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坂井 華奈子(さかい かなこ/日本貿易振興機構 アジア経済研究所 図書館)

アジア経済研究所

日本貿易振興機構アジア経済研究所は2006年8月に『アジア経済研究所学術研究リポジトリ ARRIDE(Academic Research Repository at the Institute of Developing Economies)』(以下、ARRIDE)として機関リポジトリを公開した。これは大学以外の研究機関として国内初である。平成15年度から、電子図書館の一環として機関リポジトリの構築についても検討が行われた。この背景には、研究所の幕張移転に伴い遠隔利用者への対応として非来館型サービスを増強する必要があったという事情も関係している。また、機関の成果を無料で広く公開することは公的研究機関としての説明責任を果たす上でも重要であるし、「日本における開発途上国研究の拠点として、世界への知的貢献をなすこと」という研究所のミッションにも寄与しているといえる。

ARRIDEの特徴として、当研究所の対象領域である社会科学分野の主題に特化していることがあげられる。また、開発途上国・地域に関する研究が多いことから、コミュニティ・コレクションの構成を地域別・主題別に参照できるようにしていることも特徴であり、これは当図書館の排架方式とも共通している。

筑波大学の佐藤翔氏らによるARRIDEのアクセスログ解析結果をみると、他機関のリポジトリと比較してARRIDEは海外からのアクセスが多いことも特徴である。経済学分野の国際的データベースであるRePEc(Research Papers in Economics)へARRIDEからメタデータをアップロードしており、そこを経由した国外からのアクセスが多いためである。RePEcへはOAI-PMHではなく、メタデータをRDF形式に加工してアップロードするため、構築当初から独自のプログラムを開発しDSpaceに追加している。佐藤氏らの分析により、こうした設計が功を奏したことの客観的な裏づけが得られたといえよう。前述のミッションとも関連するが、ARRIDEを通した国際的な知的貢献を実感することができたのは運営者としてうれしい出来事であった。また、ジャーナルではなくDiscussion Paperで発表した文献が国際機関のレポートに引用され、おそらくARRIDEを通して利用されたのではないかということで驚きとともに感謝のメールを著者からいただいたこともある。

筆者自身がリポジトリ事務局の担当となったのは平成20年度からである。他の業務との兼任であり、当初は所内向けニュースレターの編集・発行等の広報的な部分を担当していたが、構築段階から関わってきた職員が同年度末で退職し、その後はシステム関係のことも管轄しなくてはならなくなった。サーバやプログラムに関する知識不足でもどかしい思いを抱くこともあるが、同僚をはじめ様々な人の協力を得てなんとか今日に至っている。

当研究所にはもうひとつ「AIDE」という出版物のデジタルアーカイブがあり、そちらでは出版物販売との兼ね合いもあり、エンバーゴつきで一部有料の会員向けサービスとして公開している。一部機能が重複する面もあるため、予算削減のためにAIDEに統合しARRIDEを廃止することが検討されたこともあった。しかし、前述のような実績やOAI-PMHの強みを活かした様々な外部サービスとの連携等が評価されて今に至っている。機能の重複や有料出版物とオープンアクセスの両立、統合検索など、解決すべき課題は依然として残されているが、ARRIDEの実績は一定の評価を得ているといえるだろう。

「わが機関リポジトリ」を語るには担当してまだ日が浅く、さらに筆者は構築計画の検討時はまだ入所前であったわけだが、今回を含めARRIDEについて執筆する機会がある度に運用方針やRePEcとの連携をはじめとする構築時の設計の妙に感心させられている。

分野にもよるが、特に若手の研究員は電子ジャーナルを重視し、図書館から足が遠のいている傾向がある。このような環境下で図書館員と研究員のコミュニケーションが減少していることは否めない。しかし電子的情報発信に関心が高いのもまたそういった分野の研究者であり、リポジトリの発信機能に対する彼らのニーズが高いこともコンテンツ収集の過程で実感している。機関リポジトリの運営は研究員との新たな交流のきっかけでもあり、研究活動におけるさまざまなニーズや図書館への期待など、図書館運営に役立つ情報を得ることができる良い機会であるともいえる。人員不足やコレクションの伸び悩みなど課題も多いが、機関リポジトリの運営は反響も大きく魅力的な業務だと感じている。今後もわがARRIDEをさらに発展させられるよう努めていきたい。