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永井 裕子(ながい ゆうこ/社団法人 日本動物学会 事務局長・UniBio Press 代表
永井 裕子(ながい ゆうこ/筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 博士課程 )

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● 日本の学術誌評価

日本の学術誌はだめだ。と言われ続けて、久しい。では、日本の学術誌の何がだめであり、またどうしてだめなのかという抜本的な検討はなされてきたのかと言えば、それは残念ながら、「否」である。また、日本の学術誌全体の概況を示すような白書はあるかと言えば、これもまた「否」だ。1) 日本の学術誌はどのような評価で「だめだ」と言われてきたのだろうか。第一に、日本の学術誌は「海外研究者はもちろん、日本の研究者が投稿したいジャーナルではないから、だめだ」と言われてきた。だが、日本の学術誌はなぜ投稿したいジャーナルではないのか? という問題は問われることがなかったのである。そして、原因は検討されないまま、政策は講じられないまま、今に至った。しかしながら、平成19年6月28日に出された日本学術会議の対外報告「学協会の機能強化方策検討等分科会」2)では、わが国における研究評価システムが、学協会ジャーナルに問題を与えているとはじめて言及された。対外報告は、日本の学会が抱える問題として、第一には学会における会員数の減少をあげ、次に以下の文章が続く。「第二には、特に国際的に最先端を競っている分野に多い現象であるが、学協会では発行している学術誌が、欧米の学協会誌や商業誌との激しい競争にさらされ、購読部数や論文の被引用数などで厳しい状況に置かれていることである。また、我が国の評価システムとの関係で、意欲的な若手研究者が論文発表の場を海外の学術誌に求める結果を招き、我が国の学協会の活力を低下させるという悪循環を招いている」学術誌を中心とする学術情報流通の世界は、日本を問わず、激しい競争下にあり、どのジャーナルもしのぎを削る状況となっているため、前半の部分は、日本の学術誌にのみ特化している状況ではない。だが、日本の学術誌が、「評価システム」によって、「投稿されにくい、投稿しない、投稿したくないジャーナル」として存在し、それが日本の学会の弱体化につながっているという指摘は遅すぎると言っても過言ではない。もちろん歴史的な問題は大きい。欧米には優れた学術誌が多くあることは事実だからだ。日本人研究者がそういったジャーナルに投稿し、受理されたいという欲求は、日本人研究者という括りではなく、研究者であれば当然だと言える。だがそれを踏まえても、我が国における学術評価の問題は、大きな影響力を持って、日本の学術誌を既定してきた。

また、我が国の評価システムの根幹には、Impact Factor(以下IF)が存在する。現在の評価が「よりIFの高いジャーナルへの掲載を優秀な論文とみなす」ならば、IFを熟知した研究者であったとしても、IFがより高いジャーナルへの論文掲載が多くの研究費獲得につながるのであれば、多くの場合、はじめに、その研究に相応しい分野で、IFの高いジャーナルへ論文投稿を行うことになるだろう。そこでは何番目に日本のジャーナルが選択されるのだろうか。

日本の学会は、優秀な研究者の集団である。そこから発信されるジャーナルの質が悪いはずはない。しかしながら、実際には、「日本人研究者は日本のジャーナルに投稿したくとも、投稿できない状況が作られてきた」。その上、そういった現実の状況を踏まえず、「日本の学術誌はだめだ」「日本の学術誌はいらない」と主張する研究者の方々がおられたことも事実である。しかし、優秀な日本人の研究を海外ジャーナルに流出させないために、日本人研究者は日本の学術誌のみの投稿しか認めないといった暴論は先に述べた通り、現実として相応しくない。しかし同様に、「IFが高い海外ジャーナルへの論文掲載のみが優秀な論文の証左」とするのは、日本の学術を守る立場に立たれる方のお考えとしてはどのような判断のもとにあってのことだったのだろうか。それは、「研究費補助に関する評価指針を決定してきたのが実際には研究者であるとするなら、それは研究者自身が自ら招いた結果である」と申しあげたい。学会出版者として、地道な努力を続けている立場からすれば、いたたまれない気持ちであることはここに明記しておきたい。

ここでは、研究評価の中で日本のジャーナルが常に低くみられた結果、日本のジャーナルの活性力が損なわれているという事実を踏まえ、IFに依拠した研究評価システムの一例を示しながら、あらためてIFとは何かを考える。その上で、学会側はIFの数値に一喜一憂するだけではなく、Journal Citation Report(以下JCR)3)をはじめとする、その他有効なデータベースなど用いて、自らのジャーナルとは何かを多面的に考え、今後の評価システムの検討に役立つ方向性を学会から提示できるように、考えてみることにしたい。ただし、評価という点においてのみ述べれば、大きな潮流としては、時代はデジタル化によって「個別論文評価」へ向かう可能性も否定できない。

● IFに基づいた研究評価例

はじめに、実際の記事などを通して、日本の学術評価の在り方を考える。実例はWebサイトに掲載された文書であるが、機関、所属等、特定できる名称はすべて削除してある。


例1:
最短で大学院を何年で終了できるか。という問いに対して「優れた成績をあげた者」としており、その優れた成績をあげた者はどういった者を指すかという回答。回答者は実際に最短で大学院を終えた者とされる。
1.
主論文の掲載誌のImpact Factorが5点以上、あるいは各研究領域別Impact Factorランキングで上位5誌以内(ただし、Impact Factor1点以上)の場合。
2.
主論文内容が日本学会の分科会または国際学会で発表され、その学会の定めた賞を受賞するなど、内容が著しく優れていると認められ、参考論文(副論文)がreferee制度の確立されている主要国際誌に掲載された場合。
3.
主論文および参考論文(副論文)の掲載誌のImpact Factorの合計が10点以上の場合。

ここで使われるImpact Factorの合計の意味を筆者は理解できない。しかしながら、どうも「IFの合計」は、我が国では当たり前に使われ、また、研究者に要求されてきた場合もある。


例2:
研究機関におけるプロジェクトの公募記事
1.
若手区分では40歳未満の研究代表者を対象とする。また、「優秀論文」区分では、業績評価の合計点数に関わりなく、20xx年1月1日から20xx年12月31日の期間において発表された優秀な論文(Impact Factorの高い論文)を有する研究代表者を対象とする。
2.
論文の数、掲載雑誌のランク、Impact Factor、および著者の貢献度(著者順位あるいはCorresponding Author)を考慮して下記の方式で業績を評価する。

1).
掲載された雑誌を別表に基づいて4段階に点数化し、これをAとする。
2).
Impact FactorをBとする。
3).
A+Bを論文の点数とする。
4).
論文に対する(著者順位あるいはCorresponding Author)を別表に示した基準に基づいて係数化し、これをCとする。
5).
論文の評価(A+B)に著者の貢献度(C)を乗じて得たD=[(A+B)×C]を当該論文の点数とする。

上記に基づき、該当論文の点数を合計し、申請プロジェクト代表者の研究業績評価とする

この公募においては、できるだけ高くランク付けされた雑誌(ここではその別表はなかった)に掲載されること、その雑誌のIFはできるだけ高いことがDという点数を押し上げる基礎的数値となっている。

● IFとは何か

文部科学省は、平成17年9月8日に「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針の改定について」として、以下のような文章をWebサイトへの掲示はもちろん、学会等関連機関に送付した。

「インパクトファクターは、特定の研究分野における雑誌の影響度を測る指針として利用されるものであり、掲載論文の質を示す指標ではないことを認識して、その利用については十分な注意を払うことが不可欠である。」4)

だが、IFの誤認はなぜか止まらない。一方で、図書館は、IFを「増え続ける学術雑誌の中から重要な雑誌を選択するため」の指標として捉えている。5)学術評価にかかわる我が国の複雑な状況は別におくとしても、諸外国においても、IFは研究評価に多大な影響を与え続けているのも事実だ。そして、研究者の多くがその問題にすでに気が付いている6)。研究者がこのシンプル極まりない指標の意味を理解できないはずはない。

さて、日本において、IFが研究評価に関わるようになったのはいつ頃からか正確にはわからない。ジャーナル出版助成に関しては、かつては文部省、現在は日本学術振興会が管轄する「科学研究費補助金(研究成果公開促進費)学術定期刊行物」の申請調書は平成8年より、申請の際にIFを記入することとなった。この申請書はジャーナル出版補助をするかしないかを決定するためのものであるので、ここでのIFの使い方には間違いはない。また調書の中には、そのジャーナルがJCRのデータの中で、ある年にそのジャーナルが現在までに出版した論文全体から、何編論文が引用されているかを記入する欄がある。しかしながら、これはこの調書だけに限らないことであるがIFの数字だけを記入したり、公表したりするのではなく、新聞社等々も含め、IF関連の記事等を書く場合は、IFとともに、そのジャーナルが発信した「当該年の論文数」を併記するようお願いをしたい。その折には、IFは二年間という限られた期間での論文数を基にして算出する数値であるのだから、たとえば2009年のIFなら、2007年、2008年にそのジャーナルが出版した論文数をそれぞれ記載すべきである。

IFの計算式を考えれば、数を多く抱えることは、「引用されない論文」を抱えるリスクを背負うことになる、と筆者は考えている。これだけ、IFの理解が進んだ今となっては、「より引用されやすい論文の選択」「できるだけ少ない論文掲載によるIFの上昇の画策」など少し考えれば、ジャーナルのIFを上げる工作はないとは言えない。しかし、学会はIFだけを上げるためにジャーナル出版をしているのではない。学会は、その分野にとって、有益であると考え、そのジャーナルに相応しい論文を受理し、その学問領域の進展のため出版を行っているのだ。

ここで、掲載論文数がIF計算において持つ意味を説明させていただきたい。

たとえば、JCR2005におけるZoology分野ではWILD-LIFE MONOGRAPHSがIF5.286でトップであったが、2004年3件、2003年4件という掲載論文数となっている。もちろんこの7件が実際37件引用されているからこそこのIFが出たことは事実ではある。しかし、その分野における当該年度に出版された論文の中で、どれほどの数の論文をそのジャーナルが「責任を持って出版しているか」という観点に目を転じてみよう。

Zoological Science

右は社団法人日本動物学会の出版するZoological ScienceのJCR2005におけるIF、Total Cites、そして、JCRが動物学分野に選んだジャーナルの2004年の総論文数に占めるZoological Scienceの論文数の割合を算出してみた結果である。

学会は出版する論文に対し、その品質保障を行う責任がある。そこでは人的、物的、資金的支援をかけて学会が論文出版を行い、その分野を支え、進展させるというサイクルがある。ここでこの例を出したのはIFが高いジャーナルはもちろん良いジャーナルではあるが、実際には、ジャーナルの品質には多面性があることを理解することが、IFを正しく理解することにつながるからである。学会は自らのジャーナルを、他者から示された、一見、客観的数値としてあるIFをそのまま、受け入れてはいないだろうか。その数値には意味があり、その理解は必要である。しかしながら、学会ジャーナル刊行の責任を負うものは、他者に対して、「自らのジャーナルはこういったジャーナルである」ことを説明しなければならないのではないか。なぜなら、そのジャーナルを一番理解しているのは、出版学会以外にはないはずだからである。日本の学会はJCRをはじめ、いくつかのデータベースを利用すべきであリ、その結果をもって、ジャーナルのさらなる進展を検討するような努力を重ねたいものだと考える。

IFについては、数値を算出しているThomson Reuterは幾度となく、多くの場面で「IFはジャーナルのパフォーマンスを示すもので掲載された論文の質を示すものではない」と説明をしている。実際、IFの考案者である、Dr.ユージン・ガーフィールドも同様に述べている。7) IFのシンプルな計算式を以下に示す。同時に次の点にもご留意頂きたい。

  • かつてのISI、現在のThomson Reuterは企業であり、国から委託を受けて、IF等を算出しているのではなく、もちろん、それ自体が公的な機関ではない。
  • IFは、ジャーナルに掲載された個々の論文の質を示さない。
  • 論文を引用したジャーナルとしてカウントされる対象は、Thomson Reuterが選んだジャーナルである。世界で出版されるジャーナルがすべて、IF算出のためにWeb of Science(以下 WoS)登載されるのではない。もちろん、ジャーナルが新たに刊行されたことで、IFが付くということもない。IFはWoSに登載されたジャーナル間での、引用、非引用によって、算出される。

●2009年IF算出方法

図1: Thomson Reuter が選んだジャーナル概念図
図1: Thomson Reuter が選んだジャーナル概念図

(2010年6月に公開)

  1. Thomson Reuterが選んだ約10,500誌のジャーナルが、2007から2008年にあるジャーナル(10,500誌の1誌)の論文を何回引用したか、その引用回数(論文の数ではない)
  2. 2007から2008年にあるジャーナルに出版された「引用される可能性がある、原著論文、総説、研究記録などの総数。論文、総説だけではない。

   A÷B=2009年 IF


IFは常に前年の数値となる。IFの計算式は、ガーフィールド博士によって考案された時から何も変わっていない。今、ここで書いた内容が新たな知見でもない。ただ、

図2:1回以上引用されたことのある論文の割合(Endocrinology 誌、Nature 誌、Zoological Science 誌)
     トムソンサイエンティフィック社Journal Performance Indicatorsデータベース1981-2004年版による、
     生物科学ニュース(動物学会版)より トムソンサイエンテイフィック(現トムソンロイター)
     シニアアナリスト 宮入暢子氏作成

図2:1回以上引用されたことのある論文の割合(Endocrinology 誌、Nature 誌、Zoological Science 誌)

明らかなことは、図書館関係者以外の、使う側の多くがIFへの真の理解を獲得していないということである。

IFは個々の論文の質は計らないが、ある限定した期間のジャーナルのパフォーマンスを景観できる。また、JCRに蓄積されたデータを用いて、そのジャーナルの持つ様々な動きに関して、切り口を見せることは可能であるし、ジャーナル編集方針などを検討する場合には有益である。事実、IFは、JCRが示すいくつかの指標のひとつに過ぎない。以下は、Thomson ReuterのHP上にある、JCR on the Webの製品説明である。

  • Impact Factor: 特定の1年間において、ある特定雑誌に掲載された論文が平均的にどれくらい頻繁に引用されているかを示す尺度、雑誌の影響度を表す。同分野の他の雑誌と、その重要度を相対的に比較することが可能。
  • Immediacy index: ある特定雑誌においてその年に掲載された論文が、いかに多く同年中に引用されているかを示す指数。先端分野の雑誌の比較に有用。
  • Articles counts: 特定の1年間における原著論文および総説論文の数。
  • Cited half-life: 引用された雑誌がその年に受けた総被引用回数を年度別に遡って、その累積百分比が50%にあたる年にいたるまでを算出。図書館にとっては、蔵書構築、保存年数を決定する際の判断資料に、出版社にとっては、他分野の競合雑誌との比較、編集方針の見直しに利用可。
  • Source data: どの雑誌が総説論文または原著論文を多く出版しているか、その原著・総説の割合、およびそれぞれいくつ論文を引用しているか等の情報を提供。

グラフ(図2)は、日本植物学会、日本動物学会が連携して出版していた生物科学ニュースに掲載された、トムソンロイター宮入暢子氏の記事からの引用図である。8)

グラフは1回以上引用されたことのある論文の割合(Endocrinology誌、Nature誌、Zoological Science誌)を示している。

このグラフから理解できることは、Zoological Scienceは、急速にではないが、ひとつずつ上へ這い上がっているという状況が見てとれることである。また同時に、Natureにも1度も引用されない論文もあるという事実である。Natureへの採択だけをもって、評価を与えることは、Natureという雑誌の地位から考えれば、ひとつの評価としては意味がある。だが、それだけに依拠した評価には無理がある。

さて、近年、学術評価の新しいシステムへの模索が続いている。有効なシステムが構築された時に、日本の学術誌は、新たな活路を見出だしたい。学会出版者としては、IFはひとつの指標としては影響力を持ち続けるだろうが、逆にIFだけに頼る時代は終わることも意識しなければならない。時代は電子ジャーナルへと動いた。冊子はもちろん、分野によっては残存するであろうし、それが消滅することはないだろう。しかし、研究者が研究活動の現場で活用するのは電子ジャーナルとなり、その意味での冊子は、時代、世代が推移することで終わることになる。また、アクセスログにより、個々のジャーナル、個々の論文のパフォーマンスを計ることができる可能性を秘めた時代は始まっている。日本の学会の多くは、新しい動きに柔軟に対応したり、先手を打つようなことは、資金力という点において難しい。デジタルデータは、我々の想像を超えて、科学技術の圧倒的な力で、さらに扱い辛くなってきている。より研究者に届けやすいあり方、魅惑的な論文公開の方法といった冊子時代にはない「方策」がIFに影響を与える時代は来るのか。

さて、新しい評価システムとしてのプロジェクト、または評価、検索のための新しい商品として立ち上がっているものを列挙し、Webサイトを記載する。多くの方がすでにご承知の内容であると思うが、幾度も同じ内容を繰り返すことが情報を共有する最大の手段であるため、お許し頂きたい。また、Webサイトで検索をかけると新しい評価を求めるさまざまな活動も始まっているが、私は、そのプロジェクトに関わる方と実際に会い、話を聞き、内容をよく理解できたものだけをここに取上げることにした。学術情報流通に関わるものとしては、評価が多様であること、指標が何本かあることが望ましい。人間の評価を数値化することが危険なように、学術評価は難しいものだという、よく認知されている場所へ立ち戻って、我が国の学術評価の在り方を再検討していただきたい。その場合は、冒頭の学術会議対外報告の指摘する、日本の学術誌出版の問題を踏まえるべきである。

●新しい評価への模索

1. Usage Factor

http://www.uksg.org/usagefactors/final

電子ジャーナル時代に入り、アクセスにより、各論文のパフォーマンスを計ることは技術的に可能となった。プラットフォームの規模やシステムの質の高さ等々で、アクセス数やそれにつながるダウンロード数は影響を受けることになるため、評価システムとして有効かどうか慎重な検討が行われている。同時に意図的なダウンロードの排除という問題も絡む。ここでも、分野間による論文の使われ方の問題は残り、研究者の母集団が多いほど、またその時代に隆盛を極める分野が高いUsage数を獲得することも理解しておきたい。9)

2. Scopus

http://japan.elsevier.com/scopussupport/

これは非営利活動ではなく、Elsevierにより開発されたデータベースである。
WoSとの違いは、収録するジャーナルの範囲を広くもつこと、研究者個人の研究活動を示すことができるH-indexを持つ。10)

3.Eigenfactor

http://www.eigenfactor.org/

WoSを基礎データに、新しい研究評価を求めて、始まったワシントン大学大学院生を中心とする非営利な活動。研究室のサポートを受けながら研究を行っていたが、2009年のWoSよりThomson Reuterは、Eigenfactorの導入を開始した。ジャーナルの影響度を測るEigenFactorと個々の論文の影響力を測るArticle Influence等の数値をフリーソースを使って、瞬時に視覚的に、そして数値としても見ることができる。11)

4.IFの偏差値

表1:日本誌のIDV 
   根岸正光「業績評価に向けた正規化インパクト・ファクター,
    "IDV : Impact Deviation Value”(インパクト・ファクター偏差値)の提案」より

表1:日本誌のIDV

業績評価を行う際に、前年発表論文をどう評価するかという場合、IFは有効であるとする今までにはないアプローチから、同時に分野間の格差等を埋めるために、IFを偏差値化して、分野間の格差を埋めようとする果敢な試み。Eigenfactorよりはるかに単純な計算式であることと、その結果、日本の学術誌の上位に変動が起きる、ところなど興味深い。IFは分野間格差をどう埋めるかが大きな課題としてある。生物学分野だけでも、発生生物学と分類学ジャーナルでは、そのIFを比較するようなことはできない。結果は偏差値50.0を超えている日本のジャーナルは19誌という厳しい状況である。(表112)参照)

IFはシンプルな概念により成り立つが、しかし、それを最初に考案したガーフィールド博士のアイデアは、卓越したものである。だが、シンプルなゆえに、またそのネーミングの素晴らしさにより、我が国のみならず誤認を生んできている。日本の学術誌および学術出版は、わが国の研究評価という側面で、ジャーナル出版の歴史という背景や長く研究者に支持されてきている海外ジャーナルとの競争を抱えながら、IFの誤認に端を発した難しい問題を抱えていることが大きな特徴のひとつと言える。

次回へ続く


※ 参考文献・資料
1):
例えばWare Mark “The STM report An overview of scientific and scholarly journal publishing” STM, 2009, 09.
http://www.stm-assoc.org/2009_10_13_MWC_STM_Report.pdf (accessed 2010-07-10)
2):
科学者委員会学協会の機能強化方策検討等分科会「対外報告 学協会の機能強化のために」日本学術会議, 2007,06,28.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t39-g.pdf (accessed 2010-07-10)
3):
Journal Citation Report
Thomson Reuter(前ISI)が提供する引用データをもとに作成された年間統計データベース。文献データベースであるWeb of Scienceの引用情報をもとにしている。6つの指標を持っているが、IFはそのひとつ。指標は雑誌の重要度、影響度を表す。
4):
2005年9月に学協会に配布された文書とは、表現は異なるが、以下を参照
「文部科学省における研究および開発における評価指針」(改定案)p.15
http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2005/05072101/001.htm (accessed 2010-07-24)
5):
例えば、岩手医科大学図書館Impact Factorの活用法, 2005.8号
http://www.lib.iwate-med.ac.jp/mm/mm8.pdf (accessed 2010-07-15)
6):
The PLoS Medicine Editors, “Impact Factor Game” Plos. Medicine, 2006. Vol.6, No.3The PLoS Medicine Editors, “Impact Factor Game” Plos. Medicine, 2006. Vol.6, No.3
http://www.plosmedicine.org/article/info:doi/10.1371%2Fjournal.pmed.0030291
Seglen, PO, “Why the Impact Factor of Journals should not be used for evaluating research” British Medical Journal, 1997, Vol.314, p.417
http://www.bmj.com/cgi/content/extract/314/7079/497?RESULTFORMAT=1&hits=10&FIRSTINDEX=0&AUTHOR1=seglen&SEARCHID=1078616
7):
Garfield, Eugene, “The History and Meaning of the Journal Impact Factor” the Journal of the American Medical Association, 2006,01,04, Vol.295, No.1, p.90-93.
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/295/1/90 (accessed 2010-07-20)
8):
宮入暢子「インパクトファクター偏重からの脱却」生物科学ニュースZ版, 2005,11
http://wwwsoc.nii.ac.jp/zsj/news/znews200511/zn200511.html (accessed 2010-07-24)
9):
Usage Factors Study- Final Report, 2007,05
http://www.uksg.org/sites/uksg.org/files/FinalReportUsageFactorProject.pdf(accessed 2010-07-17)
10):
2010年から新しい雑誌評価指標を出している。以下のWebサイトを参照。
http://info.scopus.com/journalmetrics/?url=journalmetrics (accessed 2010-08-09)
11):
Thomson Scientificは2008年より、Eigenfactorを導入した。以下はその導入理由である。
【 Eigenfactor(TM) Metricsの導入 】
Eigenfactorは、JCRの引用学術データを利用し、ジャーナルの評価や引用による影響力を示す指標です。インパクトファクターと並び、ジャーナルの信頼性を評価する手法で、ワシントン大学准教授のカール・ベルグストローム(Carl Bergstrom)氏らにより提唱されています。
★導入の理由
競争の激しい学術文献の出版市場において、多くの出版者は正確で信頼できる指標をJCRに求めています。今回の、ワシントン大学の協力によるEigenfactor(TM) Metricsの導入で、JCRは新たな信頼性の高い指標を提供することができるようになります。
【 5年インパクトファクターの追加 】
従来のインパクトファクターは、2年間の論文データを基に計算されます。これに加え、より長期スパンでの評価を得られるよう、新たに5年分の論文数値で計算されたインパクトファクターを追加しています。
【 自誌引用値の明確化 】 自誌引用の数値が追加されます。
【 インパクトファクターの画像表示(ボックスプロット)】 異なるカテゴリーに雑誌がどのようにランキングしているかをグラフで分析します。
【 ランクイン・カテゴリーテーブル 】
学際的分野をカバーしたランクイン・カテゴリーテーブルにより、あるジャーナルが複数のカテゴリーのジャーナルの中でどのような位置にあるかを一目瞭然に確認できます。
12):
根岸正光.業績評価に向けた正規化インパクト・ファクター,“IDV:Impact Deviation Value”(インパクト・ファクター偏差値)の提案.情報知識学会.2010.誌, Vol.20, No,1, p.141-148.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsik/20/2/141/_pdf/-char/ja/