NIIの「知」を産業や地域活性に活かす

NIIでは情報学分野で高いレベルの研究を行っています。NIIが生み出す技術、知見、研究力を、企業の競争力強化や地域課題の解決などに活かしていただくことを期待しています。NIIの「知」が商品やサービスとして社会実装された事例をご紹介します。

話者自動匿名化プログラム
「VocalGuard(ボーカルガード)」

  • 山岸 順一(コンテンツ科学研究系 教授 [専門分野]音声情報処理/バイオメトリクス)

声の個人性のみ匿名化することを可能にした技術。近年、個人情報の保護・秘匿が、以前よりもますます厳しく問われており、例えばテレビ放送で用いられるインタビュー音声にもプライバシー保護の点で一層の注意が払われるようになっている。個人情報の保護のためには、音声を匿名化しなければならないが、どのような処理を行えば、インタビュー音声としての可用性を保ったまま不可逆な匿名化が達成されるかは技術的に明確ではなかった。
山岸研究室では「k-匿名化」と呼ばれる技術を用いて研究開発を行ってきた。音声を発話内容と基本周波数、話者ベクトルの3つに分解、このうち個人性に影響する話者ベクトルのみを匿名化し、個人が特定化される確率をk分の1以下にして再合成する。kの値を調整することで、利便性と安全性のトレードオフを調整することができる。この技術により、音声の可用性と匿名性の両立を図ることが可能となった。
山岸研究室は放送局と連携し放送現場での応用研究を実施、新たな音声匿名化技術として実用性が実証されており、利便性向上のためさらなる研究開発を行っている。

物体の反射光と蛍光を分離して可視化観察を実現
分光蛍光マイクロスコープ「EEM® View」

NII × 株式会社日立ハイテクサイエンス
  • 佐藤 いまり(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 教授 [専門分野]コンピュータビジョン/コンピューテーショナルフォトグラフィー/画像解析)
  • 鄭 銀強(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授 [専門分野]コンピュータビジョン/水中3次元復元/カメラシステム)

分光画像とスペクトルデータの同時取得を実現する新技術。NIIの佐藤いまり、鄭銀強が開発した計算アルゴリズムにより、蛍光成分と反射成分の画像の分離表示を可能とした。同社の分光蛍光光度計に組み込むことで、物体のスペクトルデータとCMOSカメラによる蛍光・反射画像を同時取得し、さらに取得した試料画像を25分割した際の、区画ごとの拡大表示や蛍光・反射スペクトルデータも取得することができる。従来の分光蛍光光度計では、試料全体の平均的なスペクトルデータの取得に留まっていたが、本技術により反射・蛍光スペクトルを可視化し、画像による蛍光発生部位の把握や特定箇所のスペクトルデータの取得が可能となり、より高精度な蛍光物質の測定が実現した。本装置の蛍光分析への活用により、微細測定ニーズが高まるLEDやディスプレイなどの電子材料や工業材料分野をはじめ、食品検査分野やライフサイエンス、バイオテクノロジー分野など、幅広い分野での研究開発や品質管理に活用が期待されている。

カメラによる顔検出を防ぎプライバシーを守る
「プライバシーバイザー」

NII × 鯖江市
  • 越前 功(情報社会相関研究系 教授 [専門分野]情報セキュリティ/メディアセキュリティ/プライバシ-保護)

スマートフォンのカメラなどへの意図せぬ写り込みによるプライバシー侵害を阻止する眼鏡型デバイス。NII の越前功が開発した顔検出妨害技術と、「めがねのまち さばえ」を掲げる福井県鯖江市の高度な眼鏡製造技術が結びついて商品化された。コンピュータは、顔の明暗の特徴を識別することで画像から人の顔を検出する。プライバシーバイザーは光を反射させ、顔の特徴を崩すことで、顔として認識されないようにした。電源や特殊な材料を使用せず、眼鏡のように装着するだけで、自らが意図しない撮影からプライバシーを守ることができる。ファーストモデル(2016年5月発売)は、プライバシー保護のため通常のメガネに比べて湾曲が大きい独特のフレーム形状となった(写真1)。セカンドモデル(2018年2月発売)は、機能性は保持したままデザイン性にも配慮。見た目はほぼメガネでありながら、普段はサングラスとして、レンズを前方に少し跳ね上げればプライバシーバイザーとして利用することができる(写真2)。プライバシーバイザーは、公益社団法人発明協会 令和元年度関東地方発明表彰の発明奨励賞を受賞した。

地域のお見合いをITの力で支援
ビッグデータを活用した婚活「愛結び」

NII × えひめ結婚支援センター
  • 宇野 毅明(情報学プリンシプル研究系 教授 [専門分野]ビッグデータ/データ解析/人工知能)

愛媛県松山市の「えひめ結婚支援センター」は、NIIの宇野毅明が開発したデータ解析アルゴリズムをお見合いサービスに取り入れている。宇野は、申し込みデータやお気に入り登録といったユーザーの行動履歴を、本人の「性格」を表すデータと考えることで、単に条件が合う人をあてる通常のマッチングより質の良いお薦めができると考えた。アイディアはこうだ。まず、行動履歴データが似ている同性のユーザーをグループ化する。グループ内のユーザーは、きっと好みが似ているだろうから、あるユーザーを気に入った異性の人は、きっとグループ内のほかのユーザーも気に入る可能性が高いに違いない。異性を薦めてほしいなと思うユーザーは、条件付けではいい出会いがなかった方々なので、このような性格や好みに近しいものからアプローチすればうまくいくのではと考えた。実際に、このアイディアに基づいたアルゴリズムの導入により、お見合いを申し込んだ際の承諾率は13%から30%に上昇。ITの最新技術で地域課題の解決をめざすこの取り組みは評価され、総務省の地方創生に資する「地域情報化大賞2015」の特別賞にも選ばれた。人と人をつなぐシステムのため、婚活だけではなく転職や仲間づくり、ベビーシッターやBtoBビジネスでの活用なども期待できる。