目次へ

図書館情報サービスにおける国際協力活動に関するワークショップ-1
Workshop on International Cooperation in Library and Information Services-1
軽井沢国際高等セミナーハウス 1999年8月30日(月)―31日(火)
International Seminar House for Advanced Studies, Karuizawa, August 30-31 1999

開発途上国に対する協力と図書館情報サービス
International Cooperation to Developing Countries and
Provision of Library Services

鈴木 秀幸 (Hideyuki SUZUKI)
国際協力事業団

1 はじめに
2 国際協力事業団の概要
3 国際協力事業団による情報発信
3.1 先進国・国際機関に提供する情報
3.2 開発途上国に提供する情報
4 図書館の情報サービス

1 はじめに

 国際協力事業団では近年先進国や国連、世界銀行などとの事業実施における連携強化の必要性が指摘され、連携を効果的に実施するためには、相互に事業実施の手法を理解するとともに、それぞれの得意とする分野を分担していくことが重要との認識から人材の交流や情報の交換が盛んに行われるようになってきた。

 また途上国諸国からは日本の援助方針や他の国々での援助経験、成果、日本国内での技術研究など援助情報のみならず、日本における企業のマネージメントシステムや意志決定の仕組み、政府の役割や制度等について、広く情報の提供が求められている。

 このような中で、事業団の情報発信機能を強化するために様々な試みがなされており、図書館も従来の書籍資料の管理人からサービス重視の情報プロバイダーへ、閉鎖的な空間から壁のない図書館へ、念のために備えておく図書館から必要な物を必要なときに提供できる図書館へ、また国際協力・交流の拠点としての図書館へと脱皮しつつある。電子情報の普及と拡大によって 集計加工などの手作業によらず、常時必要な情報が発信し得るような体制が構築されていくことが予想される。

Top

2 国際協力事業団の概要

 国際協力事業団は1974年に国際協力を一元的に実施する機関として、外務省の傘下に設立された。海外技術協力事業団、及び海外移住事業団の行っていた技術協力事業と海外移住事業を引継ぎ、更に財団法人海外貿易開発協会の業務の一部と海外農業開発財団の全ての業務を引き継いで発足した。

 国際協力事業団の事業は発展途上国の人材を日本に受け入れる研修員事業、日本人専門家を途上国に派遣する専門家派遣事業、機材施設等を提供する事業を中心に、日本の若い青年をボランティアとして派遣する事業、移住者支援事業、民間企業の途上国進出を支援する事業などからなるが、中心は途上国の人づくり及び経済社会の基盤づくりを支援する事業である。

 予算規模は1,851億円で、設立当初の7倍近くになっている。研修員の受入は年間11,0 00人、専門家の派遣は3,050人、ボランティアの派遣は1,153人と設立当初より5-6倍に伸びている。援助対象地域はアジアが40%、中南米が20%、アフリカが15%、中近東が9%、大洋州が3%、ヨーロッパが5%となっている。最大の被援助国はインドネシアで120億円、ついで中国の100億円、タイ90億円、フィリピン80億円と続くが、これら4ヶ国で援助量の約3割を占めている。

 国際協力事業団は、本部の他、20の国内機関、56の在外事務所からなり、定員1217人の内334人が在外、219人が国内機関、664人が本部で働いている。

 なお、国際協力事業団以外の政府の技術協力予算で事業を実施している機関として、国際交流基金、日本貿易振興会がある。

Top

3 国際協力事業団による情報発信

 国際協力事業団は日本の技術協力事業について途上国、先進国に理解を深めてもらうとともに、人的、資金的、物的なリソースを効果的に活用するとの観点から情報発信を実施している。情報の提供対象は、先進国・国際機関および開発途上国であり、国際協力総合研修所(図書館)はこれらを有機的に結びつける情報システムの核として位置づけられる。(図-1「研究支援のプロセス」参照)

3.1 先進国・国際機関に提供する情報
 これまで欧米先進諸国の間では開発援助に関する情報交換が行われ、日本もこれら情報の一部提供を受け、援助の効率化による事業の改善を図っていたが、日本側から提供する情報はごく限られていた。共同プロジェクトの実施や政策対話の促進のためには、日本側から広く英文情報を提供することが求められ、このような状況のもとで1985年度に事業団は「先進国主要援助国機関情報管理提供システム調査」を実施、その結果、カナダ国際開発研究センター(International Development Research Centre, Canada)のデーターベースとネットワークを結ぶこととし、関連情報機器を含め導入した。

 同ネットワークは先進国65機関を含む世界137機関を結び、書誌情報を処理するために開発されたデーターベース管理システム(MINISIS)を利用し、アメリカの国際開発科学技術委員会(BOSTID)、ドイツの適性技術情報交換局(GATE)、スウェーデンの国際科学基金(IFS)、オランダの国際協力大学基金(NUFFIC)、スウェーデンの途上国研究協力事業団(SAREC)などが開発に参加した。また開発後に国連大学(UNU)やアメリカ国際開発庁(USAID)がグループに参加した。データーベースには、プロジェクトの案件名称、協力期間、援助金額、援助相手側実施機関、援助概要、キーワード等が入力される。

 国際協力事業団は以下の資料を参考として、これら情報項目に入力している。

  1. 事業団年報(和・英文)
  2. プロジェクト概要表
  3. プロジェクト別経費実績
  4. 関連報告書(事前調査、評価調査)
  5. 刊行資料目録

 資料を転記するだけの機械的な作業で埋められる項目は限られており、かなりの項目は関連報告初等の個別資料をあたらなければならない。

 記入されたワークシートに従って、国際協力事業団データベースシステムに入力、ハードディスクに蓄積し、定期的にカナダ国際開発研究センターに送付している。

 その他国際協力事業団作成の研究誌(英文)、年報(英文)の送付を行っている。

Top

3.2 開発途上国に提供する情報
 事業団が開発途上国に提供する情報は、在外事務所を通じて援助関係機関、大学等研究機関、中央図書館などに発信される場合と、日本国内にある国際協力センターを通じて来日する途上国の研修員に配布される場合の2通りがある。

 このほか、途上国に派遣される専門家やボランティアの活動を支援する目的で配布される英文の情報誌や、途上国を訪問する調査団等が技術移転や調査のために持参する資料なども相当の割合を占めている。

 情報の種類は技術情報が大部分を占めるが、近年技術支援の内容がソフト化してくるにつれ、日本の社会教育制度や日本人の考え方、倫理・規範・文化等関する情報に対してもニーズが高まってきている。専門家やボランティアの技術協力は彼らが有する知識や機械に対するノウハウの移転と単純に考えられがちであるが、これらの技術が受容され、定着していくためには、技術を生み育てていった土壌、つまり日本の文化、倫理や規範までを含めた制度的要因について、途上国の人々に理解される形で提示していくことが重要である。

3.2.1 在外事務所を通じた情報
 在外事務所を通じて発信される情報は、帰国研修員に対するフォローアップを目的とした日本の技術や社会を紹介したものや図書館や研究所、大学等に配布される英文の日本紹介用の雑誌、国際協力事業団年報(英文)等である。来日する研修員に対しては事前に、日本文化紹介用の小雑誌や簡単な日本語のテキスト、日本滞在中に困らないように最低限必要情報を集めたビデオを上映している。また調査団が作成した英文報告書は関係機関に限定配布される。

 技術支援の一環として、日本で市販されている英語版のビデオ教材、テキスト等も相手国の要請に応じて在外事務所を通じて送付している。在外事務所は途上国に対する情報拠点(収集及び提供)として、今後ますます機能強化を図っていく方向にあるが、事務所内にある図書資料室を拡充し、援助の効率的実施および援助活動の広報活動のために活用していくことなど課題も残されている。図書資料室には資料を保管する書棚だけでなく、海外情報協力の一環として作成されるデータパッケージの閲覧ができるよう、コンピューターを配備するとともに、図書資料配付先の登録管理など図書業務を担当する専任の司書を配置する事がのぞましい。

3.2.2 国内機関による情報
 研修員の受入事業やボランティア事業を実施しているセンターや訓練所はそれぞれ図書館を有しているが、前者がこのうち途上国研修員に対する情報発信を実施している。各センターはそれぞれ異なる研修コースを分担して実施しており、センター毎に分野特性を有している。そのため、センター図書館に所蔵される図書は研修員受入分野の専門図書を中心に和書、洋書、雑誌、地図、AV、CD-ROMなど2万3千点を有している。研修員は日本語を全く話さないか、簡単な日本語を習得しているかで、日本に関する情報は英語や西語に訳された図書を中心に利用されている。各センターには1-5名の司書が配置されている。

 これら国内機関は来日する研修員に対する情報提供を主な業務としているが、地域住民にも情報発信していくことで、地域が国際協力に参画し易い環境を構築していくことが検討されている。また、国際協力総合研修所図書館や各センター図書館同士の協力連携を推進していくために、レファレンスシステムの強化や横断的な図書検索機能の導入していくことも必要である。

Top

4 図書館の情報サービス国際協力

 総合研修所図書館は1981年に総務部図書資料室として発足し、1988年に図書館に改名された。事業団が作成した各種刊行物、専門家や調査団が収集した資料、その他国際協力に関連する内外の資料を収集保管しており、事業団の職員や専門家、開発途上国からの研修員、国際協力関係機関、大学等に対し情報提供サービスを実施している。

 主として事業団の役職員が事業を実施していく上で必要な情報を提供することを目的としているが、国際協力に関心を持つ一般国民のニーズにも対応するための体制を整えており、情報公開の拠点としても重要な役割を果たしている。

 情報技術の進歩にあわせ、外部オンラインデーターベースの活用などを含め、マルチメディア情報を整備するとともに、インターネットを活用したレファレンスサービスを行っている。現在は刊行物目録の電子化を図り情報の共有化、迅速な活用、検索サービスの向上を図るなど伝統的な図書館から、情報の発信機能を含めた情報センターとしての機能を有するようになってきている。

 以下組織、施設、所蔵図書、情報収集・整理・提供業務、情報提供サービス、課題について述べる。

(1)組織

 図書館は、施設、資料、司書を有しユーザーにサービスを実施しているサービス部門と図書資料の収集、処理、保管、提供に関する方針を策定する企画情報戦略部門、図書館の運営管理調整を実施する管理部門から構成される。(図-2 「図書館業務」参照)

(2)施設
図書閲覧スペース 137.76F
受付・逐次刊行物 048.00F
コピー室 015.00F
OA機器室 24.00F
コンピューター室 024.00F
館内通路 124.00F
一般書庫 346.26F

(3)所蔵図書
1)図書資料

  1. 事業団刊行物事業団の報告書約32,000点、各種調査、プロジェクト、援助関連調査研究にかかる報告書類
  2. テキスト類資料研修訓練指導用に事業団が作成したテキスト類約15,000点、派遣専門家、受入研修員、青年海外協力隊員、移住者のために内外で作成されたもの
  3. 調査団収集資料調査団が海外で収集した資料約14,000点開発途上国の政府刊行物、調査関連資料など
  4. 一般図書和洋書を中心に国内外の本屋から購入したもの約34,000点国際協力、開発援助、技術移転などに関連した資料
  5. 移住関連図書旧海外移住事業団が収集した資料など約2,400点
  6. 任国情報シリーズ派遣専門家等海外に長期滞在するものを対象に、事業団が作成した任地情報で106ヶ国をカバー
  7. 逐次刊行物国際協力、開発援助、技術移転などに関連した雑誌類1,320タイトル

映像資料はビデオ、スライド等約1,100点
その他地図等を収集約15,000点

(4)情報収集・整理・提供業務
 情報資料の整理は図書資料管理・検索システム、光ディスクファイリングシステム(現在はCD-Rシステムに変更)、パソコン(ファイルメーカー等)情報資料に最も適した管理検索手段を選別し迅速的確な提供に結びつけている。 1997年度の整理件数は8,585件。内訳は事業団作成報告書2,624件、一般図書3 597件、テキスト541件、調査団収集資料1,762件、映像資料61件である。購入によるものは14%、事業団作成によるものは37%、海外からの収集や移管によるもの44%、で購入の割合が比較的少ないのが特徴である。国際機関資料の内アジア開発銀行資料は443件、そのうちアジアの占める割合は54%であった。IMF資料は184件、IDB資料は125件であった。

 国会図書館に対しては、1,346冊を納本している。

 事業団作成報告書はマイクロフィルム化して保存しており、28,630冊が既にマイクロ化された。年間で約1,800冊がマイクロ化されている。

(5)閲覧業務
 図書資料の閲覧は一般来館者も自由にできるが、貸し出しは事業団関係者官公庁、小中高等学校、短期・大学、国公立調査研究機関、専門図書館協議会加盟機関に限定している。

 閲覧貸し出し対象者数は年間7,428名、貸し出し資料数は25,394件である。このうち最も利用の多いのが事業団作成報告書・テキスト・調査団収集資料類で約60%を占めており、ついで一般図書40%である。閲覧者別では7,428名の内研修員の占める人数は13名で非常に少なく、一般来館者は28%、事業団官公庁関係者は約70%である。

 開館時間は平日10時から18時まで、土曜日曜国民の祝日は休館日である。

(6)情報提供サービス
 海外で活動している専門家等を支援するために、図書館の情報収集能力と既に蓄積された情報を活用し、内外から広く情報を収集し、分析加工整理して専門家に提供するサービスを実施している。専門家が必要とする情報とは、専門家のコア技術に関する文献、論文等の他、周辺技術や辞典、便覧、年鑑、カタログ、法令集等などである。主に事業団で作成した資料であるが、事業団で入手できないものは、外部より入手している。必要に応じ、データの加工も行っている。

 事業団が整備した刊行物、AV教材、調査研究報告書、などは技術移転情報カタログにまとめられ、専門家に配布されている。1998年度における情報支援件数は187件、内訳は文献50%、論文11%、事業団作成資料・テキスト18%、視聴覚資料8%、その他 13%である。外部機関からの収集としては、大学図書館、政府関係機関等である。

(7)課題

  1. 積極的な情報の提供海外の専門家や在外事務所に対する情報支援の強化を電子情報化を推進することによって行う。在外事務所の情報収集・活用機能を向上させ、途上国に対し必要な情報が迅速に提供できるようにする。また国内機関に対して所在情報の提供などの情報支援を行うとともに、所在図書の相互利用ができる体制を構築していく。
  2. 開発途上国情報関係者のネットワークの拡大当事業団が実施している国際協力の一環として途上国図書館関係者を研修員として受け入れ、日本の図書館業務や情報の電子化、コスト管理のノウハウ等について講義、討議を通じて図書館機能の改善・向上を目指す。

 先進諸国の最新の情報や技術を把握し応用することは、開発途上国における図書館管理や技術の改善のために必要であり、かつ関連分野における情報交換を可能にし、相互理解を深めることにもつながる。

 また途上国の図書館関係者が自国の図書館運営管理予算上の制約、技術的な開発の遅れや図書館業務の効果的な実施を支える周辺環境例えば、国内における出版体制が十分でないこと、情報関連機器・ソフトウエア供給体制が脆弱であるなど各国の実状を考慮した上で、ボトルネックを解消し段階的に改善していく計画を策定できるように支援する。

 日本で研修を実施することで、日本の図書館関係者と途上国図書館関係者のネットワークが構築され関係強化が図られていくことが期待される。

1 研究支援プロセス

2 図書館業務

Top