オピニオン形成
- マルチエージェント学習
連絡先
井上 克巳[情報学プリンシプル研究系 教授]
http://research.nii.ac.jp/il/
inoue[at]nii.ac.jp ※[at]を@に変換してください