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オープンアクセス再考-なぜオープンアクセスジャーナルを選んだのか。

斎藤 未夏(さいとう みか/筑波大学附属図書館)
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● はじめに
 SCPJ(Society Copyright Policies in Japan)*¹は、正式名称を「オープンアクセスとセルフ・アーカイビングに関する著作権マネジメント・プロジェクト」といい、機関リポジトリのコンテンツ拡充に貢献することを目的として、国内学協会等を対象としたオープンアクセス方針(以下、OA方針)に関するアンケート調査を実施し、その調査結果に基づいた「学協会著作権ポリシーデータベース」(以下、SCPJデータベース)を作成・公開するプロジェクトである。2006年7月に、国立情報学研究所(以下、NII)の委託事業として筑波大学・千葉大学・神戸大学の3大学により発足し、2008年度からは東京工業大学が加わり、現在4大学で活動を続けている。
 この活動は当初、国立大学図書館協会の学術情報委員会の小委員会であるデジタルコンテンツ・プロジェクトが2005年度に実施した、学協会に対する調査*²(以下、DCP調査)を継承するものとして開始された。しかしながら発足から3年が経過した今、その活動の方向性を再考すべき時期が来ているように思う。本稿では、SCPJデータベースにおけるデータの推移から示唆される学協会のOA方針の動向と、これまでのSCPJプロジェクトの取組みとを照らし合わせて述べた上で、同プロジェクトの抱える課題と展望について考察する。


表1:学協会OA 方針の分類
表1
● SCPJデータベースの概要と特徴
 学術雑誌に掲載された論文は、多くの場合その著作権が著者から雑誌の発行元(出版社や学協会)に譲渡されているため、著者自身のWebサイトや機関リポジトリなどから公開するには、発行元の方針を確認する必要がある。わが国における機関リポジトリの構築の機運が、NIIの後押しにより急速に高まりつつあった2005年当時、発行元の方針を簡単に調べることができるようにしたデータベースとしてはすでに、英国ノッティンガム大学の運営するSHERPA/RoMEO*³が公開されていた。しかし、そこに収録されている方針の大半は欧米出版社のものであり、我が国で発行された学術雑誌については、その発行元である各学協会の方針を、論文を公開したいと考えた人が個別に調べなければならない状況であった。そこでSCPJプロジェクトでは、2006年の発足と同時に、学協会の方針が調べられるデータベースの構築を開始した。初期データとしては前述のDCP調査により得られた各学協会からの回答を活用し、さらに未回答の学協会に対して追加実施した調査データを加え、2007年3月にSCPJデータベースとして正式公開した。
 各学協会のOA方針は、学協会名からも学術雑誌の誌名からも検索することができる。また、SHERPA/RoMEOを参考に、表1に示す5つの色によってOA方針を分類しているので、その学協会の方針を簡単に判別することができる。
 検索結果にはこの色分類に加えて、出版社版の利用の可否(出版された形態での論文をそのまま使用してよいかどうか)、公開場所(著者個人のWebサイト、機関リポジトリ、研究資金助成機関のWebサイト、非営利電子論文アーカイブ等)、公開条件(刊行後1年経過後に公開すること、事前に照会を行うこと、出典表示を行うこと等)などの情報が項目別に表示される。また、各学協会に特有の公開条件などについても、当該学協会の希望に沿った表現で「備考」に示される。
 SCPJデータベースの特徴は2つある。第一に、国内のほぼ全ての学協会に対する網羅的な調査に基づいているという点である。前身であるDCP調査が対象とした、「学会名鑑2004~2006年版」*⁴に掲載された1,730学協会をベースにして、2006~2007年度にはDCP調査で未回答・検討中だった学協会約1,600に再度調査を行うとともに、「学会名鑑2007~2009年版」*⁵に新たに掲載された30余りの学協会について調査を実施した。また2008年度には、約1,800の学協会WebサイトにアクセスしてOA方針の掲載の有無を調査し、OA方針を明らかにしていることが新たに確認された124学協会に対してメール等でSCPJデータベースへの方針の掲載を依頼するとともに、大学等の機関リポジトリ担当者等からのSCPJデータベースへの方針掲載の要望が高い学協会260に調査を実施した。その後も、機関リポジトリ担当者等から寄せられる情報や要望に基づいて対象を広げながら、継続的な調査を行っている。
 SCPJデータベースの第二の特徴は、「OA方針を決めていない」との学協会の回答や未回答の学協会の態度を1つの「方針」と見なして、検索されるようにしている点である。この分類が表1で示した5つの色のうちの「Gray」であり、SHERPA/RoMEOにはない独自の色である。DCP調査では、調査票を送付した1,730学協会のうち半数近くから回答を得られたが、その回答の実に75%が「OA方針を決めていない」「検討中」というものだった。この調査結果を生かすべく「Gray」という色を設定し、加えて2007年11月には未回答の学協会も「Gray」と位置づけたことで、2009年10月現在1,836の学協会のOA方針を検索できるデータベースとなっている。
 最近1年間(2008年10月~2009年9月)のSCPJデータベースのアクセスログを分析したところ、1か月平均28,000件の安定したアクセス数を保っていることが確認された。そのうち検索エンジンからのものを除くと、最も多いのは約2割を占める日本国内の大学(ac.jpドメイン)からのアクセスで、研究者から提供されたコンテンツについてOA 方針の確認作業を行う機関リポジトリ担当者からのものと推察される。
 このように、SCPJデータベースは、機関リポジトリのコンテンツ登録作業のうえでは欠かせないツールになりつつあるとともに、我が国の学協会のOA方針の傾向を俯瞰することのできる唯一のツールであると言えよう。

●学協会のOA 方針の動向

図1:日本の学協会のOA方針
図1:日本の学協会のOA方針


図2:OA方針の色分けによる学協会数の推移
図2:OA方針の色分けによる学協会数の推移


図3:欧米出版社と日本の学協会のOA方針の割合の比較
図3:欧米出版社と日本の学協会のOA方針の割合の比較
 2009年10月現在SCPJデータベースに登録されているOA方針について、色別に割合を示したものが図1である。全体の75%にあたる1,379の学協会がGray(OA方針を決めていない・検討中)という状況は、2005年のDCP調査時点となんら変わっていないようにも見える。
 しかし、OAへの対応を明らかにしているGray以外の4つの色(Green、Blue、Yellow、White)の学協会数の合計の推移を見ると、少しずつではあるが順調に増加していることがわかる。なかでもBlue(査読後論文のみ認める)の増加は大きく、この1年間で新たに約50の学協会が、査読後論文の登録を認める旨の方針を明らかにしている(図2参照)。
 これら4つの色のいずれかに分類される日本の学協会457と、SHERPA/RoMEOに掲載されている632の出版社との色別割合を比較したものが図3である。何らかの方法でOAを認めていることを意味するGreen、Blue、Yellowの出版社/学協会を合わせた割合は、欧米では61.0%、日本では65.6%である。この数字については多様な見解があろうが、日本の学協会は欧米出版社と比べても、査読後論文のみ認めるという方針を選択する傾向が強いことは明らかであろう。


●SCPJプロジェクトの課題と展望
 SCPJプロジェクトでは、Grayの学協会を中心とした調査活動を継続する一方で、OAへの対応を検討し方針を明らかにするよう働きかける様々な活動を行っている。
 2008年8月には、学術著作権協会との懇談会を実施して意見交換を行い、継続的に情報共有の場を設けることで一致した。また同年11月に開催された第4回DRF(デジタルリポジトリ連合)ワークショップでは、学術著作権協会、出版関係者など著作権マネジメントに係るステークホルダーをパネリストに迎えて討議し、意見交換・情報共有を行っていくことの重要性を相互に認識することができた。さらに、「学術雑誌電子化関連事業の連携・協力についての合同説明会」に参加した学協会関係者に対し、SCPJ プロジェクトの活動の説明と協力依頼を行った。
 こうした活動が、OA方針を明らかにした学協会の増加に多少なりとも貢献していると見ることもできる。しかし、多くの学協会が依然として方針を表明していない現状を鑑みれば、これまでのアプローチが学協会のOA方針検討を促すことに成功しているとは言い難い。
 今年1月にGrayの学協会260を対象として実施した調査では、OA方針に関する設問に続けて、新たに機関リポジトリやSCPJプロジェクトに関する設問を加えた調査票を送付し、90の学協会から回答を得た。機関リポジトリに関しては、72の学協会(78.2%)が、会合や会員同士のコミュニケーションの中で話題に上ったと答え、そのうちの3割は「総会などの公式な場面で1、2 回話題に上った」としており、機関リポジトリの存在が認知されつつあることがうかがえる。OA 方針については、(SCPJプロジェクトのこれまでの調査では確認できなかったにもかかわらず)33学協会(37.5%)が「すでに決定している」と答える一方、36学協会(40.9%)は「話には出るが、よくわからないのでそのままにしている」「話にも出ないので、何もしていない」と答えている。また、機関リポジトリに論文を掲載することに関して「学会誌が読まれなくなったり売上げが落ちたりするのではないか」(26.6%)、「著作権の範囲を超えて不正に複製・頒布されてしまうのではないか」(20.2%)といったことを危惧する声が聞かれた。さらにSCPJプロジェクトに関しては、実に71学協会(77.2%)が「今回はじめて聞いた」と答えている。
 これらの結果から、SCPJプロジェクトの活動の重点を、方針の表明を呼びかけて公開する「学協会のOA方針の調査・公開」から「学協会のOA方針策定のための支援」へ移すべき時期に来ていることが示唆される。
 OA 方針策定を支援する活動としては、次の2 つの方向性が考えられよう。
 第一に、学協会がOA方針を策定するうえで手掛かりとなり得る情報を提供することである。学協会経営に及ぼす影響や著作権に関する問題など、掲載された論文をオープンアクセスにすることに対して学協会が抱く不安は大きくまた疑問も多い。査読済み論文の機関リポジトリでの公開を可とする方針を表明している学協会に、方針決定までの過程や学会誌売上げへの影響等についてインタビューする、研究分野や会員数の規模毎にOA方針の傾向を分析するなどして、先行事例を紹介していくことなどの方法も考えられる。
 第二に、SCPJプロジェクト及びSCPJデータベースの認知度の向上である。前述の調査結果からも明らかなように、学協会関係者の間でのSCPJの認知度は必ずしも高くない。学協会にとって有益な情報を提供するうえでも、そのプラットフォームとなるSCPJデータベースの存在を少しでも多くの学協会に知ってもらうため、学協会との接点を再設定し、より多くの対話の機会を確保する必要がある。学協会誌毎のより正確なOA 方針を発信するためのページの用意など、SCPJデータベースの機能追加も有効であろう。
 2009年度はSCPJプロジェクトにとって、このような「活動の方向性の転機」の年となりつつあると同時に、NIIの第2期委託事業が終了する「活動体制の転機」の年でもある。学協会のOA方針策定支援の活動を続けながら、残された期間で、長期的な視野のもとに粘り強く継続して活動できる体制のあり方を模索していきたいと考えている。



※ 引用文献
*1: 学協会著作権ポリシーデータベース(http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/scpj/

*2: 国立大学図書館協会学術情報委員会デジタルコンテンツ・プロジェクトの実施した調査の詳細については、下記に詳述されている。
国立大学図書館協会学術情報委員会デジタルコンテンツ・プロジェクト.電子図書館機能の高次化に向けて:2  
― 学術情報デジタル化時代の大学図書館の取り組み―(デジタルコンテンツ・プロジェクト第2 次中間報告書).2006,45p.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/si/systemwg_report.pdf

*3: SHERPA/RoMEO -Publisher copyright policies & self-archiving
http://www.sherpa.ac.uk/romeo/

*4: 日本学術協力財団学会.学会名鑑2004 ~ 2006年版.東京,ビュープロ,2004,1140p

*5: 日本学術協力財団学会.学会名観2007 ~ 2009年版.東京,ビュープロ,2007,1145p.



 

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