SPARC Japan NewsLetter No.16 コンテンツ特集記事トピックス活動報告
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学術出版の今後―科研費変革
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日本学術会議有志から

科学研究費補助金公開促進費(学術定期刊行物)大改革 ―学会はどう対応したか

日本学術会議 科学者委員会 学術誌問題検討分科会:林 和弘(はやし かずひろ)科学技術政策研究所
永井 裕子(ながい ゆうこ)日本動物学会
谷藤 幹子(たにふじ みきこ)物質・材料研究機構

 

本稿は、学術振興会が管轄する科学研究費補助金研究成果公開促進費「学術定期刊行物」(以降、本科研費)が、平成25年度より「国際情報発信強化」と名称を変え、その支援内容も大幅に変更されたことを受け、日本学術会議科学者委員会下の学術誌問題検討分科会が、日本学術会議協力学術研究団体を対象として平成24年12月に実施したアンケート調査の結果を、速報としてお知らせすることを目的としている。ここでは、本科研費申請直後のタイミングで、大幅改訂を学会がどのように受けとめ、どのように対応したかという点に力点を置いて学会の意識を調査している。本科研費の変更内容骨子を図1に示す。これまで実質的に冊子体発行を前提とし、支援項目も限られていた内容を、電子化を含む国際情報発信力強化に対する柔軟な支援に変更している。


旧制度比較
図1: 新旧制度比較
出典:第6期研究費部会(第6回) 配付資料, 資料3, 科学研究費助成事業(研究成果公開促進費)の改善案について(日本学術振興会報告).
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/022/gijiroku/1320285.htm

日本発学術誌を強化するための具体策を、当分科会は2008年に提言書としてまとめている。この度の政府助成金の方針が、この提言を受けた内容となっていることが本調査の一つの動機となっており、また、今春の採択結果も踏まえて今後の国際情報発信強化策を考えていく上での調査でもある。


● アンケート概要

● アンケート基本情報

 

 

アンケート基本情報
図2: アンケート基本情報
 

アンケート基礎情報を図2に示す。設問は、より多くの学会から回答をえることを目標として回答所用時間を約10分と設定し、基本的で重要な設問に絞っている。結果として、比較的高い回答率(45.8%)で、862学会から回答を得た。


● 調査設計

 

 

科研費成果公開促進費に関する意識調査
図3: 調査設計
 

調査対象とする団体を「学会」という言葉で一括りにはできない。その文化や実態は様々である。今回の調査では、支援対象に該当する原著論文誌を中心に、発行するメディア(学会誌もしくは論文誌)を持つ学会を回答群の中心と想定し、アンケート内容を設計した。まず、質問(分岐1)で回答区別を設定した。以降、科研費の改訂を認知していたか(分岐2)、申請を検討したか(分岐3)、実際に申請したか(分岐4)を順に伺い、グループ分けを行うこととした。結果として図3に示すように
・ A 実際に申請した学会
・ B 検討はしたが申請しなかった学会
・ C 改訂を認知していたが、検討しなかった学会
・ D 改訂を知らなかった学会
・ E 原著論文が少ない学会誌のみを発行する学会
のグループに分かれる。その上で、それぞれのグループに個別の質問を行った。なお集計図表は、日本学術会議のホームページでも公開しているので参照されたい。また文末には、本科研費改革に至るまでの関連資料(URL)を記載した。


分岐1-1
図4: 分岐1-1
  分岐1-2
図5: 分岐1-2

分岐1の結果を図4に示す。日本学術会議協力学術研究団体が、原著論文を掲載するメディア(学会誌もしくは論文誌)を発行しているかどうかという、今まであまり語られなかった状況を端的に表す結果となり、この調査では65%が該当した。また、論文誌を発行する学会のうち、これまで科研費の支援を受けたことがないとする学会が75%であった(図5)。


分岐2-1
図6: 分岐2-1
  分岐2-2
図7: 分岐2-2
 

科研費改訂に関する認知度調査が、今回もっとも特徴的な結果であった。科研費支援を受けたことがない学会が多かったことが遠因か、科研費改革を知らなかった学会は、ほぼ同数の73%に上った。また、改訂を認知していた学会に改正の是非を聞いた結果、おおむね賛同を表している結果となった(図6, 7)。


分岐3-1
図8: 分岐3-1
  分岐3-2
図9: 分岐3-2

分岐4
図10: 分岐4
 

分岐3で申請を検討した学会に照会したところ、63%が検討したことが分かった(図8, 9)。また、検討した学会の中で、実際に申請をした学会は73%であった(分岐4、図10)。この数字はこの科研費改正が学会に受け入れられたことを意味するのだろうか。


● カテゴリー別の状況

A. 申請を行った学会

 

 

申請カテゴリ(重複あり)
図11: 申請カテゴリ(重複あり)
  調書の作成に関して
図12: 調書の作成に関して

改定に関する満足度
図13: 改定に関する満足度
 

以上の分岐を経て、実際に申請を行った学会は69学会であり、その内訳を図11に示す。少数ながら複数の申請を行っている学会があることが判明した。申請の調書作りに関して、回答機関の多くが「手間がかかった」と答えている(図12)。平成24年度までの調書様式に比べて、申請項目が大きく変化したことも一因と推測することができる。また、現時点での改訂に関する満足度は中立が多く、満足・不満がほぼ均等に分かれた結果となった(図13)。申請を実際に行った学会について、将来への課題や調書への提案など、できれば調査を深めていきたい点である。


 B. 検討を行ったが申請をしなかった学会

 

 

申請しなかった理由
図14: 申請しなかった理由
  次年度に関して
図15: 次年度に関して

検討をしたが申請しなかった学会について、その理由と来年の感触を尋ねた(図14, 15)。申請しない理由は、それぞれの学会の事情に分かれていることを伺い知ることができる。来年は申請するかについて、「制度の運用次第」という敢えて設定した回答選択肢に関し、前向きに考える学会と、申請する態度をはっきりさせた学会を合わせると過半数を超える結果となった。「制度の運用次第」という表現には多様な意味が含まれるが、今後の調査では、より具体的な設問として設定し、本質的な課題を調査したいと考えている。


C. 改訂は知っていたが検討しなかった学会

 

 

検討しなかった理由
図16: 検討しなかった理由
  次年度に関して
図17: 次年度に関して

科研費の大改正を知っていながら検討しなかった学会にも、その理由と来年の感触を調査した(図16, 17)。自誌が支援の該当に入らないと判断した学会が最も多く、時間的余裕が無かったことが次に続いた。支援対象に該当している学会が該当しないと誤解している可能性がもし存在するならば、その数を少しでも減らすように、制度の枠組み、特に支援対象や意義について、正確な広報を行う必要があると考えられる。


D. 改正を知らなかった学会

 

 

改定を知っていた場合の対応
図18: 改定を知っていた場合の対応
 

改訂を認知していなかった学会には、知っていたら検討していたかを調査した(図18)。結果、過半数が検討し、申請を行った可能性を示した。文部科学省の平成25年度概算要求では、本科研費枠の増強が唱われており、応募数が増加することが望まれている。この潜在的応募学会群に対して、広報活動を行う必要がある。


● 考察

アンケート結果まとめ図19: アンケート結果まとめ

アンケートのグループ分けの結果概要を図19に示す。学会誌が原著論文中心の学術誌である、または原著論文誌を別途発行している学会が65%であった。学会は多様であり、全ての学会が今回の本科研費の申請対象になるわけではないことを改めて確認した。

学会出版を支援する本科研費は今回大きく姿を変えたが、その改訂について学会側は、大旨その趣旨を好意的に捉えている。しかしながら、改訂そのものを知らなかった支援対象学会が70%を越えている状況、および、知らなかった学会の約半数が、知っていた場合には検討の可能性を示唆している結果を踏まえ、より認知度を高める仕組みの検討を要するだろう。

旧来の科学研究費補助金公開促進費(学術定期刊行物)は、近年、競争入札が要件となり(申請額100万円以下は不要)、申請書類、会計処理の報告は複雑となって、申請数そのものも減少傾向にあった。また、競争入札の要件など、例年、見直される毎に申請自体の難度が上がってきたと言っても過言ではないだろう。このような経緯から、以前より申請を取りやめていた学会が一定数存在し、今回の改訂の情報を知る機会を「平成25年も申請をしようとした学会に比べて」逃がした可能性がある。あるいは準備のために必要な情報を早い段階で知ることが難しく、申請に至らなかった可能性がある。

今回の改定は、日本発学術誌の刊行支援という点において、支援のあり方そのものを抜本的に見直したものであり、申請にあたって、申請内容をどのようにまとめるかという点で、学会内での討議や検討に多くの時間を要したことを伺い知ることができる。特筆すべきことは、申請を検討した学会のうち73% が、実際に申請したことである。公式の申請件数が従来よりも増加しているとすれば、この改定の指針は、ひとまずは成功と言えるのではないだろうか。

今回の改定の主眼は、文字通り「国際情報発信強化」である。申請内容も”電子出版時代”に即した補助いう点に刷新された。助成区分も、国際情報発信 A, B と Open Access 出版の3つの分類で強化策を示しており、学問分野の多様性や学会文化などを背景として、現代におけるジャーナルに求められる要求を具現化する支援制度になることが期待される。特に、Open Access スタートアップ支援は、「購読料モデルから、著者が出版費用の全額または一部を負担して無料公開する APC(Article Processing Charge)を中心とした OA モデル」への移行期を、国の補助で支援するという画期的な枠と言える。なお、申請した学会の多くは、申請書記入に際し、手間取ったと回答している。今回の調査では、個々の回答グループに対して深く掘り下げた質問が実施できていないことも併せて、日本学術振興会には、本科研費をさらに活かすために、学術誌刊行に関わる学会や編集委員長(編集主幹)の考えなど、科学者自らが求める国際情報発信強化に対する意見を聴取し、制度改良ならびに実践的な申請手続きに活かして欲しいと思う。また、若干ながら支援を必要としないことを表明している学会もある。学会におけるジャーナル出版として、どのような自立のあり方があるのか等、助成の有無とは別に、日本の学術誌の将来を俯瞰する観点で、引き続き動向を追っていきたいと考えている。

● さいごに

我が国では、「学術誌」は常に一括りにされ、論じられることも多いが、分野間の複雑な事情や相違があること、またそれぞれの歴史や独自の文化、哲学を持つといった不統一な在り方こそが、学術団体そのものである。それぞれの雑誌の置かれた状況の中で「強い雑誌」を、海外の急速に変革する学術情報世界に即して支援する今回の施策改訂は大変有意義なものであることは間違いない。その上で、同時に日本語で書かれる貴重な学術文献を我が国としてどう発信し後世に伝えていくかも、この国にとって重要な命題であると考える。

 

おことわり

本稿は、日本学術会議の当該分科会での議論を背景として、有志委員の見解として述べたものであり、日本学術会議を代表する見解ではないことを申し添える。

 


● 科研費改革関連資料等について

文部科学省
学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について. 2012-07-26.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1324880.htm
科学研究費助成事業(科研費)の在り方について(審議のまとめ その2). 2012-07-25.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1324540.htm
平成25年度文部科学省 概算要求等の発表資料一覧(平成24年9月)科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局 09-8 平成25年度 概算要求の概要8. http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2012/09/20/1325571_08.pdf

日本学術会議
科研費成果公開促進費の改訂に関する学協会の意識調査. http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kiroku/1-250214.pdf

日本学術振興会
平成25年度科学研究費助成事業―科研費―研究成果公開促進費「学術定期刊行物」の改正に関する説明会. 2012-05-16.
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_120507/index.html
平成25年度科学研究費助成事業―科研費―研究成果公開促進費「国際情報発信強化」及び「データベース」の公募に関する説明会. 2012-10-09. 
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_120901/index.html

SPARC Japan
永井裕子. 日本の学会誌とは何か−科学研究費補助金公開促進費学術定期刊行物. SPARC Japan News Letter. no. 11, 2012, p. 5-10.
第3回SPARC Japan セミナー2012「平成25年度 科学研究費補助金(研究成果公開促進費)改革」. 2012-07-25.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2012/20120725.html