研究シーズ2019情報メディア科学

物体の中を見る─散乱特性・情報を獲得するイメージング技術

佐藤 いまりコンテンツ科学研究系 教授

研究分野コンピュータビジョン/コンピューテーショナルフォトグラフィー/画像解析

研究背景・目的

私たちが普段見ている光は、大変たくさんの情報を含んでいます。光は、現実世界の物体に作用し、反射、屈折、吸収、散乱などの光学的過程を繰り返しながら伝搬します。例えば、散乱体を多く含むような生体組織の顕微鏡観察において、光は散乱粒子に繰り返しぶつかり、そのたびに吸収と散乱を繰り返します。その場合、透過光と散乱光の重ね合わさった情報が観測され、散乱の影響により不鮮明になってしまいます(図1(a)(b))。従って、透過光と散乱光を分離できるならば、染色を行わずに、吸収スペクトル等の組成情報を正しく計測できるようになります。また、物体内の光の伝播の様子を画像として捉えることができれば、物体内部の光が作用している物理的特性等を推定することができ、実世界を理解することに役立ちます。

研究内容

光源のパターンとカメラを組み合わせた撮像技術により、物体の組成情報や光の伝搬等の物理的特性を解明する技術を研究しています。高周波照明を投影し、かつ照明とカメラのそれぞれについて、焦点が合っている状態と焦点ぼけが生じている状態の違いを利用することで、透過光と散乱光を分離した顕微鏡観測が可能になります。(図1(c))。高周波照明の明暗の変化時における、透過光(合焦)と散乱光(合焦および非合焦)の観測の変化に注目し、厚みのある試料の全ての深さの光が重ね合わさった観測から透過光と散乱光を分離できる仕組みです。また、通常の可視光光源とカメラを用いて、物体表層内の光の拡散や散乱による伝搬過程の可視化も可能にします。物体内の光の伝搬距離に着目し、ある半径のリングライト下と、それより少し大きい半径のリングライト下の画像同士の差分は、光の伝搬距離がある距離区間に限定された画像になることを示しました(図2)。

産業応用の可能性

生体組織の非接触・非侵襲イメージングによる構造や機能解析が非常に期待されていますが、複雑な構造で複雑な内部散乱を生じることから、観測光成分を詳細に分離することは容易ではありません。詳細な組織ごとの吸収や散乱情報を獲得できる本イメージング技術は、染色不要なことから生細胞へのダメージ回避に加え、物品検査等様々な分野の計測分析にも汎用できます。

また、光の伝搬過程が可視化できることは、物体表層の構造の推定に非常に有効ですが、物体表層内の光の伝搬過程や色は物体表面を見ただけではわかりません。本イメージング技術により、物体の内部を切らずに、通常のカメラと光源で撮像するだけで、光の伝搬過程や色の復元も可能にします。なお本手法は現在特許申請中です。

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図1 透過光と散乱光の分離観測
例えば、散乱体がなければスケールは鮮明に観測可能(a)だが、散乱体が多いと不鮮明になる(b)。本顕微鏡システムを用いた透過光と散乱光の分離手法により、従来計測が難しかった詳細な生体組織の散乱係数や吸収係数の計測が可能になる(c)。

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図2 リングライトによる光の伝搬過程の可視化
通常照明の投影像(左)、リングライト照射の様子(上段)、各半径のリングライトに照射された画像(中段)、光の伝搬距離がある特定の距離区間に限定された画像列(下段)。

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