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デジタルリポジトリ連合国際会議2009開催報告

内島 秀樹(うちじま ひでき/金沢大学情報部))

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● はじめに

去る2009(平成21)年12月3日、4日の2日間にわたりデジタルリポジトリ連合国際会議2009が開催された。デジタルリポジトリ連合国際会議は、英文表記では、Digital Repository Federation International Conference であり、これを縮約してDRFIC2009(ダーフィック2009)と呼んでいる。以下、DRFIC2009の開催概要について報告する。

● デジタルリポジトリ連合について

DRFは、2005(平成17)年に国立情報学研究所(以下NII)によるCSI 委託事業の一つとして、北海道大学、千葉大学、金沢大学の3大学(の附属図書館)によって開始された機関リポジトリ(Institutional Repository、以下IR)の運営者のための連携活動である。連合と銘打っているが、連合組織としての参加規約などはなく、リポジトリ運営のための相互支援を目的として開始された緩やかでボランタリーな活動体である。2010年1月現在、日本国内の87の高等教育機関が趣旨に賛同して、活動への積極的な参加や直接・間接の協力・支援を行っている。

DRFは、多様な情報共有活動を行っており、Wikiやメーリングリストを通したIR 運営やオープンアクセスに関する情報共有、多様な地域での多様な規模のワークショップ開催などが活動の核をなしている。過去のDRFの活動(平成18〜19 年)については、日英両言語で報告が公開されているので参照願いたい。

http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?Digital%20Repository%20Federation(日本語)

http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?Digital%20Repository%20Federation%20%28in%20English%29(英語)

● DRFIC2008 について

DRFは活動の一つとして、デジタルリポジトリ連合国際会議2008(Digital Repository Federation International Conference2008=DRFIC2008)を2008(平成19)年1月に開催した。これが第1回のDRFIC であり、今回のDRFIC 2009は第2回目に当たる。

DRFIC2008は、大阪大学附属図書館、国立情報学研究所、大学図書館近畿イニシアティブ、REFORM研究グループ(研究代表者/土屋千葉大学教授)の共催、文部科学省の後援を受けて、200人前後の内外の大学図書館関係者、出版関係者、研究者などの多様な参加者を集めて、大阪大学医学部銀杏会館で開催された。大学図書館関係の会議としては珍しい英語のみによる'国際' 会議を行った。内容は下記を参照されたい。

http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/DRFIC2008/index_ja.php( DRFIC2008)

● DRFIC2009 の概要

発表者及び座長による集合写真
発表者及び座長による集合写真

DRFIC2009は、アメリカのSPARC、文部科学省、国公私立大学図書館協力委員会、国立大学図書館協会、公立大学協会図書館協議会、私立大学図書館協会の後援を得て、新築なったばかりの東工大蔵前会館を会場として、SPARC Japanとの共同主催、東京工業大学附属図書館との共催で開催された。SPARC Japanは国内学協会誌の国際発信力強化等を目的としたNIIの事業であり、平成22年度からの第3期に向けて、「オープンアクセスの推進」を大方針とし、我が国の特色に見合ったオープンアクセスを学会と図書館が車の両輪となって推進することとしている。

DRFIC2009の企画立案はDRF参加機関のリポジトリ担当の大学図書館職員等から構成された実行委員会が行い、実行委員長は千葉大学の土屋俊教授、副委員長は常磐大学の栗山正光准教授が務めた。また、開催館である東京工業大学附属図書館をはじめとして、首都圏の7大学が地域組織委員会を構成して当日の会場運営を中心的に担った。

全体参加者数は174名で、講演者を含めた外国人参加者数は8名、日本人参加者数166名、参加国数はこれも講演者を含めて8カ国であった。


DRFIC2009は、「オープンアクセスリポジトリの現在と未来―世界とアジアの視点からー」と題して、IRの運営だけでなく広くオープンアクセス運動をも対象として、日本とアジアを世界の視点から見直すとともに世界の動きをアジアの観点から理解する、という双方向の視点を共有することを目的として開催された。

このメインテーマの下、開会と閉会の2つの基調講演、3つのセッション、ポスターセッションから会議は構成された。使用言語はDRFIC2008と同じく英語のみであった。

開会基調講演は、土屋 俊実行委員長が「こんどは何?−出版と図書館を超えて」と題して行った。

セッション1は、「成熟と展望:電子環境下の科学・研究・出版」と題して、土屋俊実行委員長が座長を務めた。講演者CERNのサルバトレ・メレ博士、スペイン国立通信教育大学のアリシア・ロペス・メディナ氏、アメリカ公立大学協会の副会長のディビッド・シュレンバーガー博士の3氏で、すべて招聘者であった。

セッション2は、「アジア太平洋地域における機関リポジトリの現状と展望と題して、竹内 比呂也千葉大文学部教授が座長を務めた。講演者は南クイーンズランド大学のピーター・セフトン氏、台湾中央研究所の林誠謙博士、筆者の3名で、セッション1と同じくすべて招聘者であった。

セッション3は、「多様性への姿勢」と題して、栗山 正光実行副委員長が座長を務めた。講演者はロチェスター大学のスーザン・ギボンズ氏、クランフィールド大学のサイモン・ビーバン氏、香港大学のディビッド・パーマー氏、国内から筑波大学大学院の佐藤 翔氏、小樽商科大学の鈴木 雅子氏、物質・材料研究機構の谷藤 幹子氏の合計6名であった。このうち、ギボンズ氏、ビーバン氏は招聘によるものである。

閉会基調講演は、共同開催者であるSPARC Japanから安達 淳NII学術推進部長が「NIIのCSI事業:その成果と展望」と題して行った。

● 各セッションの概要

1. 開会基調講演

土屋俊実行委員長による基調講演は過去5 年間の日本のIRの歴史に触れて、IRの運営実績と図書館員による活動の拡大という2つの観点から成功であったこと、しかし他の国と同じく研究者の理解は遅々として進んでいないことを指摘し、今後の課題として、リポジトリのインフラ整備のための国際連携の必要性と研究者サイドにおける人文科学の役割の重要性に言及した。

2. セッション1

質疑に答えるセッション1の講演者
発表者及び座長による集合写真 

サルバトレ・メレ氏は、「高エネルギー物理学における学術情報流通のイノベーションとオープンアクセス」と題して発表を行った。

メレ氏の講演は高エネルギー物理学におけるオープンアクセスを、伝統、ツール、利便性、出版の4つの観点から要約する。伝統とはプレプリント文化を指し、嚆矢としてスタンフォード大学のSLAC図書館によるプレプリントリスト、最初の電子化目録であるSPIRESが例示される。ツールとはarXiv.orgである。オープンアクセスの利便性はプレプリントサーバによる引用度の飛躍的な向上を指す。特徴的なのは、引用のピークが論文としての出版前に来ていることで、2年間という期間における引用の20%が出版前に起きていることが指摘された。出版に関しては、高エネルギー物理学分野のイニシャチブであるSCOAP3が紹介された。主要国のコンソーシアムや研究助成団体がSCOAP3に参加を表明しており、日本の図書館コミュニティも重要なステークホルダーであることに言及された。

アリシア・ロペス・メディナ氏は、「データ中心科学のためのデータリポジトリ・インフラ」をテーマに発表を行った。メディナ氏は、デジタルリポジトリの役割は変わりつつあるとして、これまでのドキュメント中心のIRから、データ中心のIRへと変化することが必要と指摘する。データ中心のIRは、グリッドなどのネットワークを基盤として科学情報の共有と科学者によるバーチャルコミュニティの形成のためのインフラとなる。ヨーロッパにおいては、EC第7次科学技術基本計画の助成により、D4SCIENCEなどのE-Science実現のための複数プロジェクトが進行しており、IRはそのための手段となる。また、IRが情報ネットワークの1ユニットとしてバーチャルナコミュニティに組み込まれて相互利用されることを前提とすると、IRのコミュニティにとって、恒久識別子、オブジェクト同士のセマンテックや相互運用性(OAI-ORE)などが今後の課題となる。最後に10月に設立されたオープンアクセスリポジトリ連合(COAR)が紹介された。

ディビッド・シュレンバーガー氏は、「研究成果の展開・普及のために不可欠なリポジトリの役割」をテーマに発表を行った。シュレンバーガー氏は、1990年代に自ら提案したNEARという研究成果を網羅するリポジトリを回顧し、その機能を実現したのがNIHやウェルカムトラストなどの政府機関や助成機関(による政策)だったと指摘した。しかし、そうしたリポジトリは生医学など一部の主題をカバーするだけなので、IRによって機関の研究成果の包括的な義務化を行うことが望まれる。アメリカではハーバードやMITなどが義務化を実施しており、他大学や学術雑誌への影響は大きい。また、オープンアクセスより、公開までのエンバーゴを認めるパブリックアクセスの方が、学術出版社が任務とする査読機能との共存が可能であることに注意すべきである。大学で行われている研究は大学外の納税者からは見えにくく、これが義務化によってすべて公開されることは視認性を高める大きなメリットを有する。最後に、アジア、日本も含めて世界の研究大学が研究成果のセルフアーカイブ(投稿)を義務化していくことが今後望まれると結論づけた。

3. セッション2

ピーター・セフトン氏は、「アジア・オセアニア地域における協力への提案:国内協力活動・標準化の評価から」と題して発表を行った。オーストラリアでは、政府の援助及び政府助成金によるARROWなどのプロジェクトがオーストラリアのリポジトリを支援してきた結果、IRは39の全大学に設置されている。オーストラリアにおけるIRの目的は、オープンアクセス、研究成果の政府への報告義務、研究成果のショウケース、デジタルコンテンツの保存などである。また、セフトン氏から、オーストラリアにおけるこれまでの経験を踏まえて、データのマイグレーション、政府による支援、 IRのソフトウエアを超えた協力、コミュニティのためのフォーラム、多様なメタデータスキーマが処理可能なソフトウエアの必要性などについて提案が行われた。

林 誠謙氏は、「台湾における機関リポジトリのこれから」と題して発表を行った。

林氏は、デジタルアーカイブ、リポジトリ、e-Infrastructure、コンテンツマネジメントシステム(CMS)の複数の観点から、台湾の状況を概観した。台湾では、TELDAP(Taiwane-Learning and Digital Archives Program)というプロジェクトが、NDAP(National Digital Archive Program)とELNP(e-Learning National Program)の2つから構成され、6年間にわたり実施された。6年間で5億USドルを投入して、幅広い主題のコンテンツを網羅してデジタル化し、現在200万件以上のフルテキストが公開されている。電子ジャーナルに関しても、SDOSプロジェクトが1995年からエルゼビアの電子ジャーナルのミラーサイトを運用しており、台湾国内の大学図書館のため、2330ジャーナルの3,954,761論文のダークアーカイブをホストしている。

IRに関しては、台湾教育省からの資金提供をうけ、2006年からプロジェクトが開始された。現在95の大学図書館が連携して、改良したDspaceを利用している。

e-Infrastructureに関しては、歴史的に見れば科学のパラダイムは実験科学から理論科学、コンピューターサイエンスへと進化しており、現在はデータ中心のe-Scienceが新たな科学研究のパラダイムとなっている。現在、台湾やアジア・オセアニア地域において運用可能なe-Scienceの基盤として、グリッド・ネットワークであるTWGrid、EUAsiaGridなどが稼働している。

筆者(内島)は、「DRFイニシャチブの前後」と題して発表を行った。NIIによるCSI事業は領域1・2の2つに分けて実施されており、領域1による個別機関でのIR運用と領域2による開発プロジェクト群が相互に緩やかな支援環境を作り上げて、IRの人的・システム的ネットワークを作り上げていることを指摘した。

4. 第3 セッション

質問に答えるスーザン・ギボンズ氏
質問に答えるスーザン・ギボンズ氏 

スーザン・ギボンズ氏は、「文献提供者を理解し、よりよいリポジトリをデザインする」と題して発表した。ギボンズ氏は、所属するロチェスター大学で、DSpaceへの付加機能として開発された著名な研究者ページの考案に至った過程について報告した。ロチェスター大学では、研究者を人類学的手法によって調査し、研究者のニーズを把握した。このニーズを踏まえて開発されたのが研究者ページである。これは、研究者が論文の著者として必要な文書作成・保存の諸機能をカスタマイズしたものである。ロチェスター大学では、研究者ページの機能をさらに強化して、IR+と呼ばれるオープンソースを開発している。

サイモン・ビーバン氏は「アドボカシー、コンテンツ獲得、そして研究プロセスにおけるリポジトリ」と題して発表した。クランフィールド大学では、2003(平成14)年にDSpaceをプラットフォームとして、IRを立ち上げたが、登録率は伸びず、セルフアーカイブに対する理解(up-take)も進捗しなかった。そこで、JISCの助成に応募して研究者の行動の文化的変容をテーマとするEmbedプロジェクトを開始した。プロジェクトでは、トップダウンとボトムアップの両方の広報戦略を採用するとともに図書館員の積極的な活動によりコミュニティ形成を行った。このプロジェクトにより、登録率は2007年以降大幅に上昇している。イギリスでは、研究評価フレームワーク(RAF)が実施されることになっており、そのため、クランフィールドではIRも研究者情報システムの中に組み込まれる予定である。

佐藤 翔氏は、「機関リポジトリにおけるワーキングペーパーの利用にRePEcが与える影響」と題して講演した。佐藤氏は一橋大学とアジア経済研究所の2つのIRと経済学の主題リポジトリであるRePEcに登録されたワーキングペーパーのダウンロードを分析した。佐藤氏の分析では、2つのIRとRePEcに登録されたワーキングペーパーを比較するとIRのコンテンツはRePEcに登録された直後から高いダウンロード率を示しており、経済学分野の研究者にとって主題リポジトリのインパクトは大きいことを実証している。

小樽商科大学の鈴木 雅子氏は、「IRとILLDDを交差させる」と題して発表した。NACSIS-ILLによる複写数のトップは最近3年間のログによると大きな変動はない。また、内容的には看護学等の日本語文献が多いが、これらはインターネット上で利用できないものが多く、論文に対する複写ニーズを論文の執筆者に報知して、リポジトリへのセルフアーカイブのモチーフにすることが重要であると指摘した。

谷藤 幹子氏は「NIMSeSciDocにおけるe-Science展開」と題して講演した。物資材料研究機構では、IRプラットフォームであるeScieDoc上のFACESと呼ばれるシステムや、Fedoraとの連携により、画像データの保存などe-Scienceへの対応を進めている。

香港大学のディビッド・パーマー氏は、「研究者ページ:機関の方針に対する研究者の賛同」と題して、香港大学が所属研究者に参加を義務付けている知識交換の実施のためにIRに導入した研究者ページを紹介した。研究者ページは、Scopusなど書誌データベースの引用回数をインポートする機能などを実装している。

5. ポスターセッション

ポスターセッション(NIMS)
ポスターセッション(NIMS) 

ポスターセッション(ShaRe)
ポスターセッション(ShaRe

安達教授の講演風景
安達教授の講演風景 

大学から14 、研究機関から3 の合計で17 のエントリーがあった。展示されたポスターは下記のURLで公開しているので参照願いたい。全講演が終了後、優秀なポスターに対する表彰が行われ、最優秀ポスターには千葉大及び筑波大の佐藤氏が選出された。

6. 閉会基調講演

SPARC Japan(国立情報学研究所)から、安達 淳 教授が「NIIのCSI事業:その成果と展望」と題して講演した。日本のIRがCSI事業により急激に成長し、地域共同リポジトリによる参加数を含めると154機関がリポジトリを運営していること、CiNii、JAIRO、NII-ELS、J-STAGE、IR、KAKEN等のデータベースによりナショナルな情報流通環境が形成されつつあることを指摘し、さらに今後の課題として我が国におけるIRを持つ機関数の増加の必要性、公的助成資金による研究成果投稿の義務化の可能性などについて言及した。

会議資料は先を参照:

http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?DRFIC2009#qcdfdd88



最後に、DRFIC2009 の運営を担った地域組織委員会及び東京工業大学附属図書館の皆さん、そして財政支援を頂いた国立情報学研究所及びSPARC に対して、実
行委員会を代表してお礼申し上げる。

(2010 年1 月22 日)