光とカメラの情報学

  • 池畑 諭(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 助教)
  • 佐藤 いまり(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 教授)
  • 青砥 隆仁(筑波大学 図書館情報メディア系 研究員、Optech Innovation 合同会社 代表社員)

私たちが見ている世界は、光と環境のインタラクションによって成り立っています。画像の認識理解を行うコンピュータビジョンや撮像系に情報処理を組み合わせるコンピュテーショナルフォトグラフィでは、様々な方向や波長の光が被写体と相互作用してカメラで撮影されるまでのふるまいを科学して、物体表面の微細な形状や内部状態を復元・可視化したり、またそれらに適した光学系をデザインするという試みが行われています。今回は、コンピュータビジョンやコンピュテーショナルフォトグラフィの分野の中でも、特に「光の科学」に着目した研究を紹介し、その将来について議論していきます。

情報学×産官学連携 〜企業とアカデミアの連携を成功させるために~

  • 二階堂 知己(国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 産学連携展開部 地域イノベーショングループ マッチングプランナー(広域関東圏)/産学連携フェロー)
  • 越前 功(国立情報学研究所 副所長/教授)

人工知能やビッグデータ、IoT、情報セキュリティーなど技術革新が急速に進む中で、企業では自前の研究開発だけでなく、先端的な技術や研究成果を有する大学等の研究機関との連携の重要性が高まっています。一方、大学等のアカデミアでは、研究成果(シーズ)を企業や社会の視点(ニーズ)で掘り起こし、実用化につなげることが求められています。しかし、産学連携について確立した方法論は無く、どの組織も試行錯誤で取り組んでいるのが現状です。今回の産官学連携塾では、情報学における最先端の技術動向と産学連携の成功事例、ありがちなつまづきポイントとその回避方法など、産学連携を成功させるための実践的な方法論について議論します。また、JSTをはじめとする公的な産学連携支援制度の活用方法についても紹介します。

コンピューターグラフィックスで描き出す美と産業への応用 〜デザイン支援、写実的表現、そして科学と芸術の融合へ~

  • 安東 遼一(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 助教)
  • 森本 有紀(九州大学大学院 芸術工学研究院 助教)
  • 梅谷 信行(東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 特任講師)
  • 小山 裕己(産業技術総合研究所 情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループ 研究員)
  • 谷田川 達也(早稲田大学大学院 先進理工学研究科 研究員)

コンピューターグラフィックスでは長年、写実的な世界を計算で再現する努力が注がれてきました。長年の研究の成果、コンピューターグラフィックスは大成功を収め、主に映画の特撮現場で実用化されるようになりました。現在、コンピューターグラフィックスは映像の範疇を超えて、ユーザーの設計を援助するインタラクティブなシステムの構築や芸術制作の支援など幅広い産業分野への応用が始まっています。本講義では、そんなコンピューターグラフィックスの近年の応用例を交えて、これからのコンピューターグラフィックスの将来と取り組みを議論していきます。

光が導く屋内ナビゲーション ―可視光通信と測位技術の融合―

  • 橋爪 宏達(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授)
  • 牧野 秀夫(新潟大学 名誉教授)
  • 杉本 雅則(北海道大学 大学院情報科学研究科 教授)

スマホの動画カメラとマイクで光信号や音響信号をとらえ、その高度な演算機能で解析することで、新しいモバイル応用が可能となっています。その一例は可視光通信技術であり、LED 照明光などを高速変調して行う情報通信です。また屋外の GPS による歩行者ナビゲーションを建物内環境に延長した屋内ナビゲーションも、スマホの新しい利用法として期待されています。可視光通信と屋内ナビゲーションは新しいスマホ応用として期待されるものですが、これまで異なった技術と考えられてきました。しかし両者は動画カメラやマイクという同種センサーを使って実施でき、両者を連携して行うことで、ナビゲーションの位置精度を飛躍的に高め、またきめ細かいナビ・ガイダンスを行えることがわかってきました。今回はスマホのセンサーフュージョンの一例として、カメラを使った可視光通信・屋内ナビゲーションについて最新の研究を解説します。新しいスマホ応用に興味をもつ皆様の参加を期待します。

意欲を引き出して、行動を変える ―学習および運動に関する行動変容研究の紹介と展望―

  • 岡田 涼准教授(香川大学教育学部)
  • 安藤 創一准教授 (電気通信大学 情報理工学研究科)
  • 大河原 一憲准教授(同上)
  • 坂本 一憲助教(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系)

今年度第1回は、「意欲を引き出して、行動を変える ―学習および運動に関する行動変容研究の紹介と展望―」をテーマに、岡田 涼准教授(香川大学教育学部)、安藤 創一准教授 (電気通信大学 情報理工学研究科)、大河原 一憲准教授(同)、坂本 一憲助教(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系)がプレゼンテーションを行いました。岡田准教授らは、本研究所の坂本助教と共同で「行動意欲」に関する研究を進めています。岡田准教授は自発的行動を促すメカニズムについて、安藤准教授は脳科学の知見をもとにした運動とモチベーションの関わりについて解説しました。また、大河原准教授はICTを活用した健康・身体活動促進ツール、坂本助教は人工知能技術を使って学習者の意欲を引き出す学習アプリを紹介しました。プレゼンテーション終了後、参加者と研究者はテーブルを囲み、研究内容について活発なディスカッションを行いました。

人工知能AI時代におけるユーザインタフェースのためのインタラクションデザイン学

  • 山田 誠二 (NIIコンテンツ科学研究系 教授)
  • 寺田 和憲 (岐阜大学 工学部 電気電子・情報工学科 准教授)
  • 小松 孝徳 (明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 准教授)

最近の人工知能AIの目覚ましい発展と共に、人間(ユーザ)とAIエージェント(コンピュータ、ロボット)間の情報のやり取り(インタラクション)をいかに設計するかというインタラクションデザインが非常に重要になってきています。そして、インタラクションデザインの新しい方法論が、主にヒューマンエージェントインタラクションHAIから生まれてきています。今回の産官学連携塾では、人工知能AI時代における次世代ユーザインタフェースを構築するためのインタラクションデザインの新しい方法論について、その考え方を紹介し、具体的な研究例、実装例を交えながら実用性を考慮した講演を行いました。3つのトピックと講師による全体講演の後には、円卓形式のグループディスカッションの時間を設け、さらに掘り下げたディスカッション、意見交換、そして講演者と参加者間、参加者同士の交流を図りました。

大規模コンピュータ・ネットワークの建築学

  • 鯉渕 道紘 (アーキテクチャ科学研究系 准教授)
  • 藤原 一毅 (アーキテクチャ科学研究系 特任准教授)
  • 松谷 宏紀 (慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 専任講師)

今回の塾では、3名の計算機アーキテクチャ研究者が「大規模コンピュータ・ネットワークの建築学」をテーマに、ビッグデータ利活用のための新しいコンピュータ技術を紹介しました。AI処理系を対象として誤差を許容する代わりに、超高速なデータ処理・転送を可能とする技術 (Approximate Computing/Networking)、10Gbpsネットワークに直結したハードウェア (GPU/FPGA)による超高速データベース技術、天然水を使って冷却コストをゼロにする技術 (水没コンピュータ)など、従来の常識ではちょっと思いつかないような、とがった研究が勢揃いしました。これらは、2030年ごろまでにムーアの法則が終焉し、コンピュータ機器の単純な性能向上が見込めなくなることを見越した研究展開です。講演のあと、講演テーマ別に3つのグループに分かれてインタラクティブなディスカッションの時間を設け、大規模計算インフラに興味を持つ参加者との議論が行われました。

身近になってきた機械との対話、その要素技術と今後の発展

  • 山岸 順一(コンテンツ科学研究系 准教授)
  • 李 晃伸 (名古屋工業大学 情報工学専攻 教授)
  • 塩田 さやか (首都大学東京 システムデザイン学部 助教)

近年、スマートフォンの普及やロボット技術の発展に伴い、ロボットやデジタルエージェントと人間が声を使って会話をする機会が増えてきています。今回の塾では、身近になりつつあるこの声を使ったインタフェースについて、それぞれの要素技術の中身とその最先端の状況と絡めて紹介しました。要素技術としてあげられるキーワードの中でも、特に音声合成、音声認識/音声対話システム、話者照合システムについては、現状及び今後の可能性についてオープンソースプログラムの紹介とともに、山岸准教授はじめ3名の講師陣から詳しくお話しがありました。全体講演の後は、講演テーマごとの3つのグループに分かれ、音声信号処理や機械学習に関する解説から話題のディープラーニングに関する話題まで、音声情報処理研究分野に関するインタラクティブディスカッションを行いました。

質感研究の発展

  • 佐藤 いまり(コンテンツ科学研究系 教授)

精度の高い測色及び表色の技術は、塗料、印刷など、物体の見えの正確な再現が求められる産業への要素技術として注目されています。また、RGBに限らず、様々な波長の光で解析してみると、食品の品質や産地、その美味しさが予測できたり、工芸品の色合いの複雑さを見ることができたりと多くの発見があります。我々の研究室では、実在物体の持つ光学特性(分光特性や蛍光発光の特性)を効率的にモデル化し、シーン内の光の伝搬をRGB値ではなく分光レベルを通して忠実に再現する画像合成手法の開発に取り組んでいます。また、西陣織の工芸師の協力のもと、伝統工芸により生み出される質感の豊かさを解析しています。今回の塾では、我々の研究室の研究紹介をはじめ、色艶、透明感などを生み出す質感研究の最前線について紹介しました。

情報学×ものづくり×地方創生 PrivacyVisorの研究開発から社会実装へ

  • 越前 功(コンテンツ科学研究系 教授)
  • 安藤 毅(エアスケープ建築設計事務所 代表)
  • 井上 治(株式会社 前澤金型 工場長)
  • 今川 泰夫(鯖江市役所 政策経営部 課長補佐)
  • 佐藤 竜一(株式会社ニッセイ 取締役)

2012 年に越前教授が着想したPrivacyVisor は、被撮影者の着用により、着用者の顔検出を妨害することで、プライバシーを保護する世界初の技術であり、海外のトップメディアに大きく取り上げられました。さらに、2013 年より眼鏡フレームの世界的シェアを持つ福井県鯖江市の眼鏡製造企業と共同で、電源を用いず、装着感や見た目のデザインに配慮したPrivacyVisor の研究開発に着手し、2015 年8 月に鯖江市が実施・運営しているクラウドファンディング事業による資金調達を経て、PrivacyVisor が製品化されることが発表されました。今回の塾では、NII の研究成果が地域に根差した企業の技術協力や自治体のサポートを通じて、製品化されるまでの一連のプロセスを紹介し、ゲスト講師を交えた講演およびパネルディスカッションを行いました。

ビッグデータを始める前におさえておくこと

  • 宇野 毅明(情報学プリンシプル研究系 教授)

イノベーションの創出に向け、ビッグデータをいかに有効に活用できるかは、社会の改革のみならず今や業種を問わずビジネスの改革と創造に不可欠な取り組みとして注目されています。ビッグデータの研究や取り組みは今に始まったわけではなく、既に様々な取り組みが行われてきた一方で、データの分析・活用にはこれといった万能的な処方箋がなく、他の事例との類似性も薄いため、参考とすべき解析技術や手法があまりない状態にとどまっています。今回の塾では、ビッグデータに対する「感覚」を掴んで頂けるような講義を目標に、最近のビッグデータとはどのようなもので、どんな感じで取り扱うと、どの程度のことが得られるのかなど、ビッグデータを活用する際の「コツ」を紹介しました。

テキストデータから未知の情報を得るマイニング技術

  • 宮尾 祐介(コンテンツ科学研究系 准教授)
  • 新里 圭司(楽天株式会社 楽天技術研究所 シニアサイエンティスト)
  • 那須川 哲哉(日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 主席研究員)
  • 徳永 拓之(株式会社Preferred Infrastructure 知的情報処理事業部 事業部長)

従来からのウェブ情報のほか、Facebook、twitter 等のSNS の普及により、インターネット上には一般ユーザーが生成する膨大なコンテンツがあふれています。特に、ネット上での商品や店などに関する口コミや消費者から企業に寄せられるクレームなどのテキストデータは、マーケティングや新ビジネスの種が隠されている宝の山とも考えられ、ここからいかに有効な情報を抽出し、次の戦略に迅速に反映できるかは、その活動や企業自身の浮沈までも左右する可能性があります。今回の塾では、本研究領域において異なる立場・視点から研究開発をリードされている3名の技術者・研究者を招き、パネル討論を交え、テキストデータを中心とした知識処理、AI 研究の動向について幅広い議論を提供しました。

画像の意味解析

  • 佐藤 真一(コンテンツ科学研究系 教授)

近年、画像・映像メディアは、デジタルTV 放送、ウェブ等における放送業界に限らず、社会の幅広い分野での利用が進み、社会的な重要性、存在感が増してきています。従来のテキストのみならず、画像・映像メディアが日常的に利用される社会では、大量の画像・映像メディアから必要な情報を効率的に検索する技術、読み取りたい情報を発見する技術などに対する期待が高まっています。今回の塾では、利用価値の高い実際の画像・映像メディアを用いて、応用範囲が広く、実際に使える技術の研究・開発を進めている佐藤教授による講義を行いました。「画像の意味解析」をテーマに、技術の進展の歴史や技術の適用方法についての情報提供を行い、技術者と活用ユーザーとのディスカッションにより交流を深めました。